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第9話、初めての挨拶の時のセリフは、存外真実をついているとにらんでいる




リアータについて恐る恐る檻の中。

水のような波紋浮かぶ七色の魔法陣の上に立つ三人。



「二人とも水は平気?」

「ボクはお水よりおれんじのジュースを所望する!」

「……それは泳げるかどうかですか? それとも種族的な意味で?」

「両方、ね。ここの『虹泉トラベルゲート』は原初のものだから、潜る時水の中に入ったみたいになるのよ」


姫を無視するとは何事だぁ~っと、小うるさいハナを敢えてスルーし、リアータは足元の波紋作る魔法陣について説明する。



「まぁ、大丈夫でしょう。姫様は泳げませんが、実際水の中に入って息ができない、というわけでもないのでしょう?」

「ダイジョーブじゃないよ、大問題だよっ」

「確かにそうね。ハナはミィカにしっかり掴まってて。目を瞑ってるうちに終わると思うから」

「よ、よしキタっ」

「……ち、ちょっ。そんな全力全霊でへばりつかないでください、蹴落としますよ」



密着した状態でやいのやいのやってる二人を見て、再び笑みをこぼすリアータ。

それは、何でもそつなくこなすマーズの数少ない弱点がこの虹泉にあると思い出したせいもあるだろうが。



「それじゃあ、起動するわよ」


返事を待たずしてしゃがみ込み、その手のひらを魔法陣に触れさせる。



「おおっ」


すると、ハナの楽しげな驚きの声とともに地面自体が七色に光り発し、硬かったはずの地面が刹那液体のようにうねって。

重力に従い、三人の身体が深く沈み込んでいって……。





虹色の泉の中。

息はできるが、流されるままで。

目に入る色がわやくちゃで正確に把握できないが、どこまでも広がっているだろうそれは。

この世界中だけでなく、異世界にも繋がっていると言われている。

その異世界に渡るためには子供の寝物語にも出てくるような、世にも恐ろしい番人に会わなくてはならないらしいが……。


どうやら『その事』を、ハナもミィカも知っていたらしい。

時間で言えば数十秒ほどだっただろうか。

スクールの外、裏山にある廃教会の地下にある虹泉トラベルゲートに辿り着き、水と七色の光が引いた時には、二人にしっかと両側から抱きつかれていた。



何だ、二人とも見た目相応な所あるんじゃない、と思いつつも野暮な事は口にせず、二人をエスコート。

教会の、公然と隠されし秘密の階段を上がり、廃教会でありながらリアータ達のようなお忍びで町へと繰り出すためにと、身廊を照らす魔法灯に誘われ外へと出ようとした所で。

はたと思い出し両手に花な二人の手を離すと、持参していたバッグ……こっそり外出用、魔法のリュックから地味な色した外套を三着取り出した。



「……似合わないものを背負ってるとは思ってましたが、魔法の品ですか」

「充分その自覚あるから、言わないで。それより、ハナもミィカもこれを着てちょうだい。『認識阻害』の魔法がかかってるから」

「お~。何から何まで助かるぞー」



王族とその侍女である二人は勿論の事、リアータも立場としては他国の賓客扱いなので、悪さしそうな輩……よりも、真面目に仕事している街警邏の『風紀』達に出会ってしまうと面倒なことになるのは必至だった。


しかし、これを身に纏っていれば机に座って面と面を突き合わす、なんて状況にでもならない限りまずバレる事はないだろう。

ちなみに、そのリュックも外套も貰い物である。

大きくて不格好というか、あまりセンスが感じられないのは百も承知なのである。


それでも手放せないのは、こうしてしっかり役に立っているからだと、内心で自分に言い訳しつつ。

それ以上リュックの話題を掘り下げられないうちにさっさと外套を着込んでリュックごと隠してしまう事にする。


そんなリアータを訝しげに見ていたミィカは、外套一つ着るのに戸惑ってるハナに意識を奪われているようだったが……。




ヴァーレストの廃教会は、スクールを支える裏山の尾根にある。

かつてその裏山はユーライジアを脅かした後、迎合し共に暮らすようになった魔人族達の住処だったようだが、今はスクールに管理されている魔精霊達が、自由気ままに暮らす場所となっている。

危険な場所ではないが、王族貴族のお忍び用抜け道がある場所としては、広く知られすぎている場所と言えよう。




「……『夜を駆けるもの』は、こちらにお住まいに?」


許可ももらっているしお忍びとは言えないかもしれない、なんて思っていると。

期待のこもったミィカの問いかけ。

その表情は動かないものの、リアータのそれとは一線を画している、と言えるかもしれない。

なぜなら、キラキラした瞳があからさまにリアータを見上げていたからだ。



「ううん。今裏山で暮らしている人はいないんじゃないかしら。でも、『夜を駆けるもの』はかつての最強種族、魔人族の血を引いているなんて噂はあったけど」


それどころかリアータの予想が正しければ。

かつて魔人族とともに栄華を極めた三つの種族全ての血を引いているはず。

予想であり希望であるから、そこまでは口にしなかったが。

一般的に悪者のイメージが強いはずの魔人族の事を、ミィカもハナも言う程悪く思ってはいないようだった。



「人の悲しみと不幸を糧にして生きる孤高の種族。ボクのはーれむめんばーに是非とも加えたいものだね、二人目にでも」

「二人目、ね」

「おぉぅ、安心しろ。リアは一人目だからな」

「ふふっ」

「って、んやっ。いたいいたいっ。こめかみいたい~っ」


ハナが異性で、本当の意味でそんな事を言っているのならツブしかねない発言だが。

何故だかミィカのウメボシ程度で許せてしまうのは、彼女の存在が奇跡なのかもしれない。

……なんて思う一方で、『夜を駆けるもの』がハナの言う二人目になりうるのかと、考えていた。



『夜を駆けるもの』の正体。

本人はとぼけているのか、記憶にないのかは定かではないが。

リアータは、『夜を駆けるもの』=マーズ・カムラルだとにらんでいる。

だからこそ、敢えて二人を連れて『夜を駆けるもの』に会いに来たのだ。



今までははぐらかされてに逃げられてばかりだったが、

初日の数時間でリアータの中で大きな比重を占める事となった、いかにも何かをしでかしそうな彼女達なら、何とかしてくれるんじゃないかと、そう思っていて。



「『夜を駆けるもの』に会うには、マーズも言ってたけどユーライジアスクール下町の、ギルドに向かうのが手っ取り早いわ。完全に暗くなる前に早速向かいましょう」

「やはり、何事も基本ですね」

「むぐゅぅぅっ、いい加減はーなせーっ」



でも、その考えはまだ口にしない。

自然体のままの方が面白い……じゃなく、うまくいく気がすると思ったからだ。

リアータは鉄仮面を綻びさせ、楽しげな表情を浮かべて先立って歩き出す。

母が、これでも大分明るくなったのよとこぼす、瞬き始めた色とりどりの地上の星へと向かって……。



   (第10話につづく)









第10話は明日更新いたします。

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