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だからと言って分かり合えるとは限らない

 フライングドラゴンが落下して騒いでいる所へと向かった。


「何だ?小僧」


 そんな不審な声と視線が突き刺さる現場で、僕が射墜としたことを伝え、謝罪した。


 それでも不審そうに見ている人たちではあったが、弓を持つ姿に何処か納得したのだろう。疑いの目を向けながらも冷静になっていく。


「ほら、通してくれ」


 そう言って聞き覚えのある声と共にアレクさんがやって来た。


「ヨイチだったか。光って落ちるコイツが見えたからまさかとは思ったんだが」


 そう言って検分している。


「さすがだな。それに、ヨシフ特製の矢も影響してるんだろう?」


 そう言うので頷いた。


 辺りにもヨシフと聞いて緊張が走る。何か一言言ってやろうという顔をしていた野次馬が数歩引いた。


「これ、任せて良いですか?ヨシフさんの工房に戻らないといけないので」


 そう言うと、頷くアレクさん。サッと道を空ける野次馬。どんだけ恐れられてんの?ヨシフさん。


 

「待って。ちょっと、そこダメ」


 なんかイナリが美人か美魔女かくらいの人に弄られている。視線で助けを求められたが、関わらない方が良さそうなので、見なかったことにしてヨシフさんのもとへと向かった。


「どうだった」


 ヨシフさんは開口一番そう言った。


「入射角がギリギリでした。あの矢であの速さが無ければ弾かれていたでしょう」


 そう言うと、納得したらしい。


「計算の範囲内だ。その弓。材質の関係もあるが無駄が多い。大型の弓で長い矢を射ることで射程を得るという理屈は分かる。短弓で強さを増して軽い矢を飛ばすよりも大型の獲物を狩れるだろう」


 そう説明してくれた。


 ただし、大型であるがために大きくしならせる必要があり、反発力がそのまま矢に伝わらず、弓の復元力として消費されている無駄も大きいと指摘された。


「弓がデカければ遠くへ飛ぶとは限らん。短くても飛ばす工夫は出来る。材料と用途の違いだな。どちらが一概に優れた弓とは言えんだろう」


 そう評したヨシフさん。


 ただ、アーマード・マンティスを対象にする場合、必要なのはクロスボウ。いや、より大型のバリスタを用いるべきだと言い出した。


「ただし、何にでも例外はある。コレがそうだ」


 そう言って急造したコンパウンドボウを指した。 


「コイツはただ力を軽減しているだけではない。大きな反発力を無駄なく矢に伝えるならば、長すぎる弓は短所だ。だが、あまりに軽い矢、短い矢では飛距離が知れている。引く強さが弱いはずの弓がクロスボウより飛距離が出る理由はそう言う事だ」


 と言って、ふたつめに作った試作品を指す。


 なるほど。なぜ大きさ自体はあるにもかかわらずしなる部分が小さいのか。その答えはそう言う事らしい。

 長い矢を扱え、それでいて復元力に力を取られにくい構造。エレベーターの開発で何か苦労した事が今生きているんだとうかがえるが、あまり聞かない方が良さそうだ。


「しかし、こんな構造の弓を知っているとなると、お前は何者だ?他人の事は言えないが」


 と、ヨシフさんに睨まれた。


 さて、どうすべきか。


「いや、言わなくて良い。俺もそうだ。ドミトル翁もそうだっただろう。だが、どこの誰であったか。そんなモノは関係ねぇ。それにだ。お前と俺が同じ世界、同じ時代を生きた保証はねぇ。話が噛み合うとは思えねぇからな」


 なるほど。ヨシフさんも「前世記憶」持ちか。当然、カーボン繊維なんてものを開発したドミトルさんもか。


「さ、そんな話は終わりだ」


 そう言って、セルゲイさんやクニャージさんに見せた紙を見せてもらったが、数式や図形ばかりでまったく理解できなかった。が、イメージは出来た。


「コンパウンドボウにパワードスーツですね。ただ、パワードスーツが作れるなら、銃も作れませんか?」


 それを聞いたヨシフさんは、フッと嗤った。


「話が噛み合わねぇと言ったよな?あんな風で小石を飛ばす玩具が使えるというのか?」


 なるほど、話が噛み合ってない。


「そうだな。使えないとも言えないか。ホイールボウの様な複雑な弓が普及したんだ。どこかで一つ道が違えば、そんな世界があったのかもな」


 そう言って僕を見た。


 彼の「前世記憶」世界では、ホイールボウ。つまり、コンパウンドボウが普及し、弓兵の主要武器であったらしい。

 その有効射程は優に400mを超える事から、18世紀以前の銃と大差ない物といえそうだ。複雑な機構も銃がそうなったようにユニット化されて整備や修理が容易になったらしい。そんな世界もあるんだな。


 という訳で、ヨシフさんはコンパウンドボウの設計なら問題ないという。


「分かりました。そうですね。僕の『記憶』では銃を実現できそうにありませんし、なにより、マジックバーストを仕込む方法が分かりません」


 そう言うと、ヨシフさんが手を振った。話は終わりなんだろう。


「ちょっと!助けなさいよ!」


 やかましいのがやって来た。


 何をやっていたのだろうか?


「あの人に体を弄り回されてたのよ!恥ずかしい事言わせないで」


 などと言っている。しかし、なぜこのポンコツ令嬢のパワードスーツが必要なんだろう?


「アンタ、馬鹿?カマキリ系の虫って倒しても厄介な糸虫が出て来るでしょうが。相手はソイツすら俊敏らしいのよ。アタシが狩るしかないじゃない!」


 ああ、なんか言いくるめられたっぽいな。そうか、やはりハリガネムシは居るんだ、この世界のカマキリも。

コンパウンドボウは物理法則や力学の理解や研究が進んだから開発されたスポーツ用の弓だって意見を見たんだけど、果たしてそうだろうか?


もちろん、銃の性能が上がった後でならそうだろう。


しかし、それ以前に開発されていた場合。ローマやギリシャの時代になってしまうが。案外活躍したんじゃないかな。


もちろん、ギリシャ火やローマ・コンクリートの様に途中で途絶えた可能性は高いが。


ただ、ガリレオ辺りがそれを「再発見」した場合、結構最近まで戦闘用に残っていたんじゃないかと思う。


それというのも。誰が南北戦争で使われたガトリング砲を見て、たった50年で戦法が根本から覆ると思い至れる?


1966年に発明されたコンパウンドボウはそれから60年でかなり進化した。ローマ時代に開発されていたら、数百年かけて同じような進化をしていたのではなかろうか。


そう考えると、機関銃がマトモに使える前に、素材革命によって、コンパウンドボウが飛躍的な進化を行って、一時的に席巻した可能性も無くはないのかなと。英国面や独国面に堕ちなければ。

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