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第8話、従霊道士の本来あるべき姿は、もふもふ『獣型』を愛すこと




「ここよ」


考えてはいけない方向にそれかけた思考を自ら逸らすようにして指し示したのは。

居住区からこっそり茄色に染まる校舎へと入り、暫くの事だった。

それは、いつか授業でも使うかもしれない一室。




「『生物室』……ですか」

「おぉう。魔精霊の気配がするぞぅ」


ミィカが呟く通り、入口前のプレートには『第一生物室』と書かれている。

リアータが控えめなノックとともに失礼しますと声を上げると。

それを待ってましたと言わんばかりにハナが一番乗りで部屋へと入っていく。



中に入ると、まず目に入ったのは無数の鉄檻。

魔力により閉じ込めておくその中には、大小種類様々の『獣型』と呼ばれる魔精霊達が、各々過ごしていた。


他種族と言葉を介す事が基本的にはできない彼らは、魔物と混同される事が多いのは先にも述べたが。

実際、元々一つの魔力属性しか持たない彼らが、その他の属性に染まる事で魔物となるものもいるので、

厳密に言えば同じ存在、とも言えた。



「なぁ、リア。なんでこの子たち閉じ込められてるんだ?」

「基本的に、怪我をした子達が保護されてるって聞いてるわ。認め見初められれば人の従属魔精霊になる事もあるけど、治れば『グラウンド』に放されるみたい」


のっそりと近づいてきた、橙色の水鞠のような魔物……リカバースライムを撫でながら、リアータはここに初めて来た者なら必ず聞いてくる類のものを、クラスメイトに学校案内してもらったはずではなかったのかと内心で思いつつもそう説明する。



「ほほう。そうなのかぁ」


それに対し、帰ってきたハナの返事は、リアータの思っていたものとは少し違っていた。

朝集会の壇上で『あんな事』を宣言したのだから、てっきりここにいる魔精霊たちの事も欲しがるのかと思いきや、あまり興味のない様子。



(やっぱり、『人型』以上が好みなのかしら……)


少し特殊ではあるが、『獣型』の魔精霊たちを主に従える……ハナと同じ従霊道士(志望)であるリアータとしては、表情変わらずも興味を持たれなかった事に内心でがっかりしていたわけだが。



「……え?」


それまで、リアータ達の元へと集まろうとしていた魔精霊達。

ぼうっとしていて、何を考えているのか分からないリカバースライム以外が、心なしか距離を取ったというか、リアータから離れていくではないか。



(うーん。お母さんの言ってた事、本当だったのね)


ハナの父親ほどではないが、リアータの目から見ても優秀な従霊道士であったリアータの母。

そんな母がよく口にしていたのは、魔精霊達に嫌われる日と好かれる日がある、というもので。

初めて目の当たりにするその光景に、結構ショックを受けつつもマイペースにリアータに撫でられるままになっているリカバースライムにほっこりしていると、何故か申し訳なさそうにいているミィカと目があった。



「弱きものこそ、強さに怯え震えるものです。仕方ないですね」

「? ええと」


それって逆のような気もするが、もしかしなくても自分を励ましてくれているのだろうか。

そう思いつつリアータが首を傾げていると、それはもう得意気などや顔で。


「みぃかは自分のつごーが悪くなるとすぐにそうやってむつかしい事言ってごまかすんだ」


ハナがそんな事を口にする。


「ひ、め、さ、ま~」

「んにゃっ!? いひゃいいひゃいっ」


どや顔から一転、随分と柔らかそうに伸びる頬。

ちょうど、角の取れた三角形みたいになっていて。

思わずリアータは吹き出してしまう。


「ふふ。やっと見ることができました、リアの笑顔」

「……っ」

「みぃかのばかぁーっ」


涙目になりつつもぽこぽことミィカを叩くハナを脇目に、リアータは自分の顔が赤くなっていくのを感じていた。

単純にそんな事を指摘されて恥ずかしい、というのもあっただろうが。

そんな事を言われるくらい表情筋が動いていないと気づかされたせいもある。


父曰く、母には二面性があって大変だった(だからこそ燃えた、なんてノロケを日がな聞かされている)そうだが、リアータはその血が変則的に顕れているようだ。


リアータ本人としては、そんなつもりはないのだが。

やはり周りには笑顔の一つも見せない鉄仮面女だと思われているらしい。

実際、そう言われているのも聞いたこともあるくらいだ。


それを打破し、歩み寄ってきてくれる事は大変喜ばしい事ではあるのだが。

さっきまでじゃれあってたのに、いつの間にか期待に満ち満ちた顔をしている二人に対し、リアータは逃げるように先を促すしかなかった。



「と、とにかく学校を出ましょう。話はそれからよ」


ニヤニヤしてる二人をかわすように駆け出し、指し示したのは誰もいない檻の方だった。

この部屋の中で、一番大きいだろうそれの奥。



「あれは、転移の魔法陣?」

「にじのいずみだーっ」

「あっ、ちょっと」


こんな所にもあるのですね。

なんて興味深げなミィカ。

その脇からすり抜けるようにして、ハナが駆け出そうとするのを慌てて肩を掴んで止める。



「んあ? どした、リア?」

「ここの檻には結構な量のセザールの魔力が流れてるから、反属性……特にエクゼリオ属性がメインの人は危険なの」

「そうなん? そんなふうには見えないけど」

「そうなの。下手すれば身体が消滅するわよ」

「……っ」


そのまま抱きとめるような形でハナに言い聞かせていると、その隙を突くようにそっと伸びるのはミィカの手。

目ざとくその事にも気づいたリアータは、脅しの意味も込めてそう忠告する。

青い顔をして手を引っ込めるミィカに、だんだんと二人の扱い方が分かってきたかもしれない、なんて思いつつ。

リアータは自らの手のひらをにセザールの魔力を集める。



「うわ、まぶしっ」


案の定、ハナもミィカもセザールの魔力属性があまり好ましいものではないようだ。

ミィカは手をかざし露骨に顔を顰め、ハナもばたばたと離れていってしまう。


そんな蛇蝎のごとく避けなくても、なんて苦笑するリアータ。

実際、反属性同士のセザールエクゼリオが共存できる例もあるし、そんな邪険にする事もないのになぁ、なんて思いつつもその手のひらを淡く白色に光る格子の一本に近づけていく。



「本当はここの責任者に一言言っておきたかったのだけど、いないのなら仕方ないわね。まぁ、一応許可は取ってあるから」


そして、そんな事を言いつつそれなりに重量のありそうな鉄格子の一本を、あっさり取り外すと。

その隙間を縫って中へと細身を滑り込ませていく。



「……何だか恐ろしい事をいとも容易く行っているように見えますが」

「リア、すごーい」

「こんなのたいした事ないわよ。たまたまカラクリを知ってるってだけだし」


こうやってまともに感嘆されると、やり方をただ知っていた事がいたたまれないのか、そんな謙遜もついて出る。

実際中々に出来る事ではないのだが、それも言わぬが花と言うものであろう。



    (第9話につづく)









第9話は明日更新いたします。

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