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第98話、エピソード5、『白と黒の夢、甘くて苦い』




Girls SIDE



週末、ユーライジアスクール第三寮棟、ムロガ・フレンツの一室。

その主であるムロガは、ちょっとした冒険……遠出(と言っても一泊予定だが)の準備を終えたところであった。


それもこれも、寮長としての矜持……でもなんでもなく。

少しばかり魔が差して、リアータの私室へと訪れたのが原因で。





何だか騒がしいから、何かあったのかと。

……厳密に言えば、マーズの気配がすると、『スカー・クロウ』のクロがぱたぱた大騒ぎで反応していたから。

隣のクラスだけどマーズ的きっかけがあって仲良くなったリアータ・セザールの部屋へと訪れてみたら。

そこにはリアータはもちろんのこと、ハナとミィカまで当然のようにいて。

極めつけは、『夜を駆けるもの』の格好をしたマーズ……ではなく。

マーズの妹、別人格とも言えるマニカ・カムラルの姿があって。



ムロガとしては、口にはせずとも自身を棚に上げて。

あくまでそれは彼女の、マニカの主観、自己申告であって本来のマスターであるマーズに対してクロが構って欲しいアピールをしていることもあり、その肉体はまるで変わり果てているとはいえ、マーズのものであると理解していて。



伝説の物語に出てくる、かつての『夜を駆けるもの』じゃあるまいし。

年頃の少女の私室へ、そこそこな夜更けに伺うとはいかがなものかとは思いつつも。

あまりつつくとヤブヘビになりかねないし、そうは言ってもどう見ても可愛らしい美少女にしか見えない(ブーメラン)マニカが、これからのために独り立ち、自分だけの身体を求めてリアータを頼ったと言うのならば、しょうがないと判断して。



そのまま特に何か言うでもなく。

香りの良い、ラルシータ産らしい果実茶をごちそうになりつつも。

それよりも絶対良い香りのする四人がわちゃわちゃしている空間を見守っていたら。

いつの間にやらムロガ自身も巻き込まれてしまって。

リアータの実家へと訪問、遊びに行くことになってしまったらしい。




少し前までは、同じクラスではなかったこともあって、リアータとそれほど親しくはなかったのだが。

マーズの悪友その3としてマーズとリアータのいるクラスに赴き、その流れでよく顔を合わせるようになって。

お互いの『事情』もやっぱりマーズを通してよくよく知るようになり。

何故だかリアータには実際大したことのないはずのムロガ自身の『事情』を曲解されて。

共感されてしまったらしく、会うたびに目をかけ、親しく話す機会も増えていって。


その事自体は、ムロガにとってみれば当然良いことであるのは間違いなかったから。

リアータの、マーズが救い上げるきっかけとなった『事情』をもっと知りたいと。

そのためにリアータの実家、世界に二つしかないスクールのもう一方、ラルシータ・スクールへ向かうことは。

流れに乗って巻き込まれたとはいえ、とりたてて遠慮する理由もなく。




「う~んと、とりあえず地下ダンジョンへ行く時と同じ装備、ラインナップでいいかな」


ムロガとしては、本当に興味本位とリアータの好意だけで遊びに行くくらいの気概でいいはずなのだが。

ここ最近、マーズの周りで立て続けに『事件』、マーズがさっくり解決する程度に未だとどまっているとはいえ、厄介ごとが頻発しているのは事実で。


きっと今回も何事もなく終わるのだろうが。

それでも全てに置いておんぶにだっこにはならないように。

精神的余裕を持たす意味でも、しっかりとした準備は必要だと判断して。


ダンジョンアタックの際の、荷物持ち(ポーター)めいた少年風スタイルにて、改めて部屋を出ると。

そんな支度に限らずプライベートなスペースにはけっして入ってくることのない、晴れてマーズから託される形でムロガの使い魔、従属魔精霊となったクロが、ぱたぱた羽ばたき近づいて来るのが見えて。




「……ん? あれ、クロ。ちょっとこっちきて」

「かぁっ?」


何だろう。目の錯覚だろうか。

カラスの魔物、魔精霊と言っても元々は不定形な存在であったらしく。

日々過ごしていてもサイズはあまり変わらなかったはずなのに。

何だか妙に大きく見えてしまって。


「クロってば外で何か食べたりしてきてない? よくよく見れば羽色も変わってない?」

「か、かぁっ」


何を言い出すかと思えば、そんなことあるはずがないだろうとでも言わんばかりなクロの態度。

と言うか、クロはどこぞの白ねこさん以上に気まぐれで自由奔放で。

話しかけても返事すらおざなりな時が多いのに、そっぽを向いているとはいえ、ムロガの言葉にちゃんと反応してくれていて。


大きくなっているように見えたのは流石に気のせいだったようだけど。

近くで見てみれば純粋なる黒一色だった羽色に朱が混じっているのが見て取れて。



……何だかんだ言って理論武装しつつも。

きっとトップクラスではまってしまっているムロガである。

すぐさま今回の過保護に気づいてしまったが。

バレバレのことを気づかないふりをしてくれているのは向こうの方が先だったから。



「そっちの方が強そうだね。……もしかしてレベルアップ、進化の予兆だったりする?」

「かぁっ!」


落としどころを模索しつつ、そんな事を言うと。

食い気味に肯定の鳴き声が返ってくる。



「『スカー・クロウ』は進化すると何になるんだっけ。最終進化系は、【エクゼリオ】の神型の魔精霊? それとも夜の帝王ノスフェラトゥとかかな。

「かぁ」



人型になってしまうのならば本末転倒だよね。

なんてことは口にはせず。

首をかしげる仕草もかわいいギャップにやられてしまわないうちにと。


ムロガは半ば強引にクロにとってもいつもの定位置、冒険用リュックの上へととまってもらって。

改めて待ち合わせの場所でもある、リアータの私室へと向かうのであった……。



    (第99話につづく)








次回は、6月6日更新予定です。

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