第99話、未だ何かが起こる気配はなく、そのままほくほくかしましで
Girls SIDE
ユーライジアスクール地下。
ダンジョン、『ターミナル』と呼ばれる場所。
ハナたちは、授業などに使われる……12のいにしえの(実際は異世界からの侵略者)アクマたちが眠っていたエリアよりも上階層に当たる場所へと集まっていた。
「この階層には、このまえの授業ではこなかったよな。ずいぶんと長く道がつづいてるけど」
「ワンフロアぶち抜きの階層にしてはどこまでも続いていそうですね。何だかとてつもなく大きくて長いモンスターでもいそうです。あるいは、モンスターとの連続戦闘でも待ち構えているとか」
「えぇ、もう一個のがっこいくんじゃなかったのか? でもまぁ、どうせなら長くて大きいの出てきたらげっとしてみたいけど」
当然のように我らがヒロイン、不思議ちゃん系ロリだけど百合百合はーれむ願望がある(半ばミィカの悪ふざけ)ハナと、かつてのこの場所の意味来歴、利用法を知っていながら、そんな面白なことがあったらいいなぁといった願望を隠そうとしない金髪ロリメイドなミィカは。
リアータの故郷であるというラルシータスクールへ向かわんと。
どこまでも続く天井のかなり高い、蒲鉾型の空洞、がどこまでも続いていそうな通路と言うには広きに過ぎる場所を先頭切って歩いていた。
「大きなモンスターねぇ。昔ここにいた頃の『キャメーラ』での絵を見せてもらったことあるけど、言い得て妙かもしれないわね」
「え、リアータさん『キマグレイン』見た事あるんですか? いいなぁ。実物が走っていたら一度は『キャメーラ』で撮ってみたいって思ってたっけ」
「あぁ、そう言えばマーズもそんな事言ってたわね。もし良かったら絵ならうちにはあるけど」
「本当ですか? それはもう、ますます楽しみになってきたよ」
そんな小さくて何しでかすかわからなくて、見ているだけではらはらしたり微笑ましかったりする主従コンビをすぐ近くで見守りつつ続くのは。
久方ぶりの帰郷+マーズと一度帰った時と違ってたくさんのお友達が一緒についてきてくれて内心ほくほくな海色髪ウェーブもしゅっとして美しいリアータと。
ボーイッシュな趣味とボーイッシュな格好が板についてきて逆に野郎どもの魂が震え、庇護欲強めになってしまうであろういいんちょムロガである。
スクールの同学年の中でも優秀な二人は。
当然ここがかつてなんに為にあって何に使われていたかは知っていた。
『シャレード』や『ズイウン』などといった、騎獣に変わる移動手段に使われるマジックアイテム、はいくつかあるが。
魔導機械と呼ばれるほどに巨大なものは、『キマグレイン』だけであろう。
この世に存在するほとんどの金属によって成された四角く細長いそれは、足元に百足のごとき車輪を。
頭頂には有角族もかくやな金属めいたひし形の角をいくつもつけていて。
そこから送られた魔力を動力にして、今や土ばかりの現在踏みしめし大地に敷かれたレールに乗って。
竜族に引けを取らぬ速さで移動できる、飛行用魔道具の『ズイウン』にも負けぬ速さで多くの人を乗せて移動していたと言われている。
その大仰さ、機体のあらゆる金属を含んだ輝き。
移動する時の大型魔獣を彷彿とさせる咆哮。
ご多分に漏れずマジックアイテムであるのならば世の少年たちが憧れるのは必須で。
けっしてそれを撮って収めるのがそもそもの目的ではなかったとはいえ、世界の四角……一部分を切り取って絵となすことのできるマジックアイテム『キャメーラ』は。
ムロガの母方の一族、フレンツ家が発掘、開発したもので身近にあって。
過去、カムラル家に献上したこともあるそれは、文字通りこの世のものとは思えない(褒め言葉)カムラルの姫たちの写し絵の切り取って保存するために使われたとされるが。
今はこの場にはない憧れの『キマグレイン』を、いつか『キャメーラ』で撮ってみたかったのは事実で。
リアータの言う絵とは、リアータの父が趣味で『キャメーラ』で撮ったものだろうとのことなので。
流されるままについてきたけど、更に向かう目的ができてよかったと。
リアータと同じようにほくほくな様子でマジックアイテム談義に花を咲かせていると。
あるいはそんなムロガと同じように。
一族の慣例と言うかあるあるにならって男の子になりたい病にかかっていなくもない(お兄ちゃんのせいで軽傷程度)いつだって超絶美少女マニカが。
仮面つけなおしたばかりながらも、三色に彩る長い長い髪を揺らしつつ、何故だか二人で張り合うようにくっついている、全身真白かと思いきや黒色靴下つきにゃんこのウィーカと、黒色瞳の中に映える赤が凄絶に美しいのと同じように、赤と黒のコントラストの映える羽色もったカラスのクロをお供にしつつ。
リアータとムロガの話題に混ざろうとして間に入ろうとするも、何だかんだで諦めてムロガの横につきつつ私も私もとばかりに声を上げる。
「はいっ、そんな事もあろうかと『キャメーラ』はお家からお兄さまのをお借りしてきましたよっ」
「にゃうん」
「かぁっ」
「えっ、そうなの? あ、そうか。マニカさんカムラルさん家の娘だもんね。それじゃぁ向こうについたら借りようかな」
「どうぞどうぞ、そのつもりで持ってきましたから」
「待って。『キャメーラ』で『キャメーラ』で撮った絵を撮るの? どうせなら本物の方がよくないかしら。『シャレード』や『ズイウン』は父さん持ってるし、もしかしたら『キマグレイン』も……」
「なっ、ななななんですってぇ! い、今なんておっしゃいましたかリアさんっ!!」
「わっ、急にどうしたのミィカ」
「どうしたもこうしたも、『キマグレイン』って現存してらっしゃるんですかっ!?」
「絵を持っているくらいだからね。その可能性は高いと思うけど……」
「素晴らしい! 是非にお伺いして許可をとっていただいて、拝見させていただきましょう!」
「おぉ、ミィカさん何だかすごくテンション上がってるね。ミィカさんも好きなんだ」
「それはもう、もちろんですわっ!」
現物が見られるかもしれないとなって。
本当かいとムロガが驚き飛び上がる前に、先陣をハナに切らそうとこっそりその背中を押していたミィカが、新たな一面を見せつつ踵返し飛び上がって会話に加わってくる。
「おぉ、めずらしーなぁ。ミィカ、素になってる。その『キマグレイン』ってやつ、ほんとにすごいんだな。げっとできるだろうか」
「にゃふん。たぶんむり……とはいいきれないかにゃぁ」
「……か、かぁっ」
正しくも三人以上集まればなんとやら。
もはや本来の目的もすっかりどこかへ飛んでいってしまって盛り上がる少女たちに。
珍しくも加わらずしみじみするハナ。
マニカから離れる形でそんなハナの方へ移動してきたウィーカは眠たげにそう呟きつつ、首をかしげてばたばたしているクロを見やる。
魔導機械だろうが根源魔精霊だろうがやろうと思えばげっとくらいできるでしょうと。
そんな風に見つめてくるウィーカと視線を合わせないようにして、クロは誤魔化すように一声鳴いて一人先行するように飛び上がる。
その先には、『キマグレイン』……ではなく。
ユーライジアとラルシータを結ぶ変わりの手段である【虹泉】つきの四阿が見えて。
そう言えば『それ』も。
世界が変われば『げっと』の対象、テイムできるかもしれないんだよなぁ、なんて思ったりしていて……。
(第100話につづく)
次回は、6月11日更新予定です。