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第88話、幾度となく出会いと始まりのドラマがあった辻にて




SIDE:マーズ



正に転ばぬ先の杖かのごとく。

こんなこともあろうかと。

元よりマーズの身の内にはマニカいたが、そうは言ってもその身一つ。

親世代に託されし護らねばならぬ相手は多い故に、身体がいくつあっても足りない、と言うこともあって。

マーズはそんな皆に何かしら贈り物と称して、逐一様子を確認、あるいは緊急時にそれと分かるようなものを手渡していた。



たとえばハナには、ミィカとセットで(ミィカが贈り物を受け取らないだろうことは分かっていたから)、召喚のために使える最新式の魔精球を。

クルーシュトには、鍛錬用の竹刀を。

ウィーカにはこっそり侵入したい時には鳴らない魔法の鈴を。

季節に関わらず冷気を振り撒きがちなリアータには、おすすめの靴下を。

マジックアイテムの類ではないが、意外とウマがあったのかよくよく仲良しになっていることもあって、ムロガにはクロがそばについてくれていて。


観察と緊急連絡の効果までそれぞれついているだなんて。

さすがのまーず筋金入りのへんたいにゃ、などと。

ウィーカ辺りに既に口癖のように言われているが。


今回そんな緊急連絡を、【ヴァーレスト】の魔力を感じ取って。

それがイリィアに渡したものであると気づいた時には。

マーズは既に、母の『おぷしょん』を借り受けたマニカとともにカムラル邸を出ていた。




特にイリィアはスクールの寮ではなく実家、【虹泉トラベルゲート】があるとはいえ遠い所にいるので。

門番兼従者兼護衛なトリエさんにも一言断って、いざと言う時には緊急避難ができるように拡大鏡……『フォーチュンリーブの瞳』にエンチャント、細工をしていたわけだが。




「一応、ヴァーレスト家に座標指定してたんだけどな。指定した相手だけを転移させるってだけでも複雑怪奇な上に上級魔法だし、何せ使われるのも初めてのことだから、少しばかり転移位置がズレてもおかしくはないだろうが……」

「カムラル家に十八番と伝わる『イリ』系の魔法ですか。それをマジックアイテムとして昇華できるなんて兄さまは凄いです」

「ぐほふっ、いでっ、いででっ! 褒めながら杖を無闇矢鱈に振らないのっ! 物理的なアイがっ! ハートがびしばし飛んできてるから!」

「これ、面白いですね。母さまったら、本当にお借りしてもよかったのでしょうか」



想いを具現化する、『カムラルの杖』シリーズの中でも最高峰で最高にプリティな一品。

母が嫌がるのも分からなくはないが、マニカがその気になればマーズどころか辺り一帯焦土と化してもおかしくない凶悪なそれを。


私にも何かいただけませんか兄さま(ハート)で済ませられるのだから。

やはりあの母にしてこの娘ありだと。

才能に満ち満ちて溢れているのだろうと、ぼこぼこにされつつもマーズは感心していて。




「仮面やマントはもう渡しているしなぁ。……ならば良し。マニカには『翠風のリュック』をあげよう。ヴァーレスト家、御用達のストレージだぞ」

「えぇっ、いいのですかっ? ありがとうございます、兄さま! 大切にしますねっ」



お兄ちゃん大好き、とばかりに抱きつきかねない勢いのマニカ。

おねだりの計算だったのかと思いきや、そんな素直に過ぎる喜びっぷりたるや、純真なる天然そのもので。

夢でなく現実としてそこにいるからこそ、かつて父が母に気を使ってかっこいい男に似合う装備としてプレゼントしたものと同じものだなんて。

口にしたらいよいよもってマニカにやられてしまいそうなのを何とか持重しつつ。


突如として夜に生まれた【ヴァーレスト】の魔力の残滓を辿っていると。

ヴァーレスト家ではなく、いつも登校の際にリアータたちと待ち合わせているスクール下町とスクール正門の境とも言える場所で。


案の定そこには、リアータとその肩口いぺたんと伸びたウィーカ(後で聞くところによると、ガイゼル家は家族サービスで忙しくて抜け出てきたらしい)だけでなく。

ヴァーレスト】の魔力の発生源でもある拡大鏡を抱え持ったイリィアの姿もあって。





「おいおい、またしても夜のお散歩かい。【ガイアット】のお姫様まで連れて……ってか、ウィーカはともかく二人って仲良かったか?」

「もちろんよ。ウィーカのお友達なんだもの。……あら? って、もしかしてお役目様っ?」

「あっ。ええと、母さまのお身体……『おぷしょん』をお借りしてます、マニカです」

「……あっ、そうなんだ。その、良かったわね。お兄さんといっしょに外に出ることができて」

「はい。おかげさまで。ありがとうございます」


恐らく、リアータは世界の中枢に座す母を、直接見る機会があったのだろう。

勘違いしたことで、少しばかり気まずい雰囲気が漂ったのは。

このままマニカがマーズに隠れたままならば、世界の礎となるその役目が、リアータに降りかかる可能性があるからで。


さすがにそこに口を挟む事は憚られるな、なんてマーズが思っていると。

そんな空気が読めない……いや、敢えて読んだのか、みゃうーんと鳴き声上げてウィーカがマニカに飛びかかりに入って。



「ひゃっ!? わぶっ。やわらかいっ。もふもふです~っ」

「にゅはは。そうだろうそうだろう。こーはいもようにゃくあたしとおなじすてーじに立ったってことにゃな」


そのまま、もふもふもふっとじゃれあってお互い笑顔。

それがいいきっかけになればいいなぁと思いつつも。

そうは言ってもリアータとは成り行きで出会ったばかりだったのだろう、所在なさげに輝石を撫でているイリィアに改めてマーズは声をかける。



「よっす、イリィア。おとーちゃん先に帰ってたはずなのに、何かあったのか?」

「おぉ、マーズっ。……それがの、よく分からんのだ。われだけがどうしてがよくよく動けて、他の者はみな、身を守るために『結晶化』に入っていての。恐らくは、ととさまがこたび連れて参られた新しきかかさまか妹御に原因があるのだと睨んでおるのだが……」

「ガイアット王が連れ帰って来ただと? オレが会った時はガイゼル家当主の姿しかなかったはずだが……いや。でも確かに珍しいとは思ったんだよな。あのオヤジさんが手ぶらで帰ってくるなんてよ」



見たところ、確かにイリィアは不安げではあるものの元気はあるようで。

しかし、ガイアット国の人は、その身に危機が迫った時に発動すると言われる『結晶化』を行っている。


王が帰還したそのタイミングで、一体何があったと言うのか。

イリィアだけが動けたのは、たった一人のガイアットの姫である彼女をマーズ自身が頼まれつつも目をかけていたが故、だろうが。



とにもかくにも、踵返す形でガイアット国へ向かってみるべきだろう。

そう思い立ち、この状況で誰かを置いていく流れにはなりそうもないので、みんなで連れ立っていざ向かわんとしたところで。




「ふーはっはっは! 話はきかせてもらったのだぁーっ!」

「面白センサーバリバリキャッチですよ、姫様」


どこかで聞いたことのあるような声とともに。

そんな新たなお荷物……いや、物語には必要不可欠な二人が、満を辞して登場してきて……。




    (第89話につづく)








次回は、4月14日更新予定です。

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