悪役令嬢に転生しましたが、記憶が戻ったら既に断罪秒読みでした。今更改心してももう遅い!? 記憶喪失を装って、せめて国外追放だけは回避したい!
タイトルだけ雑に考えていた物の中味を雑に書きました。
魔法学園卒業を控えたある日、講堂において、臨時生徒総会が開かれていた。
とある侯爵令嬢による、平民女生徒へのいじめに関する、所謂、断罪が目的のものだった。
原告は、この侯爵令嬢の婚約者にして、王位継承権二位の王子と、いじめられていた平民の女生徒本人だ。
言わずもがな、この王子と女生徒は恋仲であり、婚約者である被告人のお嬢様は、今後、婚約破棄か、側室にされるのではないかと、学内ではもっぱらの噂だった。
だがこうして、全校生徒の衆目の中で断罪を決行するということは、婚約破棄が濃厚だろうと生徒たちは感じていた。
そんな空気もつゆ知らず、侯爵令嬢、テスラ・コイル嬢は、王子と腕を組み、生意気な目つきで自分を睨んでいる(ようにみえる)平民の女生徒、ライカ・ロケットに、今まで通りの罵詈雑言を浴びせ、全く反省の色を示していなかった。
王子、セカイ・システムは深く溜息を吐き、これだけは決して下したくなかった結論を言おうと、テスラを真っ直ぐと見た、そのときであった。ヒートアップしていたテスラが、立っていた被告人席として誂えられた箱から足を滑らせ、柵の代わりに立てていた椅子の背もたれに顔面から直撃したのだ。
講堂が一瞬、静寂に包まれた後、悲鳴が上がった。
突然の事故で意識を失ったテスラの姿に、さすがのセカイも、ライカも、驚き、狼狽した。だが、根っからの善人である二人は、すぐさま落ち着きを取り戻し、救護の手配をして、一旦、この生徒総会という名の断罪式を中断した。
テスラは夢を見た。とてもとても現実味のある夢だった。見たこともない景色なのに、とても懐かしく感じる、デジャヴュと言うには、あまりにも鮮明な、記憶と言った方が正しいとさえ思える夢。
記憶。そうだ、これはワタクシの記憶だ。前世の……。そう理解したテスラは、前世の自分の死に際まで思い出した。
華の女子高生とはいうが、彼女に青春はほど遠く、甘い言葉をかけてくれるのは、画面の中の現実ではないイケメンたちだけ。
熱中するあまり、自作の同人誌にまで手を広げ、そこそこのリアルの友人もできてきて、これからもっと楽しくなると思っていた矢先、印刷代を振り込もうと銀行に行ったその日、銀行強盗に巻き込まれ、あろう事か、見せしめとして殺されてしまった。
テスラの今の年齢と同じ、17歳の時のことであった。
そしてテスラは気づく。同人誌にまでしたこの乙女ゲームだ。気づかないわけが無かった。ここが自分がハマりにハマっていた乙女ゲームの世界で、自分がその世界の主人公のライバルキャラであるということに。
そして同時に思い出す。テスラが断罪中に頭を打って運ばれ、気が付いたその後も態度を改めなかったことで、主人公サイドの好感度が爆上がり、テスラの側は取り巻きすら残らず、最終的に爵位を取り上げられ、国外に追放させられるということを。
今既に、頭を打つイベントが終了し、保健室にいる。ということは、ゲーム的に見れば、後一時間ほどのプレイでスタッフロールが終わって『~fin~』と表示される位のところまで来ている。
前世の記憶を思い出したテスラは思った。あ、これ詰んでる。今更態度変えたってもう遅くね? と。
積み重ねがある。人生の積み重ねだ。たった十七、八年。されど十七、八年だ。
ワタクシは、幼少の頃から、王子の婚約者という立場を鼻にかけて、好き放題傍若無人に振る舞ってきた。ちょっと頭を打ってから人が変わったようになる(実際変わったのだけれど)のは、保身のためとしか思われない。
国外追放された後のワタクシの足取りは全く分からない(描写されてないから)。だけど、体を鍛え、剣を修めたわけでもなく、魔力も並み以下。学力も下から数えた方が早い、家柄と容姿以外に取り柄がない少女が、家柄まで失った上、罪人の烙印を押されて野に放たれれば、待っている人生など、悲惨以外あり得ないだろうことは容易に想像がついた。
せめて、せめて国外追放だけは免れなければ……。
ここで投了して、悲惨な人生まっしぐらだけはゴメンだ。
実家に幽閉くらいまでは勝ち取りたい。勝ってはいないんだけれども。
負けは確定しているのだから、どう逆転するかではなく、どう負けるかを考えよう。
いや、違う。逆転の一手、あるのではないか? いや、ある。あった。私だ!
前世の記憶を思いだした私自身が逆転の一手! 勝てる……これなら……必ず!
頭がおかしいと思われることはむしろメリット。全力で前世の自分の記憶しかないフリをしよう。前世の記憶を思い出した代わりに、テスラとしての記憶をすべて失ったことにする。これが我が逃走経路だッ! 勝ったな、ガハハ!
言葉も日本語を話して、意志疎通すら不可能というのはどうだろうか……。
うーん。さすがに完全に意志疎通がとれないのは私自身も困るし、そこは何故か分かるって感じでいきましょう。
「んっんー!あーあーあー」
喉の調子を確認。ヨシ!
大きく息を吸ってー。せーの。
「キャー!」
悲鳴を聞いた誰かの足音が近づいてきて、勢いよく保健室の扉が開かれた。
セカイとライカだった。なんという聖人君子だろうか。こういうところ、好き……。おっと、いけないいけない。作戦を始めなければ。
「どうしたんだ、テスラ!」
「だ、誰ですか、あなた達は!? ここはどこですか!? 私、銀行で強盗に巻き込まれて……それで、頭に銃を……」
「どうしたんだテスラ、僕だ。婚約者のセカイだよ」
「触らないで! 誰ですかあなたは。女の子に許可無く触れるなんて非常識です!」
「て、テスラ……? 僕が分からないのかい?」
「あなたなんて見たことも聞いたこともありません。というか、さっきから、テスラテスラって、誰のことですか? もしかして私のことを言ってるんですか?」
「き、君は……誰なんだい?」
ふふふ、計画通り。前世の名前を声高に叫んで、私の逆転王手といこうじゃないの。
「私は、アキナ。秋雨アキナよ」
決まったー! 前世の名前を告げることで、完全にここにいるテスラが別人になってしまった。これで何も知らないということになった私に、訳も分からないまま断罪などという外道なことはできまい。いや、しないよね?
「あきちゃん……なの?」
「え?」
ライカだった。私の前世のニックネームを、それも極々限られた数少ない私の友達が呼ぶ懐かしい響きを、こともあろうか、主人公のライカが呼んだのだ。
もう作戦については全部頭から吹っ飛んだ。
「誰ですか……?」
ガチ困惑の声のトーンで誰何した。
「私、ハルだよ。桜木ハル」
ネットから知り合い、お互いの同人誌に寄稿し合って、オフ会からリアルでも仲良くなった数少ない、親友と呼べる女性の名前だった。
「え、ハル……ちゃん? 嘘……」
「嘘じゃないよ、あきちゃん。久しぶり。しばらく見ない間に綺麗になったね。乙女ゲームの悪役令嬢みたい」
「そっちこそ、乙女ゲームの主人公みたいに可愛くなってる」
思わぬ再会に、私たちは無意識に日本語で会話していた。言葉の分からないセカイの顔が、より一層困惑の色を濃くしていたが、今の私たちには見えていなかった。
ひとしきり思い出話に花を咲かせて笑い合い、最後にはぎゅっと、強くハグをした。
私は急に死んでしまったことを謝り、ハルちゃんは、ちゃんとお別れができなかったことを謝った。
「いや、悪いのは私を殺した強盗じゃん」
とハモって、泣きながらまた笑った。
生前、私は、密かにハルちゃんに恋をしていた。内緒の内緒の初恋だ。想いを伝えるつもりはなかったが、死ぬ直前に、ハルちゃんの顔を思い浮かべたことを思い出した。やっぱりどこか心残りだったのだろうと、今は思う。ならば、今世は悔いの無いように生きたい。こんな奇跡のようなこと、二度と起こらないと思うから。
「あのね、あきちゃん。こんな奇跡、二度と起こらないと思う」
「私もそう思うよ、ハルちゃん」
「だからね、あきちゃん。私、今回は悔いを残したくないから、前世からの秘密、教えてあげる」
「奇遇だね。私も同じこと考えてた。どっちから言う?」
「そこは、せーので一緒にじゃないの?」
「じゃあそうする」
一緒に大きく息を吸って、せーのとかけ声。
「私、あきちゃんのことが好きだったの!」
「ハルちゃんが大好きです!」
「「え? はぁあ!?」」
秘密の内容も、リアクションも一緒だった。そんな私たちの結論は早く。
「「じゃあもう、結婚するしかないな」」
躊躇もなかった。
悔いなく生きる上で、お互いの気持ちが確認できた。ならば結婚しかありますまい? いったい何の問題があるというのか、いや、無い。
こうしてはいられないと、私はベッドから飛び出してハルちゃんの手を取った。
そして、ハルちゃんはセカイ王子に向き直って、この世界の言葉で言った。
「王子、ごめんなさい。私、前世からの運命の方と今再会しました。私、この方と幸せになりたいのです。だから、大変無礼なことは重々承知なのですが、私と別れてもらいます。さようなら」
別れて下さいじゃなく、別れてもらうって言うあたりが、もう決定事項っぽくて言い返しようがないのエグいと思った(語彙力)。
こんな人のことはパッと忘れて、愛の逃避行と洒落込もうじゃないかと、二人で廊下を駆けた。
そこで私は思いだした。私たちが前世で仲良くなったきっかけ。それは、乙女ゲームでありながら、イケメンたちには目も暮れず、ひたすらライカとテスラの百合二次創作を描いていた繋がりからだったということを……。
その日、いじめの被害者と加害者がにこやかに手を取り合って、ただならぬ距離感で校内を駆けていたという事件に、学園内では衝撃が走った。
後に、いじめ自体がバカップル二人による綿密な打合せによる自演だったのではないかという憶測を生んだのだった。
そして、婚約者と恋人の両方が、自分の下から同時に去ってしまった第二王子の困惑と悲哀の声が学内中に響き渡っていたのは言うまでもない。
王子はこの後、人間不信、女性不信に陥り、王位継承権も返上、王城内で引きこもり生活をすることになったが、元奴隷のメイドによる献身的な世話に心を開き、史上最優の王へと至る道を歩むのだが、それはまた別の話だ。
その後のライカ(ハル)とテスラ(アキナ)の二人は、理想の百合関係を堪能しながら幸せに百合百合しましたとさ。
終わりッ!
特に無かとです。