出会ったやつはちょっとアレだった
北のヤツが唖然としているのに構うことなくシールドボアへと近づいて矢を確認する。
今回は最初と同じく羽根辺りまで残っているじゃないか。
ポロっとボアの体から取れる矢を見て考えてみる。
森の民が住む森には竹林が広がっており、木製の弓に比べてかなり性能が良い弓を作る事が可能だ。
さらに、矢に適した太さの笹が生えているのでそれを加工して矢を作れば木製の矢など比較にならない程まっすぐ飛ぶ矢が出来上がる。
ただし、問題が無いわけではない。
その大きな欠点として魔力含有による脆弱化が挙げられる。
なので、本来、矢に魔力を纏わせようモノなら脆くなった矢は目標を貫くことなく形が崩れてしまうだろう。
手で握れる石を投げればぶつけた獲物にダメージを与えるが、土塊であればただ砕けるだけでほとんどダメージを与えないのと同じだ。
この矢も本来ならばダメージを与えられるはずがない。
では、なぜ実行したのか?
だから、タンデム弾頭だよ。
僕がシールドボアにぶつけたのは矢ではない。矢に込めた魔力塊だ。
その魔力塊によって結界を突破する事を意図していた。正直なところ、体にぶつかればそこでも魔力が反応してダメージ出れば良いなだった。
イメージしたのはもう片方の記憶にある矢が壁を穿ちながら摩耗していく光景だった。ああなれば良いなと。
実際、その矢を見て確信が持てた。イメージに似た作用が起きているんだと。
ちなみに、魔力塊が存在しない矢羽根以降は脆さからちぎれて取り残されたんだと思う。
そうなると、先ほどの二頭目だが・・・・・・
「ちょっと、どういう事?」
どうやら思考している間に北のヤツが近寄って来たらしい。
まじまじと矢を見てそんな疑問の声を上げる。
「見ての通りだ。『森の矢』が魔力で脆くなるのは知っていると思う。だからと言って魔力塊を相手に送り込めない訳じゃない」
そう言って血も流れないイノシシの穴を示した。
それをじっと見つめている。
そして、おもむろにこちらを向いた。
「コレ、『森の民』が考え出した技なの?」
そう聞いて来た。
残念ながらそうじゃないので素直に答える。
「だったらこんなところで遊んでないで助けに来たら良いでしょうが!」
などと意味不明な事を叫ばれてしまった。
何を言っているのか分からなかった。
「ハァ?『森の民』の話は聞ていたけど、ホントに薄情で助けに来ようって気が無いんだね」
と、さらに訳が分からない事を言い出す。
「何?興味すらなかった?そうでしょうね。なんせ、北の部族なんて眼中にも無いでしょうからね!」
と、勝手に怒り出す。
「そんなもんでしょ。わざわざこんなところにまで来て救援に来てくれそうな人手を探そうとしてるのに、暢気な話だね!」
と、勝手にまくしたてるので一声かけておく。
「そもそも、何を言ってるのか分からないんだが?僕の村には北の部族が困っているなんて話は届いていなかった。何かあったのか?」
そう聞てみたが、まあ、全く効果が無いのは間違いない。ただ睨まれただけだった。
「まあ、そんなことをここで話してても危険だ。ギルドにシールドボアの襲撃を知らせに行こう」
僕がそういうと、それにも言いたいことがあるらしい。
「アンタ、簡単に倒してたでしょうが。全部倒せばどうなの?逃げるしか能がないの?」
などと言ってくる。
何なんだ?この北のガキは。
「お前みたいなガキと喧嘩をする暇はない。ついでに言えば、さっきので魔力は限界だ。次を撃てるかどうかわからない」
そう伝えると何だか呆れが混じった顔でこちらを見る。
「魔力切れ?ホント、貧弱。第一、アンタとアタシは歳も違わないと思うんだけど?」
そう言って来る。
えっと。僕何歳?
そう思って考えてみる。
記憶の中で年齢がふたつあって、片方は30を超えている。
もう片方は・・・・・・
「そっか、僕も15だった」
そう、目の前の中二病と違わない歳だろう。が、もう片方の記憶がどうにも邪魔して相手が幼く見えてしまうんだ。
俺の年齢を聞いて我が意を得たりだったらしい。
「あたしの方が年上ね。17よ」
精神年齢はマイナス5歳できくかどうかわからんがな、コイツ。思ったが口には出さない。精神年齢30歳の僕は大人だから。
とりあえず聞き流して先ほどの冒険者のもとへと足を向ける。
「もう死んでるよ。アタシも動くに動けなかったから何もできてない」
目をそらしながらそう言われた。
「そうか。なら、ギルドへ急ごうか」
口喧嘩を終わらせた僕たちは辺りを警戒しつつ森を抜ける様に走り出した。