第76話、それが、魂そのもの大事なものであるからこその得難き試練
Girls Side
「最初にも言いましたが、実は今のわたしは、本来の意味での魔導人形じゃないんです。【木】の魔精霊のこころが、魔導人形のからだに入ったことでいまのわたしがあるのですよ」
「にゃーにをいいだすのかと思えば、くーママってばじぶんがすっごいの自覚にゃさすぎ。魔導人形がからっぽのあやつり人形だったのは昔のはなしでしょ。そもそも、人形なんていいかた古いにょ。ユーライジアに生まれた新しい種族、『魔導人族』の先頭にたってて、代表みたいなものなんだから、もっとどうどうとしてればいいにょに」
「魔導人族? あぁ、それなら耳にしたことがありますね。何でも単一属性で存在しているのが常な魔精霊において、初めて相反する二属性を持ち合わせた種族が生まれたと。……なるほど。それってタクトさまのことだったのですね」
「う、うーん。わたしとしてはそんな。恐れ多いんだけどねぇ」
現在のタクト自身が奇跡の賜物と言ってもいい存在であることに。
もしかしなくても、タクト本人が一番自覚というか、そんなたいそうなものじゃないと思っているようで。
幼い時からクルーシュトとともにずっとそばにいた娘同然なウィーカの方がやきもきして頭から体当たりする始末。
ミィカも耳にしたことがあった、新進気鋭な種族『魔導人族』は。
魔精霊の中でも、【月】と並び、とりわけひとのつくったものにつく事の多い【木】の魔精霊たちが、本来相反属性であるはずの、【金】に愛されし種族の創り出した人の型を気に入り入り込んで終の棲み家としたことから始まっている。
タクトにはやはり自覚はないが、その最初のひとりとも言うべきなのが彼女なのである。
自覚がないのは、生まれた時から魔導人形のからだの中にいて。
戦乱の最中、人の役に立つためにつくられた魔導人形として大好きな人のために命を賭して。
だけどそんな大好きな人に一目会いたくて輪廻転生し、紆余曲折あっての今なのである。
あくまでも自分のためにでここまでやってきたから。
かわいいかわいい娘同然なウィーカにそんな風に褒めれたら照れてしまう。
ぐりぐりとじゃれてくるウィーカのやきもきにも気づかず。
最近クーちゃんはくっついてくれなくなっちゃったから余計に嬉しいなぁとわしゃわしゃし返しつつ、結局ずれてしまって話題を自ら戻すことにして。
「マニカちゃんは、自分だけの居場所を、魔導人形に求めているってことでいいの?」
「は、はいっ。今までは兄さまとともにあることに疑問を持ってはいなかったんですけど。……ええと、その。なんと言いますか。別々の方がいいことに気づいたといいますか」
「ん? なんだ、どうしたのだマニカ。ボクともふもふするのか?」
「あぁ、なるほどです。おんなじ身体を共有していたらもふもふ、抱きしめることもできないですもんね」
「ぅえっ!? いやそのその、はいぃ」
クロの身体を借りていて視線の行方など分かりにくかろうに。
ハナもタクトも、マニカの羨望、嫉妬めいたものに気づいたらしい。
くしくもハナたちと出会ってから。
兄と触れ合う彼女たちを目の当たりにして。
自分も抱きしめてほしいと(ミィカがその心うちに気づいたのならばそんな事態に陥ったことなどありえないと憤慨しそうだが)思うようになってしまったのだ。
加えて、目の前のタクトのように、新たな個として存在できるようになれば。
家族ではできないだろうことができるではないか。
そんな事を考えてしまったから、わぁーっと飛び回りたくなって羽をばたばたさせていると。
口にはせずともなんとはなしに兄馬鹿成分が出てしまっていたのか、ミィカがいやーな顔をしていて。
そんな彼女だからこそ一番のライバルになり得る、傍から見ていればよく分かる……兄の好みなんだとは悔しいからやっぱり口にはせず。
「なんだ、やっぱりこーはいもまーずにもふもふされたいのかぁ。らいばる多いなぁ。さいきんまたふえたし」
「……なんでそこで私を見るのですか。不快です。もしかしてそこに私も入れようとしてないですよね?」
「えっ?」
「その何を今更顔をやめなさいっ、今はカラスの分際でぇぇっ」
「もふもふするなら、ボクもまぜるのだぁーっ」
本題に入りたかったのに、結局そんな風にわちゃわちゃと微笑ましい感じになってしまって。
マーズじゃなくてもずっと見ていたいのは確かだけど、感覚的にどうやらかたがついたらしいことが分かって。
そのうちに、マーズもクルーシュトも戻ってくるだろう。
マニカのたった今明かした本音は、きっとマーズには聞かれたくないだろうから。
改めて今のうちにと、タクトは肝心なこれからのことを口にする。
「魔導人形にはね、【金】の粋を集めた素体と魔力そのものでもある魂とはべつにそれらを結びつけるために必要なものがあるの。【地】に属する、『イシュテイル』と呼ばれるひとたちが必ず持っていると言われる『輝石』が」
どうやら、わたしたちの魂は、ここに封ぜられているみたい。
そう言ってタクトが、お辞儀するみたいに頭を下げると。
深い緑の髪の向こうに。
確かに煌々と輝き燃える、エメラルドのごとき輝石が存在していて……。
SIDEOUT
(第77話につづく)
次回は、2月9日更新予定です。