視えない敵を攻撃するのって、勇気要るよね
弓を引き絞って相手の出現を待った。
先ほどの攻撃から大体の方角に当たりを付けているが、そこに居るのかどうかは分からない。
3人を見ると、相手の位置はやはり分からないらしい。だが、追われている事だけは分かるのだろう。そんな感じがする。
デス・スパイダーの時の様にありのままを視る。
大抵これで視えてくるはずなのだが、視えない?
全く分からない。
どんどん3人が近くなり、ハッキリ顔が分かるところまで来た。
「お前ら、逃げろ。何かわからない奴に追われている」
ヤーナがそう叫ぶ。
が、僕はそれでも探し続けた。
3人がどんどん近づく。
そして、ようやく分かった。
これは何か確かな存在がある訳ではない。得体のしれない威圧感や敵意だけは感じ取れるが、だからと言って全く場所が絞り込めない。
そんな事をしていると、また地面に亀裂が走った。
「下か?」
アレクさんがそう言うが、きっとそうじゃない。そして、上でもないと思う。
「ちょっと、どうすんのよ!」
イナリも怯えだした。
もうすぐ3人と合流できそうな位置だ。
「逃げないならどうなっても知らないからな!」
ヤーナ達が横を通り過ぎる。
「ちょっと!」
イナリが叫ぶが、僕は動かなかった。
「あ、居なくなった」
僕はふとそう口にした。
威圧感や敵意はまだ残っているのだが、居なくなった。或いは遠ざかった感覚を感じ取れた。
そして思う。
本当に居なくなったんだろうか?
あのまま3人と帰ればそれで良かったのだろうか?
そう自問自答し、前を睨め付けるが、何も見えてはいないし、視えない。揺らぎすら知覚できない。
「おい、さすがにやべぇぞ。撤退だ」
アレクさんもそう言った。
ホントにそうだろうか。
僕はそれが疑問で弓を降ろす事が出来ない。
落ち着くために視線を前から外して辺りを見回してみた。
特に異常がある訳ではないのだが、それでも疑問は消えず。それどころか膨らんでいくばかりだった。
どれほど遠くに居るのだろう?まるで見えない。
「ヨイチ!固まってないで撤退だ!!」
アレクさんがまた叫ぶ。
「あ、アタシは知らないからね」
イナリも完全に腰が引けている。
だが、なぜだろう。動くなと内なる何かが囁いて来る。
「ごめん。動くなって囁くんだよ」
そう口にした。
「何言ってんの!動けないだけでしょうが!」
イナリがそういきり立つ。アレクさんのため息も聞こえる。
それでも動こうと思わなかった。
そして、もう一度周囲を見る。
そして、あの3人はどうしただろうと後ろを見た。
「なるほど」
僕の動作でアレクさんも後ろを見たんだろう。
「何だよ、何が『なるほど』なんだ?」
アレクさんでもわからないらしい。そんな、極僅かな違和感がそこにあった。
そして、僕は弓を引き絞ったその姿勢のまま、後ろへと向き直った。
「ちょっと!あんたバカすぎるでしょ、気でも狂ったの?」
どうやら、イナリは本当に動けなくなっているらしい。
僕は真正面からソレを視て、確信した。そこに居ると。
そして、一度姿勢を解いて、新たに3本矢を取り出し、すぐに番える事が出来る様に右手に持ち、再度引き絞った。
迷いはない。
矢に魔力を流す。
このヨシフさんの矢であれば、以前使っていた竹矢の5分の1程度の魔力で十分機能する。
スパイダーやフライングドラゴンもその程度の魔力で倒す事が出来た。
だが、コイツはダメだと内なる何かが囁く。
「ちょっと待てヨイチ!アイツらを狙う気か!!」
アレクさんが気付いて怒鳴る。
明らかに狙いは走る3人の後ろ姿そのものだ。
しかも、込めた魔力は以前の竹矢並。下手をすれば掠っただけで人が死ぬ。マジックバーストの応用で、並んだ人間を串刺しに出来るかもしれない。
「待ちなさい!」
動けるようになったのか、力を振り絞ってなのか、イナリが前に立ちふさがる。
「退け。お前ごと射抜くぞ」
引き絞ったままそう脅すと、怯えた様に引き下がった。
「い・いくら何でも・・・」
何か言いたそうにしているが、それどころでは無い。気を緩めては狙えない。
一瞬のタイミングが訪れるのを待った。息をするのも煩わしい。
揺らぎとも言えない違和感が少し大きくなる。
そして・・・・・・
パン
ほんの僅か。視えた気がした。
その瞬間を視逃すことなく矢を放った。
「お前、何やってんだ!」
アレクさんがそう言ってくるが、構わず二の矢を番えて構える。
その最中に閃光が走った。
「え?」
「ハァ?」
二人が呆気にとられている。だが、まだだ。
もう一度、先ほど同様に魔力を流し込んで引き絞る。
だが、そこにはまだ姿が見えない。
「何だよ。空中で矢が何かに当たったのか?」
アレクさんも何があるのか探すが見えない様子だ。
僕にもまだはっきりとは見えていない。
だが、先ほどの様な違和感ではなく、矢を放った瞬間程度には視えるようになった。
多分、こちらへ振り向いたのだろう。
「え?何?なんで?」
イナリが混乱している。
それも仕方がない。奴がこちらへ敵意を向けたのだから。
そんなイナリに意識を向けてしまい、見逃すかと思った。視えていたモノが一瞬消失した。
だが、慌てなくてよかった。居る事は分かる。どうやれば視えるかコツらしきものも掴んだ。
今、腕を振り上げようとしているのかな?
大体のサイズをイメージして、倒せるであろう所へと2射目を放つ。
思ったよりも接近されていた。そう間を置かずに閃光が走る。
「何だよコレ」
アレクさんがそう呟く。
「透明カマキリ?」
イナリもそう呟いた。
僕らから200m程度先に薄く姿を現したのは、プレート・マンティスの3倍はあろうかという巨大カマキリだった。
どうやら1射目で後ろ脚を叩けていたらしい。
そして、2射目で鎌を片方失っている。
姿が見えるなら慌てる必要はない。
番えた3射目を迷わず首の関節へとたたき込むと眩い閃光が走り、首が飛ぶのが見えた。
さらに番えてワームへと対処する。
最悪の場合、ワームが体を乗っ取りまた動くかもしれない。