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第86話、大事なところはきっと赤オニがもってっちゃうだろうけれど



Girls Side



「にょわわぁぁぁっ!?」


まるで、人の頭にとっつき、その魔力ごと中身まで吸ってしまうというげに恐ろしきモンスター、『ヘッド・スクイーズ』に取り付かれてしまったかのような。

頭から拡大鏡に吸い込まれていくかのごとき感触に。

父になりきって精神の安寧、冷静さを保っていたことを忘れて、大分情けない悲鳴をイリィアがあげていると。


それからすぐに、夢などでよくあるような高いところから落下しているかのような感覚に陥った。

ヴァーレスト】の魔力……と言うよりも、包み込む風と薫る草木の匂いを確かに感じて。

イリィアはそれまで閉じていたまぶたを恐る恐る開くと。



「どっこぅっ!? スクールっ? わわぁっ」


どうやらイリィアは、スクールの寮棟近くの中庭、その中空にまで飛ばされたらしい。

一体どのような仕組みでそんなことができるのか、興味が尽きなかったが。

当の拡大鏡……『フォーチュンリーブの瞳』が、イリィアをおいて上空へと飛んでいってしまいそう(実際は逆)だったから。

慌てて手を伸ばし、何とかそれを掴むことに成功したまではいいものの、その後のことを失念していて。

ヴァーレスト】魔法などを使って身体を浮かせようなんて考える暇もあらばこそ、イリィアはそのまま真っ逆さまに中庭へと落ちていって……。




「にゃうんっ!」

「【リエイト・ウルガ】っ!」


イリィアの好奇心にあえなく儚くなって(いません)いたはずのらいばるにゃんこの勇ましい鳴き声と。

ウルガヴ】の魔力に満ち溢れしまじないがイリィアの耳朶を打って。


綺麗に剪定されてはいるものの、トゲトゲな木の枝によるざりざりなダメージを覚悟していたけれど。

その瞬間イリィアをさらに包み込んだのは。

その場で眠りについたのならば色々とダメになってしまいそうなくらの心地よい感触で。



「なんぞぅっ!? こっ、これこそが根源扱いしおふとん……って、リオねね様っ!? たっ、大変なのですっ、ガイアット国が! トリエもきっとおそらく他のみなも結晶化するほどの何がが起こってっ」



うまいことクッションの役目を果たし、イリィアを落下の衝撃から守ったのは。

通常イメージするような水色をたたえし大きめのスライムであった。

それに何だか懐かしいものを感じ取り、抗いがたい柔らかさから何とか逃れて顔を上げれば。


そこには三番目の姉にあたる、ラルシータ……【ウルガヴ】の一族に嫁ぎしリオ・イシュテイルと見まごう長い青髪、蒼い瞳持ちし少女の姿があって。

しなやかなシルエットに、凍りついているかのように動かない表情を目の当たりにして、確信を得てしまったイリィアは。

二人の間にじゃまものらいばるにゃんこが抱えられるようにしてそこにいたことをすっかり失念して。

感情のままに飛びつき抱きついていってしまう。




「ふみゅぐぅ。こにゃっ、おみぇえっ! あちしをむししてあたしのリアに抱きつくなんてどーゆーりょうけんにゃぁっ!」

「きゃっ……って、リオ姉さん? ごめんなさい。確かによく似てるとは言われるのだけど。私、リアータです。ええと、隣のクラスのウィーカのお友達のイリィアさんよね? そんなに慌てて何かあったんですか?」



不意の感触に驚いたものの、突然空から降ってきたことに動じた様子もなく。

むしろ中庭に異変、魔力反応を感じて咄嗟に外に出たのは。

ここ最近ハナによる突然の召喚魔法により誰かが現れたり、急にいなくなったりしているのを目の当たりにしていて慣れてきている部分もあったのだろう。


そんなリアータってばほんとできる子にゃ、なんて。

サンドイッチにされいつもより一層ぺたんこになりつつも自分のことのようにウィーカが誇らしく思っていると。


そんなウィーカとリアータの存在に改めて気づいたらしいイリィアは。

人違いしてしまって申し訳ないと律儀に頭を下げつつ、そそくさと二人から離れて居住まいを正す。




「むむ、そうか。らいばるのますたーであらせられるラルシータの姫君であったか。

リオねね様がお世話になっておるというに、はしたない真似を。重ね重ね申し訳ない。ここは、ユーライジアスクールでよろしいか?」

「ええ、寮の裏手にある中庭だけど。……実を言うとマーズの魔力を感知したのよ。マーズのことだから隠れてどうこうってのはなさそうだし、こんな時間に何かあったのかしらって思ったらあなたが落ちてくるのを見つけてね。マーズじゃなくて、もしかしてハナさんに呼ばれたとかかしら?」

「まーずならようじあるならどーどーと窓から入ってくるにゃもんね。どうどうとしたへんたいにゃ。ってそれは『夜を駆けるもの』でこーはいのほうだったにゃか」



イリィア自身も全容は測りかねてはいるが、ガイアット国にて何か重大な事件が起きているのは事実で。

今すぐにでも帰還したいが、それにウィーカやリアータを巻き込むのは遅きに失しているとは言え忍びないと。

どうにか誤魔化してお暇せんとしているイリィアのことをリアータもウィーカもすぐに察したらしい。


よって、イリィアの気を引けそうな話題を持ち出し、引き止めて。

何かあったのならばもちろんマーズも巻き込んで、少しでも手伝えることがあるのならば、なんて気概を伝えると。


今にも駆け出しそうにうずうずしていたイリィアは、うぐぅと言葉失って。

自分だけ逃がされたのかもしれない寂しさと、そんな二人のやさしさに泣きそうになるのを何とか堪え、改めてリアータとウィーカをそのエメラルドの輝石で見つめ返して。



「こっ、こんな夜更けにもうしわけないっ。だが、国の危機かもしれんのだっ。どうかわれに力を貸してもらえないだろうか!」



決死の思いのこもった、泣きそうだけど『かっこいい』イリィアの朗々とした訴え。


当然のごとく。

思わず顔を見合わせた二人の答えは決まっていて……。


SIDEOUT



       (第87話につづく)








次回は、4月4日更新予定です。

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