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第81話、泣かない赤オニは、平気で白い嘘を吐いてみせる




SIDE:マーズ




自由奔放な豪放磊落で、人たらしの師匠でもある死神師匠ことガイアット王は。

しかしそれでもその日のうちにマーズを引っ張っていくことはなかった。


どうせ訪問するのならば(いつも牛乳配達……冒険者ギルドからの仕事で通ってはいるのだが)ハナとミィカも一緒に来ればよいと言われたこともあるし、恐らくガイアット王自身、国への帰還も久しぶりで。

魔剣聖師匠ことガイゼル家当主と同じように。

まずは家族とのふれあい、団欒がしたかったのだろう、などとマーズは判断していて。




そんなわけで、いつもの仕事とは違う、正式なガイアット王国の訪問は。

スクールが休みとなる週末となって。


離れていても、立場が色々様々違っても。

家族が仲の良いことは素敵なことだよなぁ、なんて思いつつもマーズは日課……と言うほど頻繁でもないが。

母の眠る『世界の中枢』と呼ばれる場所へと足を運んでいた。




当然のごとく、今はマーズのふところ……ではなく内なる世界にいるマニカも一緒である。

マーズがマニカのことをはっきりと自覚、認識するようになってから母に会いに行くのは初めてだったから会わせたかったと言うのもあるが。

マニカとマーズが一個人として存在できるように、何か方法というか可能性があるのかどうか。

前回聞きそびれてしまったから改めて聞きに来た、と言うのもあった。



現在進行形でユーライジアの至宝と呼ばれるマーズの母は。

マーズにとって母であることに加えてあらゆる知識を与えてくれるやはり師匠でもあった。

主に……一番教えてもらったのは魔法だが、旅や冒険のおとぎ話めいた実話(本人談)や、商売や農業、はたまた経済のことまで、それこそ意志を持った頃、小さい頃は寝物語として聞かされたもので。

今となっては図体がちぐはぐになってしまったこともってそんな機会もなくなってしまったが。

分からないことがあれば母に聞こうとなるのは、もう自然の流れではあって。




(とか言いつつ、前に来た時はいなかったんだよな。また無駄足になる可能性も無きにしもあらずだが)

(そうなんですか? いまいち状況がつかめないのですけど。夢というか、夜にここへきたことありませんでしたからね)

(あー、やっぱりそうなのか。初めて来たマニカにはちょっと刺激が強いかもなぁ)

(えぇっ、何なんですかそれは。おどかさないでくださいよ兄さま)



毎度毎度クロやチェリさんの身体をお借りして対話するのもあれなので。

心内……テレパスのような力でならば夜でも夢でもなくとも可能になった二人。

一方的な独り言を呟きつつ徘徊している赤オニにならないで済むのは大きな進歩だろう。



頭の上の辺りから聴こえてくる、鈴を転がしたようなマニカの笑い声。

そんな彼女からすれば、現状は人が乗り込めるタイプのゴーレムに搭乗している操縦者のごとく、らしい。

瞳の向こうにちっちゃいマニカがいて、巨大な……あんまりいうことを聞かないかもしれない自分を操っているのを想像してそんな笑みがマーズにもうつったが。


ヴァーレスト】の教会から繋がる地下深く続く螺旋階段を下りに下ってたどり着いた十二色が支配する異空間、その中心に座すやはり十二色に乱反射し煌く氷山にしか見えない、生と死の楔にして門でもある威容を目の当たりにしてマニカが息をのむのが伝わってくる。




(ここが……私がずっと避け続けていた、いつかは永い時を過ごす終の棲家、なんですね)

(そういやそうだったんだっけ。そんな事すっかり忘れてたぜ。っつーか知ってたか? 実はここのお守りって言うほど長い時間でもないらしいぜ。あと、はりつけされてるみたいにいつまでもじっとしてるってわけでもないみたいよ。実際、抜け出してオヤジと異世界行脚してる母さん見てるしな)

(えぇっ? そっ、そうだったんですかっ!? し、知らなかったです……)

「あ、やべっ。これってお役目につくまでは言っちゃいけなかったんだっけか。すっかり失念してたぜ」

(兄さま……っ)


とぼけたその様子は、敢えて口に出していることを鑑みてもオニが忌避するらしい嘘っぱちも甚だしかったが。

いわゆるそれは、優しい白い嘘なのだろう。

そしてそれこそが、マニカを連れてここに来た最後の理由でもあった。



過去の、歴代のこの場にて人柱となってユーライジアの、世界の近郊を保ってきた根源に愛されし無垢なる乙女たち。

マニカがそうであったように、その宿命を負った彼女たちは、その重さに皆が皆苦悩し、時には押しつぶされ逃げ出すようなこともあったという。



大抵は、乙女でなければ命を負わなくとも済むとばかりに、『男である』と主張することが多かったようだ。

マーズの父は、そんな病や呪いにも似たそれに苦しむ母の宿命を身代わらんと、性別どころか魂すら代われることをいいことに、それならば僕が変わろうなどとのたまって、実際に変わって見せたりして母の背中を押したらしいが。


マーズから言わせれば、この場で楔となる少女たちのための救済が用意されていると言うのに。

古きからのお約束だからそれを口にしてはならないだなんてクソ喰らえだと思っていて。

実際口にしたらどうなるのか。

時の狭間に棲まい人柱となる乙女を護るとも言われる大魔物でも襲いかかってくるのかといろんな意味で期待、ワクテカしていると。




「……ふむ。流石は私たちの可愛い子供たち、と言うべきなのかな。寝物語で幾度となく聞かせただろう? 時の狭間の魔物が喰らいにやってくるから、いい子にしているんだよ、と。それとも、敢えて呼び出して遊んでもらう腹積もりだったのかな。……まったく」

(えっ? わ、私? じゃなくて、『夜を駆けるもの』がいますよ、兄さまっ)



あるいはやってくるかもしれないと思っていなければ。

そんなマニカのように飛び上がってびくりとしていたことだろう。


本当にいつの間にか。

氷山とマーズたちの間に真白のフェイスマスクと極彩色のマントをはためかせる神出鬼没な怪人がいたのだ。



マニカの、夜……夢の世界での正装とも言えるそれを身に纏った。


カムラル家に代々引き継がれし、『夜を駆けるもの』などと呼ばれる存在が。



    (第82話につづく)









次回は、3月7日更新予定です。

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