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世の中ってどこも一緒か

 ただ、ここで疑問に思う事がある。

 

 こんなに普通に北方まで来ることが出来るのであれば、この道が海路より使われていても良いのではないだろうか?


 乾季があるという事は雨季もあって、この辺りは通れないとでもいうのだろうか?


 しかし、それならばここに集落があるのは何故か。それも分からなくなる。


 そんな疑問を抱えながら、翌日は集落を出てさらに歩を進めた。


「ん?何か居る」


 僕はある事に気が付いた。


 それは何の変哲もない茂みに見えるのだが、その茂みで多くのナニカが蠢いている気配を感じた。


「ほう、さすがじゃのう。ワシも言われて初めて気が付けたわい」


 と、ミツヨシ様が言う。


「そう心配するほどのものではない。ただの小鬼の群だ」


 と、ヤーナが何でもない様に言う。


 幾分、街道からは外れた場所ではあるが、その気になれば簡単に襲って来られる絶妙な距離感にも思えた。


「この辺りの小鬼、賢いのね。ヤーナやエイナルの事が分かるから襲わないんだ」


 などとイナリまで言っている。


 イナリの言葉を受けてヤーナを見る。


「そう心配することはない。今、あ奴らは私ではなく、ヨイチ、お前が存在に気が付いたことで歩みを止めた。この距離で気付く様な相手を襲いはしないさ」


 という。


 北の部族がイナリやヤーナのように槍や長刀をよく使うのも、小鬼という魔物が理由だそうだ。


 弓は確かに遠距離では効果的だが、集団でなければ集団への対処は難しく、接近されてしまうと確実に個人戦闘術が必要になる。


 そのため、北の部族では弓使いでも槍術を身に着けている場合が多く、イナリやヤーナの様な槍術に特化した者が居る。


 対して森の部族の場合、魔物が少ない一帯に棲み、主に狩猟や討伐に弓を使う。小鬼のように数十という単位の群に襲われる環境ではないので、槍や剣などを嗜む者はほぼ居ない。


 その結果として、森の民は森の外にある世界への理解や感心が低く、ミツヨシ様や僕の様な極々限られた酔狂者しか森の外へ出ようとしない。


 その点、北の部族は小鬼や鬼へと対応が必要になり、それは普人族や鉱人との関りを増やすことになる。


 狩猟につかう弓だけであれば、そこにある柔軟性のある木、張力や柔軟性が高い蔓や糸を用いて作れるが、槍となると鉄が必要になり、上質な鉄製品を求めると鉱人へと行きつく。


 そうして北方から鉱人の谷へ至る道が生まれた。


 だが、北の部族の領域は鬼族の生息域とも重なるため、普人族が足を踏み入れると、小鬼の間合いまで気付くことが出来ないので簡単に襲われてしまう。


 個としては強くない小鬼も、集団となれば無視できない力を持つため、よほど大きな隊商でも組まなければ通る事は難しい。

 かといって、隊商を組んで運んでも、北の部族だけが相手では割に合わない。谷から北方の普人族が住む沿岸部へ至る最短ルートは海路と言う事であるんだとか。


「向こうも発見されたことが分かるんですか?」


 普通の魔物であればそんなことは気にせず襲ってきそうなものだが。


「奴らは賢い。我々の行動を逐一観察し、襲いやすいか否かを見ている。小鬼が主に襲うのは弱い小鬼の群か、ごく少数で活動する鬼だな」


 なんと、多くの場合は同じ魔物を襲うというのもなかなかに新鮮な驚きを覚える。


「そんなに驚く事?人が人と争うんだから、魔物同士も争うのが普通でしょ?」


 あっけらかんとそう言うイナリ。


 まあ、それはそうかもしれんけどさ。


「それが本来、自然の(ことわり)じゃよ」


 と、ミツヨシ様も言う。


「そして、自然と数が調整される。我々も自身の縄張りをはみ出さずに生活している。のだが、異常発生した鬼や小鬼が内部で調整しきれなければ、『魔王』という個体を頂点にして周りへと勢力拡大を図る」


 と、エイナルさんが小鬼を警戒しながら説明してくれた。


「偽王も本来は魔王の一種よ。ただ、魔王ほどの勢力を築けずに魔王の群に吸収されるのが普通ね」


 と、イナリが更に付け足した。


「じゃあ、アイツらはその群に入っていないから襲って来ないのかな?」


 そう、魔王が生まれ、スタンピードが起ころうというのに、暢気な話だから、おかしいと思ったんだ。


「そうよ。こんな森の限界点に居る群だもの。魔王もわざわざ吸収に来ないのよ。来ても自分たちの食料に困るだけになるわ」


 との事だった。


 もしかして、鬼族魔物の方が人間より賢いのかもしれない。或いは、自然のコトワリに従って、それを超える欲を抱かないのか?


「それは人より賢いかもしれんのう。『森の民』ですら、唄や伝承と言われる弓のウデがなければ今頃存在しとるまいて」


 ミツヨシ様もそう言って笑う。


 確かに、それはそうかもしれない。


 僕の生まれた森は豊かでなに不自由なく暮らしていける。少しの畑と森の恵みと獲物があれば。


 そんな森の恵みや奥地の巨木は人々に大きな益をもたらすからみんな欲しがってはいる。らしい・・・・・・


 しかし、森の民が強力であるため併呑できずにいる。という話を聞いた事もある・・・・・・


「南の森も北の森も事情は似たようなものだな。北には鬼が居るだけ『森の民』よりも安全だが」


 ヤーナがそう言って笑う。


 なんか、ミツヨシ様とヤーナって、仲が良いという訳ではないみたいだね。まあ、森の民と北の部族ならそう言うもんだが。


 エイナルさんがしばらく警戒し、僕も注意を払っていたが、他の三人はまったく気にしていなかった。良いのか、それで。


 そんな小鬼との遭遇が三度ほどあった夕方、次の集落へとたどり着いた。


 間に集落がなかった訳ではないが、ホントに小さなものばかりだった。


 昨日の集落やココは僕たちみたいな旅人を泊める宿が存在している。


 他の集落でも泊る事は出来るが、村長の家に泊めてもらう程度のものになるとの話だった。 

 

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