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第82話、本筋本編でひた隠しにしていたものを、あっさり晒していくスタイル




SIDE:マーズ




―――『夜を駆けるもの』。



その神出鬼没な何でも屋がユーラージアの世界で語り継がれるようになったのはいつの頃だっただろう。

記憶……記録に残されているのは曽祖父、マーズから見てひいおじいさんがカムラル家に婿入りする前にこなしていた家業のようなものだったらしいが。

そのマントと仮面は代々様変わりしようとも、見た目より大きく性別不詳に見せる『認識阻害』の魔法と、夜な夜なこっそり抜け出しても大丈夫な『気配消し』の魔法がかけられている。

  

マーズとしては、代々のやんちゃなカムラル家のお姫様がこっそり夜の城下町を楽しむための変装、手段といった認識で。

リアータやクルーシュトに『夜を駆けるもの』と勘違いされていたのを頑なに違うと言い張ってきたのは。

自分がその中に加わって良いはずがない、といった気恥ずかしさもあっただろう。




「前回は出てこられなくて申し訳なかったね。席を外していたと言うのもあるが、どうせならきょうだい揃って語り合いたいと思っていたんだ」

「そんなこったろうとは思ってたけどよ。それはともかくとして何故にその格好?」

「何故って色々と大人の事情が……じゃなかった。重要な場所場面に突如として現れた謎の人物っぽくて衝撃的だろう?」

「謎も何もそのカッコするのはうちのもんしかいないだろうよ。……まぁ、母さんはある意味その姿の方が刺激が少なくていいけどよ」

(えっ? おかっ、お母さん!? えええぇっ!?)

「ふふふ。その反応が欲しかったのだよマニカ。マーズと来たらここ最近つれなかったからね。……後ついでのように貶すのも控えてもらいたいところだけど」

「そう言う意味じゃないんだが。ってか、やっぱり母さんマニカの声が、いや。見えてるんだな」

「それはもちろんさ。息子も娘も父さんに似てとても愛らしいよ」

「いやいやそりゃありえねぇって。一体母さんにはオヤジがどんな風に見えてるんだよ。……まぁ、マニカが母さんに似てすっげぇのは認めるが」

(似て……らっしゃるんですかね。あ、でもよくよく伺いますと細かい部分が違うのですね)



席を外していた理由に対して敢えてツッこむことをしなかったのは。

どうせそんな愛らしいなどといった言葉とは真逆を爆走している諸悪の根源オヤジと異世界にてよろしく……冒険ついでに世界のひとつや二つを救い上げていたからだが。


カムラル】を指し示す真紅のマントと、マーズの父の主属性でもある【ヴァーレスト】を表す音符をあしらった架の紋様が刻まれし真白のフェイスマスク。

【夜を駆けるもの】として夜、夢中でだけ行動できていたマニカの出で立ちと同じようで細かい所の違うそれは、確かに彼女に良く似合っていた。

マーズが、何の予兆もなく現れた謎の人物が母であると断じることができたのは、もちろんその出で立ちのせいもあるが。


【認識阻害】と【姿消し】を常に発動していてもなお、滲み出て隠せないちっこさ……ではなく、凄絶なる美しさもあっただろう。

どうせなら仮面とマントの姿での対面の方が良いとのたまったのは、よくよく似ているマニカがそうであるように。

どう見積もってもマニカの妹くらいにしか見えない彼女にその自覚がまったくもってないからとも言える。


一族の呪いめいた性質上、『オレは男』だと言い張って生きるのが常だったせいなのか。

あの本当の意味での愛の怪人オヤジが泥を吐くような台詞を口にしてもふためと見れぬ素顔であると勘違いするくらいなのだから筋金入りで。

間違いなく同じ血を色濃く継いでいるであろうマニカも、恐らく母の素顔を見なくては納得しないはずで。




「あー、ええと。前言撤回ってわけじゃねえけどさ、相談事の前にここにはオレたちしかいないんだし、初対面の掴みはもう十分だと思うんだがどうだろう」

「それもそうだね。相談事っていうとレスト族の【分割】の……いや、イシュテイルに伝わる輝石についてだったね。ここで立ち話もなんだし、ちょっと場所を変えようか」

(あぁ、やはりそのお話は兄さまだけでなく母さまにも伝わって……これはっ!? 音に聞く最上級魔法っ!?)



世界の礎となる命を負った母の現状。

そんな使命の救済措置とも言える『おぷしょん』……分身である『夜を駆けるもの』スタイルの彼女が不在であったのならば。

きっともれなくマニカはその様を目撃していたことだろう。


文字通り十二色に染められたクリスタルの山に閉じ込められ、中空に磔となって揺蕩い眠る母の姿を。

前回『おぷしょん』でもある彼女が出てこず、今回姿を現したのは。

久方ぶりに顔を合わす娘マニカに対して、そんな自身を見せることに躊躇いが少なからずあっただろう事は確かで。


とはいえ、勿論口にはしないが。

いずれ同じ使命を引き継ぐ事となる彼女なのだからある程度事情は知っているはずで。

いつかは向き合わなくてはならないのだが、そうは言ってもマニカ自身もまだマーズの内にいる以上覚悟が決まっているわけでもないだろうから。


やんわりと、素顔晒すことと場所の移動を進言すると。

相変わらずの鯱張った言い回しとともに正しくも無詠唱で魔法を発動する。




それは、【ラィリ・スローディンズ】と呼ばれる二種類以上の属性を掛け合わせ発動される合成魔法の一つであった。

一般的に三属性以上が混じ合わされると最上級の冠がつくが。

カムラル家は代々三種の合成魔法を使うことが目標であり誉とされてきた。


覆滅……攻撃魔法の『デルタ』もそうだが、移動の際に使われる『イリ』と名のつく魔法は、特に『夜を駆けるもの』に扮する姫君たちが愛用していた魔法で。

素直にびっくりしているマニカであるが、彼女も『イリ』とつく魔法は使えるはずで。


それでもすごい魔法に興奮しているのは、それが無詠唱かつパーティごと、術者とかのものに許可された者しか入れない固有の世界へ移動する魔法だからなのだろう。




それは、現在ユーライジアにて広く使われている移動手段、【虹泉トラベルゲート】の源流でもあって。

虹泉と同じく、移動の際の何とも言えない酩酊感が嫌なんだよなぁ、なんてことは。

母と妹の手前、当然のようにマーズは口にすることなどできなくて……。



      (第83話につづく)








次回は、3月12日更新予定です。

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