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第87話、闇夜から生まれ出られたのだから、キャラも変わろうというもの



SIDE:マーズ

  

 

 

それは、マーズの両親ともに言えることだが。

根本的に頭の出来が違うのか、何か超常的な力が働いているのか、ごくごく自然にマーズたちが進むべき道を指し示すことはよくあることであった。


マーズが一年ほど前、両親の故郷であるユーライジアへとやってきたのも、両親を含めた同年代の英雄たちに請われた、と言うのもあるが。

その頃はまだいるはずだと分かっていても確信を持てていなかったもう一人の自分、ともいえる妹のマニカにこうして対面し邂逅できるだろうと聞かされていたからなのは確かにあって。


 


「わわ、なんでしょう。兄様のお身体とはまた違いますね。妙にしっくりきますというか……あっ、えと。別に兄様のお身体に不満があるわけじゃないんですからね」

「いや、だからその言い方は……って、やっぱりひとつの身体に複数の魂が居座っているのはどこかで窮屈な部分もあるんだろう。いくらレスト族と言えどな」



現在世界の中枢、生と死の境でもあるその場所を守っている母をはじめとした歴代のお役目たちに与えられし救済措置、その名も『おぷしょん』。

古代語で片腕だの配下だの様々な意味を持つそれは、籠の鳥であった彼女たちが変わりの肉体を与えられて自由に遊びに行けるというもので。

 



ガイアット国へ向かう予定ではあったのだが。

母が今すぐ向かえと言うのならば何かあるのだろうと。

さっそくとばかりに母の『おぷしょん』……その身体を借りて、マニカとともに母が創り出した『異世』と呼ばれる個人の領域から飛び出してきたわけだが。


現世に戻って大分座標がずれたのか、母の気遣いなのか。

出てきたのは、世界の中枢の上に座す【ヴァーレスト】の教会ではなく。

母の『異世』とほぼ同じつくりであるカムラル邸の、今は使われないままに維持されている私室であった。


それでもマニカは、夜……あるいは夢の世界にて普段使っている場所でもあって。

勝手知ったる姿見の前にて、仮面もつけずにくるくる回りつつあちらこちら確かめている妹の様は。

それこそ一番上のオニイチャンでなければ即ノックアウトしていただろう凶悪にも程がある可愛さで。


何とか表面上だけは冷静を保って、複数の別人格がいたとされる父や叔母の凄さに唸っていると。

絶滅危惧種な台詞を口にしつつ致命的な魅力を放つマニカは。

改めて気づいた、とばかりにはっとなって。



「兄様っ、夢じゃないですよっ、兄さまがこうして目の前にいますっ」

「お、おぉ。そうだな。何だか感慨深いよ」


珍しくはしゃいでいるマニカの様に。

やはりどうにかして、マニカにはマニカだけの身体を用意するべきだなぁ、なんて思っていると。


「それでですねっ、夢だとやっぱり感触がはっきりしないといいますかね、折角の機会ですから抱きしめてもよろしいですか?」

「うぇっ!? ちょ、まっ。そんなキャラだったかおい。いや別にやぶさかではないんだが……って、いやいやダメだダメだダメだっ!」



夢の世界ではさんざんばらスキンシップ過剰だったからこその反動というか。

まちがいなくマーズを殺しにかかってきている純粋に過ぎるマニカのおねだりに、死んで悔いなしなどと思い込みつつも。

今そこにいるマニカはあくまでも母のものであって、さすがにそれはまずいと何とか自制のブレーキを効かせて話題を逸らすことにする。



「ってか母さんが虎の子の『おぷしょん』をわざわざ貸してくれたんだから喫緊の何かがあったんだろう。……っ! ほらっ、これはもはやお馴染みの虫の知らせ……とは違うが魔力反応がするだろ?」

「……っ、これは兄様の【ヴァーレスト】の魔力ですね。マジックアイテムですか?」

「おぉ、そうだ。たぶんスクールの方だな。よし、急ぐぞっ」

「はいっ」



またあとでお願いしますね、お兄ちゃん。

なんて続く台詞はマーズの聞き間違い、よくある幻聴だったことにして。

冷や汗かきつつとりあえずは命拾いをした、とばかりに部屋を飛び出す。




「なんや、帰ってたんか。随分とお楽しみだったようやなぁ」

「うどわぁっ!? って、なんだミネア先生か。べっ、べべべつにそんなんじゃねぇしっ!」

「あ、ごめんなさいミネア先生。お母さまが急ぎということでここへ運んでくださったみたいなのです」

「ん? んん? ぼっちゃんがようやっと誰か連れ込んだ思たら……もしかしてお嬢さまか?」

「あ、そうでした。夢でここに来る時にいつもお部屋のお掃除とかしてもらっていたから私ばかり知った気になってました。ええと、今はお母さまのお身体をお借りしていますが、マニカです」

「おぉ、そうか。ようやっと出てこられたんやなぁ。お祝いせな」



こりゃあお赤飯やな、それ以上言わせねぇよ! までがセットで。

あまりにも息の合いすぎるサントスールなまり(ハナはそれほどなまってないが)女性は。

今も現役でユーラジアスクールの教師をしている、ミネア・キャンベルであった。


脅かすために気配を殺し母の私室の外に待機していたのは、久方ぶりに主の帰還を感じ取ったのもあるだろうが。

マーズが父方の家に入り浸っているから現在空家状態に近いカムラル邸を管理して取り仕切っていたからなのもあるだろう。

(ちなみに、マーズがマニカの存在に完全に気がつくまで、『夜を駆けるもの』を代行しているだろうと思っていたのは彼女である)




「……まぁ、それもこれもぼっちゃんがいつものようにすべからくまるっと解決してからやな。なんやぼっちゃん、ぎょうさんお客さんやで。英雄なんちゃらもいいが、背中から刺されんようにな」

「ツッコミどころが多すぎるっ! ってかまずはぼっちゃんはやめてくれぇぇっ!!」



何だかお二人仲がいいんですね、羨ましいです、とか。

大丈夫です、兄さまの背中は私が守ります、とか。


やはり現界できたことで大分浮かれているのか。

悲鳴にも近いマーズのツッコミに対して、正しく『おぷしょん』の面目躍如。

マニカの初ボケが大きに過ぎるカムラル邸にシンクロするのであった……。



     (第88話につづく)








次回は、4月9日更新予定です。


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