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伝統とは?って聞かれると、実は困る

 魔力矢が個々の魔力特性に合わせて製作されていく。


 その最中にミツヨシ様とエイナルさんの弓も完成した。


 エイナルさんのそれは、まさに西洋弓と呼ばれている20世紀後半以降の現代弓であった。


 この世界における。いや、科学や力学による構造解析を利用する前の弓と言うのは、材質は何であれ、同じ様なモノであった。


 全体を木や竹で成形し、しなりを補強するために革や骨、或いは部位や柔軟性の違う材料を張り合わせて作られている。


 ところが、エネルギー効率という点では、全体をしならせるのではなく、反り返った両端の短い部分からエネルギーを得る方が良いと分かって来た。


 その結果、ヨーロッパではアーチェリー競技において、手で持つ柄の部分と弓のしなる部分を分離し、別の部品として構成するようになった。


 もとは一体であった構造から、部分の役割に合わせた材質、構造に特化させた結果だ。


 競技で使われるボウの多くは一体構造のワンピースボウよりも役割別の部品を組み上げてたテイクダウンボウが主流になっている。


 その構造をそのままこの世界に出現させた。


 と、僕には見えるのだが、ヨシフさんの見解は違う。


 彼の前世世界では弓が主力武器であり、当然ながら弓も破損する事が多かった。


 その時、その場で直して戦線復帰が可能なように分割化(ユニット化)が進んでいたという話だった。話を詳しく聞くと、地球では既に銃が席巻していた18世紀以後の技術の多くが存在、ないしは考案されている世界であったらしい。

 見方を変えると、ギリシャやローマ帝国の時代がもう少し続き、物理学が発展した世界観なのかもしれないが、地球の歴史にどこまで当てはめて良いのかは分からない。


 そんなテイクダウンボウの形態をした弓をエイナルさんは嬉しそうに眺め、弦を引いて満足げだ。


 そして、もう一方のミツヨシ様の弓はと言うと、僕の物と同じく、基本はワンピースだが、テイクダウンボウのライザー(持ち手)に当たる部分をガッシリと軽金属で挟み込んであり、上下の湾曲部分より先には焼成布(カーボン)を巻き付けて補強されている。


 こちらも弦を引いて、その出来に満足している様だ。


 ふと、本当に前の長がこんなことをしていて良いのかと疑問に思ってしまった。


 そんな姿を察したらしいミツヨシ様が声を掛けて来た。


「ヨイチ、何やら不満があるようじゃな」


 そう言って僕を見る。


 不満と言う訳ではない。ただ、それで良いのかと思っただけだ。


「今の若いモン共は、やれ『森の伝統だ』などと言うが、この弓のどこにそれが抜け落ちている云うのだ?」


 と、よく分からない事を聞かれた。まったく分からん。


「森の弓と言うのは生まれた当初から、この形、構造だったと思うか?」


 と聞かれると、実は知らない。その為、首を横に振った。


「そうだ。まるで違った。木よりも柔軟性がある竹を何層にも張り合わせることで、木弓を超える柔軟性や耐久性、操作性を長年かけて突き詰めた結果が今の『森の弓』だ」


 なるほど、たしかにそうだろう。


 生み出されたその時に完成していた訳ではない。


 長年の改良の結果として、今の弓がある。


「では、これはどうだ?」


 そう言って、ヨシフさんによって補強された弓を見せる。


「行き詰まりを見せている弓の改良の新たな方向性という事でしょうか」


 この流れならばそう言う事になるだろう。


「そうじゃ。なぜ、使う材料が竹だけと決まっておるのだ?いや、それどころか竹にも種類がある。ワシの弓はあまり使われんハイトを組み合わせて柔軟性と耐久性を上げた代物じゃ。それ以上を求めるのであれば、素材から変えていく必要が有ろう?」


 確かに、それは全く間違っていない。


「それを、今の若いモン共は今の弓を『森の弓だ』と形に嵌めてしまい、それ以外の物から目を背けておる。竹を使った弓の性能はそろそろ限界じゃ。より高い性能を求めるのであれば、こうした新技術の導入が要ろう。もしかすれば、エイナルの様に形さえ変えてしまう必要がな」


 と、嬉しそうに弓を引いたり眺めたりするエイナルさんを見た。


 そして、僕らの視線に気づくエイナルさん。


「おや?『森の民』には不自然な弓であったかな?」


 そう聞き返された。


「いや、純粋に弓としての性能を求めれば、一切の材質すら変えてしまい、その様に構造から一新する必要があろうと話していたところじゃ」


 と、ミツヨシ様が語り掛けた。


「でしょうな。我らは今後も魔王の脅威に備える必要があるため、形式優先でその場でとどまっておることは出来ないので、いや、相手を考えればなりふり構ってはいられない」


 という。


 つい最近倒したばかりだというが、それはあくまで「200年ぶりの魔王を倒した」にしかすぎず、日常的に出没する(オーガ)の脅威は常に続くという事らしい。


 その場に常にエイナルさんの様な名手が居れば良いが、そうとは限らない。ならば、常に弓の性能を追求しつづけ、誰もが平均的に能力向上を図る必要がある。


「我ら『北の部族』は一つの条件で腕を競い合っている暇はない。昨日より今日、今日より明日、誰もがより良い弓を求めている」


 と言い、「おっと、2人を貶めるつもりではない」と付け加えた。


 それを聞いたミツヨシ様は首を横に振る。


「なぁに、気を使う必要はない。実際そのとおりじゃ。獣の強さは今以上には変わらん。我らは実のところ、これより強い弓など求めておらなんだ。ワシやヨイチの様に新たな強者と対峙したいという奇特な者を除いてはな」


 たしかに、そうなのかもしれない。



まあ、そう言う側面もあるだろうと思う訳で。


剣道を五輪競技になんかしたくないって人は多いらしい。


柔道みたいに「日本の伝統」から外れて「スポーツ」として独り歩きしてみたり、空手の様に趣旨をどこか間違った体操競技化してしまった事を思えば、「らしくない」という意見はまさにその通りだとは思う。



まあ、それって車のレースで言うとワンメイクになるのかな?皆が同じ土俵でウデのみを競う訳だから。

F1に代表されるように、資金力や技術力があるところと違って、下位チームだといくらドライバーだけ連れて来ても勝ち切れないからね。「所詮、金や技術があるところの道楽や宣伝」と言われてしまう。今の柔道なんかそれに近いだろうしね。人によっては。


スキージャンプみたいに板の長さが変わったり、スケートみたいに靴の性能を規制されると特定の人種や国に有利であったりみたいなことへの反発も含んでさ。


でも、その「こうあるべき」って、いつ決まった事なの?


って考えると別の事も可能になるのではと思う。


スポーツチャンバラなんて良い例だよ。


剣道はどうぞ、伝統や形を守ってください。ケンジュツやサムライの宣伝はスポチャンでやります。で、良いのではないかともね。


弓道にそう言う動きは出て来んのだろうか?構造替えて、新たな競技を立ち上げるのもアリに見える。


アーチェリ―というと、五輪競技のターゲットアーチェリーしかない様に思うけど、実は多彩で狩猟をゲーム化した3Dアーチェリーやオリエンテーリングの要領でチャックポイントごとに設置された的を射て得点を競うフィールドアーチェリーと言うのもある様だ。


弓道もただ静かに的を射る事から、犬追物なんかを参考にした新たなあり方というのが、ん?私は無理だよ、そんなことをやる組織を作る行動力に欠けるからwww

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