表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
31/40

まさかの事態に驚くしかなかった

 谷で買い出しとなったが、本当に凄い。


 見上げると高い崖と言うのは同じだが、ここの通路はしっかりした広さがあり、谷の間にしっかり深さのある川が流れている関係で、橋の数も多い。


 その橋がまた、空飛ぶお城の世界の谷を思わせる様相なのだから、観光気分になるなと言う方が無理だ。


 そんな谷の通りを歩いて必要な物を買う。大半はこれから谷を北上する時に必要な品々だった。


「山越えもあるからちょっとした登山装備も必要だ」


 というエイナルさんの話を聞いて、そんなものを持ち合わせていない僕やミツヨシ様は谷でそう言った類の店へと向かう事になった。


 そんな事をして、その日は本谷で泊り、翌日には谷を北へと向かった。


 当然の事だが、谷の両岸へと延びる橋や桟橋、脇谷へと向かう道など、複数の道がある。


「イナリ、そっちではないぞ」


 と、何度も呼び戻されているのに、やはりすぐに先頭を歩こうとしているのだから、気が逸っているのか、ただのポンコツだからか分からない。


 意気揚々と進んだ二日目は、街を出て集落らしきものを四つほど通過した。


 鉱山であろう横穴が複数みられるところもあったし、鍛冶屋の集まる集落もあった。


 脇谷が多数存在する周辺にはスパイダーが多いらしく、狩人の集落もある。


 こちらでもバウークの糸は利用されているが、カーボン化技術は伝わっていないらしい。


 狩人事務所を覗いたが、ここではデス・スパイダー狩りの依頼は無かった。


 そうそうお目に掛かれない上に、アレクさんのようにスパイダー糸の収集を難なくこなす狩人自体が希少であるらしい。


 スパイダーは狩れるけれど、一の収拾が出来ない僕たちは、わざわざ足を止めてまで狩りを受ける事はしなかった。


 そうやって5日も歩くとそこは既に地上の高度を取り戻したのだろう。巨大な虫を見ることが無くなり、虫が小型化した代わりに獣や魔獣が徘徊するようになっていた。


「鉱人の領域を出たぞ、ここからは登山になる」


 ヤーナがそう言って川沿いから脇の山へと登る道へと歩を進めていく。


「こんな所、通るんだっけ?」


 などとイナリは言っている。


「イナリが通ったのはもう一つ前の支流を上った湖だろう。シネッタへ行くならその方が近い」


 どうやら、これから向かうのはヤーナの属するカーマネン領らしいな。


 だが、たしかその魔王の目撃情報はシネッタではなかったか?


「最前線になっているであろうシネッタへ向かっても、何の準備も出来ずに戦列に加わる事になりかねん。まずは情報収集や我らの帰還を周知するためにもカーマネンへ向かう」


 と言うヤーナ。イナリを見るが、それでかまわないようだな。


 考えてみれば、つい7日前には地の底に居たはずが、今では登山をしている。


「ちょっときつくないですか?」


 僕がそう声を掛ける。


「そうか?なら少し休むか」


 どうやら脳筋には関係なかったらしい。


 と言っても、忘れの海の海抜は優にマイナス1000mあったのではないかと思う。そして、今や山登り中。

 そんなに高い山ではないと思うが、きっと谷底からの合計でならば2500mには達するだろう。


 あれ?


 北へ来たのに雪は無いのだろうか?


「雪?こんな北で雪が降る訳ないだろう。雪なんぞ忘れの海から南で降るものだ」


 あれ?


 北の部族って言うくらいだから雪深い所で生活しているものとばかり思ってたけど、全く違った。


 そうか、年中気温が高いからオーガみたいなでっかい生物が繁殖できるのか。


 ついつい熊の類を想像していたし、「記憶」を参考にして冬は冬眠でもするんだと勝手に勘違いしていた。


 森の部族にはおとぎ話としての魔王しか伝わっておらず、詳細は知らなかった。


 北方だから熊の魔物が配下の魔物を引き連れてくらいに想像していたが、どうやら違うらしい。


「魔王は魔王よ。鬼の頭目。配下に鬼と小鬼が居るの」


 と、当然だと言わんばかりのイナリ。


 ヤーナとエイナルさんもどう説明すべきか迷っているらしい。


「鬼というのは森で言えば猿の仲間じゃな」


 と、ミツヨシ様が説明してくれた。


 つまり、「記憶」にあるゴリラの類の魔物といった感じになるのだろう。


 なるほど、年中暖かい地域に生息しているゴリラか。それは強そうだ。


 そんな話をしながらも登山は続く。


 そして、周辺の風景が徐々に変わっていく。


 これまでは草や灌木程度であったものが、昼を過ぎる頃にはとうとう背の高い木が目立ち始める。


 それは森と言うほどに濃い訳ではないが、明らかにこれまでとは違っている。


「今は冬だから良いが、夏の雨が多い時期だと背丈ほどの草が生い茂るからこの道も見通しが悪くて通りにくくなる。夏であれば湖からシネッタへ抜ける方が距離はともかく、時間はかからないし安全だ」


 と、エイナルさんが補足する。


 なるほど、気温が低くなるわけではないが、草が枯れるから冬という認識なのか。


 これ、冬じゃなくて「記憶」にある乾季と呼ぶ方が正しいのかもしれない。もちろん、夏と言っている時期は雨が多いという事から雨季と言う事になる。


 つまり、ここは温帯ではなく亜熱帯か熱帯の気候という事になるのだろう。


 そんな疎らに木が生え、草が枯れて幾分見通しが良い道をどんどん進み、今日は宿のある集落に泊まるらしい。


 ここまで虫が主要な食品として食卓に並んできたが、この集落では肉や野菜が並ぶようになった。


 とうとう谷を抜けたんだと実感する瞬間だ。

 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ