ちょっと、色々ついて行けない
「回収料だ。金貨30枚寄こせ」
オッサンがそう言って来た。
「そんなモンある訳ないでしょ!」
イナリが吠える。
が、オッサンは余裕そうな顔だ。イケメンを見ると、驚いている。どゆこと?
「アレクのオッサンにしては格安じゃないか」
で、ふと思った。僕が持つコレ。いくらになるんだろう?
「セルゲイさん、コレ、いくらですか?」
そう聞いてみた。
すると、笑い出した。
「あははは、面白い事言うねぇ~。それ、デス・スパイダーの原液だぜ?値段付くと思うか?この町の金貨や銀貨集めても足りやしねぇよ」
そんなに?
「そうだぞ、小僧。巣の回収に本来なら金貨50枚でも足りねぇ。出来る奴が少ないからだ。が、コイツはそれ以上の価値があるし『夢』まである。どうする?」
なるほど。これまで準備した時間と資金以外は受け取らないと。その上でアーマード・マンティス狩りに付き合えって事だろうね。
「面白そうなので乗りますよ。しかも、イナリの甲冑の話をする辺り、鎌を落せば終わりでもないと?」
そう言うと、ニヤリと笑うオッサン。
「当然だ。鎌は風の魔法を放ってくる危険極まりない武器だが、ヤツ自体は俊敏だ。鉱人じゃあ、捕らえきれねぇ」
そう言ってイナリを見る。そうか、北の部族の俊敏さか。
「何よ!」
イマイチ理解が及ばないイナリはオッサンを警戒している。
「アーマード・マンティス狩り用の装備一式作ってもまだ手元に残るだろうな。ソレで」
セルゲイはやれやれとイケメンスタイルで何かやっている。
どうも目力だけでさっさと出て行けと示すアーシャさんの圧に押されるように僕らは狩人事務所を後にする。
まずはセルゲイさんの工房に行ってデス・スパイダーを降ろし、解体してもらう。
中からは糸の原液袋、硬化液袋が二つ。あと、溶解液袋なんてのまである様だ。
「これを糸にしておく。あと、アレクのオッサンもそれ置いてけ」
そう言って、アレクのオッサンが持つ糸車を指さしている。
「ケッ、これで金貨50枚はあるぞ」
そんなにかよ!
「だからだ!ソイツを見本に製糸すんじゃねぇか。ボケたのかよ」
セルゲイはそう言いながらひったくる様にアレクから糸車を奪う。
「で、クニャージの所に手土産どうすんだ?」
そう問うアレクに対し、セルゲイは何か反物を渡す。
「焼き上がってる布だよ。コイツを持って行きゃ良いだろ」
アレが蜘蛛の糸のカーボンシートか。そこまで硬そうでは無い。
アレクはブツブツ言いながらもそれを受け取って僕たちを先導してゆく。
幅があって断崖と言うよりほどでもないこの谷。そこに作られた二人が並べるかどうかという広さの道を歩いていく。
あくまでも鉱人が二人並べるかどうかという基準なので、僕らにとっては十分な広さがある。
二層ほど降りただろうか。
確かな足取りでアレクさんが向かった先はクニャージと言う人の工房だった。
「アレク、どうした?」
顔を出したのはアレクのオッサンと同年代であろうちょい悪オヤジだった。
「アレを狩った奴を連れて来た。次のをヤる。そのためにお前に作って欲しいものがあるんだ」
そう言って僕とイナリを手招いた。
「こいつらの甲冑を作って欲しい。普通のじゃない。奴とやり合えるシロモンをだ。セルゲイが手付にコレだとよ」
そう言って反物を渡す。
「よりによって、手付がブラックシルクとはね。って事とは、本命は・・・・・・」
「デス・スパイダーのソレだ。無傷で原液を確保してある」
アレクのオッサンがそういうと、めまいを起こしているよ。
「無傷だと?ちょっと何言ってんだお前。しかも、そんなガキ連れてきて」
追い打ちをかける様に事のあらましを説明するオッサン。
クニャージのオヤジはため息しか出ないらしい。
「ドミトルさんのアレを活用した甲冑か。まあ、手付がコレの上に、素材としてデス・スパイダーをポンと出すってんなら、手間賃しかもらえねぇな。貴族の屋敷が二つは建つシロモン二つも作って、代金が金貨20枚とは、聞いた奴が卒倒しそうだ。つか、俺が倒れそうだぜ」
金貨20枚でもすごいけどね?まあ、弓と甲冑を作ってもデス・スパイダーの素材は余るそうだから、売れば宮殿は建つ程度にはなるらしいよ。希少過ぎて売る相手もいないそうだけど。
だが、僕は問題点をひとつ見つけてしまった。
魔力塊を保持しる矢。どうすんの?
「心配すんな小僧。ソイツは鍛冶師のヨシフに頼めば良い。マジックバーストで使う素材と云やあ、アイツだからな」
ちょっとアレクのオッサンの笑顔が怖い。
そんなオッサンに連れられてさらに降りていく。
そして、明らかに雰囲気の違う区画へとやって来た。明らかにここにマトモな奴はいないだろう。
異様な雰囲気を醸し出す、ザ ・ ド ワ ー フ な空間だ。
「ヨシフ!」
そんな異空間の一軒に声を掛けるアレクのオッサン。
「あぁん、誰だ?」
明らかに逝った人が出て来た。コイツはマジでヤバい。
「アレクか。なんだ?」