第97話、次代の救世主は、生と死の狭間を垣間見て一歩踏み出す
Girls SIDE
「ボクの次なるたーげっとは、魂持ち合わせし魔導人形な素直くーるお姉さんだぁっ……!」
ユーライジアスクール第六寮棟、リアータの部屋。
夕食後の果実茶香る中、迷子の猫探しから農作物を荒らすモンスター退治、ダンジョン捜索や試作品なマジックアイテムの使い出の確認まで。
当の本人が面白いと思えば、何でもござれな『夜を駆けるもの』にしては珍しく希少なお願い事は。
そんなハナの、便乗かつ我が道を行く、それでこそ姫さまですとミィカに言わしめる宣言によってかき消されたかのように思われたが。
「あぁ。それってリオ姉さんのことでしょう? 確かにリオ姉さんは私の実家……ラルシータスクールでくらしているけど。みんなで会いにゆくの? お休みの時ならちょうど私も帰ろうかなって思っていたし、別にいいけれど」
本来ならば、大陸ひとつ分離れている世界に二つしかないスクールのもう一方こそがリアータの実家であるが。
ついさっきまで同じく、大陸ひとつ分離れているガイアット王国へ行ってきたばかりである。
『虹泉』さえ使えれば、週末の休みを使って家へ帰ることは容易ではあるだろう。
「あ、でも一応外泊の許可は取らないとね。ウィーカの分はガイゼルさん家からお借りするつもりだったから取ってあるけど、三人とも行く気なんでしょう?」
「もちろん、姫様が向かうとおっしゃるのならば、従僕な私たちは当然付き従うまでです。なに、心配はご無用ですよ。私たちの方も許可は取ってありますから」
「さすが、ミィカさんですね」
「そうだろそうだろう。ミィカはすっごくてかわいいんだぞ」
「どうしてハナ姫さまがドヤ顔するんですか。まったくもう」
実はマーズもそうだったが、マニカとしてもしもべ扱いしていることに関しては特に問題なく受け入れているらしい。
こんなこともあろうかと、とでも言わんばかりに。
ミィカは流れを読んでメイドらしくしっかり先回りして準備をしていたようだ。
素直に褒めそやされて毒の切れも悪く照れている様子に、リアータは思わず笑みを浮かべつつ言葉をつなぐ。
「だったらもう準備は万端ってわけね。リオ姉さんに会いに行くってことだけど、イリィアさんちのメイドさんみたいに召喚契約のお願いに行くの? ……今フリーだから特に問題なく受け入れてくれるとは思うけど」
ハナは、マニカとのギルルに対するご主人さま権をめぐって戯れあっていたが。
マニカの方が先に知り合っていて、マスターは……お役目は自分だと宣言したことで、リアータの憂いごとがひとつ解消したとともに、ハナの方もそういうことなら仕方ないと、潔く諦めたらしい。
ミィカに、姫様の軍は最強を目指すのではなく、可愛く美しい女性たちによってなされるのですと諭されたせいもあるだろうが。
その変わり、と言うわけではないが。
姫様同士、イリィアともいつでも連絡が取れるようにと既に契約済みであるのならば、メイド同士も交流しましょう、と言うことで。
ミィカを介して、トリエとも召喚契約をこなすことができたのだ。
そんな中、マニカが兄に頼らず自分だけの身体を求めて魔導人形と呼ばれる、今では【金】の魔精霊の一種とも言える存在に、その手がかり足がかりを見出したわけだが。
肝心の魔導人形の姿はガイアット王国にはなく。
その動力源、心臓そのものであると思われていた、イシュテイルの『輝石』は。
今回のガイアット王国の件により、おいそれと他人が持ち出していいものではないと。
生と死、繰り返し脈々と受け継がれる、大切なものだと知って。
アプローチを変えることにしたのだ。
イリィアの姉……先輩にあたるリオと呼ばれる少女は。
かつては純粋に人によって作られし存在であった。
しかし、戦乱の中仲間を、家族を失い、自身もガイアットの死神により黄泉に送られ。
イシュテイルの『輝石』と言う心、魂を受け取り受け継ぎ生まれ変わったのが現在の彼女であると、同じ境遇であるトリエに聞かされていて。
「話を。聞いてみたいのです。そうすれば、兄さまに迷惑をかけてばかりの自分じゃない、新しい可能性を見つけることができるような気がして……」
世界の礎となる変わりに、『おぷしょん』という救済を得て世界に立つか。
思い切ってイリィアたちと家族となり、『輝石』を賜るか。
あるいは、魂の入っていない魔導人形めいたものを見つけ出すか創り出すかして、そこに棲まわせてもらうのか。
マーズが聞いていたのならば、メイワクなんてとんでもないと。
泣かないはずなのに噎び泣きそうではあるが。
ライバルがフェアに、一個人として同じ立ち位置でありたいと言うのならば。
無碍にはできないのは当然のことで。
「分かったわ。そういうことなら私も力になる。せっかく救世主さまがやる気になってくれたのだしね」
「……あっ。はいっ。その節はご心配を。もう、大丈夫ですから」
お互い表に出してはいなかったけれど。
何とはなしに、気まずいものが解消されていったのは、正にその瞬間で。
「救世ちゅ? なんだかどこかで聞いたことがあるよな気がするぞう」
「しーっ。ダメですよ姫さま。それは大人の事情なのです。お子さまな姫さまは気にしてはいけない類のものなのです」
「なにおぅ! ボクがおこちゃまならばミィカだってそうだかんなーっ」
「なっ、言うに事欠いて気にしていることをっ」
二人にしか分からないやりとりに。
それでも参加したかったのか。
結局、いつものようにハナとミィカのじゃれ合いスキンシップが始まって。
そのあまりのかしましさに。
ちゃっかり寮長までやらされているムロガいいんちょが顔を出して巻き込まれる羽目になるのは……それからすぐのお話。
(第98話につづく)
次回は、6月1日更新予定です。