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世の中分からないことだらけだよね。ホント・・・

「ハァ?」


 僕の説明にセルゲイさんが付いて来れていない。まあ、それは仕方ないかもしれない。エレベーターのワイヤーは用意したが、設計、製造はヨシフさんやもしかすればクニャージさんの領分だから。


 なので、理解を超えているセルゲイさんをイナリに任せてヨシフさんの所へ向かう。


 あまり足が向くところではないのだが、行かなければどうしようもない。


「ほう。ソイツは面白い事を考えるな。マジックバーストを実現するだけの事はある」


 うん、怖いよこの人。シベリア送りになったりしない?筆髭ないけど。


 説明を聞いたヨシフさん、視線だけで弟子に何か伝えている。


 それだけで分かったらしい弟子が何やら用意してくる。なんか、重そうな箱と紙とペン。


「で、実際の数値は?」


 そう聞かれて停止した。僕知らない。


「知らないだと?役に立たねぇな。まあ良い。お前の弓は?ガキの弓は?」


 矢継ぎ早にそう聞いてくるので、取りに行くとその場を逃げ出した。



 もちろん。逃げて終われるとは思っていないので家まで帰って弓を手に、セルゲイさんの工房へ寄る。


 ヨシフと聞いただけで何も言わずにカーボン弓を渡してきた。付いて来る気はまるでなさそうだ。


 ヨシフさんの所へ向かうと、すでに何やら作業を行っていた。


 ちょっとコンパウンドボウとは形状が違う弓っぽいナニカが出来上がっていた。


「で?」


 ギロリと工房へ入った僕を切り刻むような視線。


 急いで弓を渡した。


「ちがう。引いてみろ」


 との御口上に従って弓を引く。出来るだけ綺麗な型を意識して。


 僕の腕と弓を少し触って、「良いぞ」と言うと、考え込むヨシフさん。


 そして、弟子を見る。弟子も頷いて工房を出て行った。


「ガキの弓を引いてみろ」


 そう言われたので、カーボン弓を引いた。


「俺のとは違うな」


 というヨシフさん。そう言うと、何やら箱をガチャガチャ弄ってハンドルを回した。


 何度回っただろう。チンという音と共にハンドルを回す手を止めた。


「なるほどな」


 そう言うと、鍛冶場へと向かっていくらしい。僕はどうすれば?


 しばらくすると何やら板を二枚と角材を持って現れた。


 そして、弓に似た何かを解体すると、新しい物を組み上げていく。


「これを引いてみろ」


 そこには既に記憶にあるコンパウンドボウが出来上がっている。何、この人。


 それを引くと、カーボン弓ほどには重くないが、かなり引き始めが重く、引き絞る頃には一気に軽くなった。そう、こんな感じのはずだよ。


 きっと、あの目は「どうだ?」と言ってるっぽい。


「こんな感じですね」


 そういうと、頷いた。


「そこの焼成布製にはまだ及ばんが、引いての通りだ。お前の弓よりはるかに重いだろう?」


 そう言われたので頷く。


「いやだぁ~!待ってくれ!」


 なんか、外で叫び声が聞こえる。


 入ってきたのは先ほど出て行った弟子に担がれたセルゲイさん。そして、クニャージさんまで居る。


「うるせぇ。炉に放り込むぞ」


 ものすごく冷たくヨシフさんがそう声を発した。


 そして、1枚の紙をクニャージさんに見せている。


「ちょっと無理がある注文ですよ、コレ」


 そう言っているが、何で笑ってるんだろう?


 押し黙ったセルゲイさんも恐る恐るそれを読んでいる。


「弓と言うより縦にしたクロスボウ?いや、これはまた・・・・・・」


 セルゲイさんもそれを見て腕を組んでいる。


「出来なきゃ、炉の燃料だぞテメェら」


 底冷えする声と恐怖しか無い笑顔でこちらを見るヨシフさん。


「軸はレインボーメタルで造る。強度の心配はするな」


 と、ヨシフさんは付け加えた。


「レ・レインボ・・・・・・」


 絶句するセルゲイさんとクニャージさん。


 何?虹がどうしたって?


「軸もそれでお願いします。滑車とブレードは任せてください」


 恐怖が吹き飛んだセルゲイさんが挑戦的な目でそう言う。


「弓とアクセサリのマネジメントとは、責任重大ですね」


 クニャージさんはさらに二ヤケている。


「『森の民』の技とやら、見せてもらうぞ」


 ヨシフさんはそう言うと、ササッと何やら巻いていた僕の弓と矢を持たせて裏へと連れていかれた。


「計算上、お前が狙えるのは200m以内だな。良い時に飛んできやがった。アレを射墜としてみろ」


 それはフライングドラゴン。トンボのでっかいヤツだ。動きは俊敏で直線的な動きもお手の物。射墜とすのは難しい。僕でもヤツの機動は読み切れない。墜とすには、速度と読みが必要になる。


 さらに言えば、奴は軽いが避弾経始に優れた曲面構成の甲殻に覆われているので、矢が刺さり難い。


 森の民の弓のウデ。更にはマジックバーストを駆使しないと射墜とせない相手だ。そうか、夕方だからヤツが出て来るのか。


 弓をって、あれ?


「何、ちょいと布で板を巻いただけだ。計算上ではコレが一番良いはずだ」


 そう言うヨシフさん。


 だが、僕にはわかる。これは折れてしまいかねないギリギリのやり方だ。だが、やるしかない。


 弓を引くと弓のしなる部分が通常より少ない。だが、他が全くしなっていないというのではなく、巻かれた布と板でしなりを規制されたながらも補強された状態。


 それでも構わず引いていく。折れたら折れた時だと思って引き絞ってフライングドラゴンを狙った。


 こちらを見据えて居る様にすら見えるヤツの動きを見定めて矢を放つ。


「速!」


 放ってすぐ、自分でビックリした。


 そして、矢を避ける機動を起こしたフライングドラゴンは避けること敵わずフラッシュ光を焚いている。


「材質の良さと悪さを上手く調律する。それも職人の技だ。だがな。世の中、技だけじゃどうにもならない事がある。そこを補ってやった」


 と、言葉少なに語るヨシフさん。


 いや、それよりさ、フライングドラゴンが降って騒いでる人たち助けようよ?

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