第75話、世界を作りし12色は、すべての生あるものに繋がっている
Girls Side
「ええと、それでクロさん改めマニカさんは、魔導人形について知りたいんでしたよね?」
「はい。ご覧のとおり私はこうやって人様の身体をお借りして生きながらえることしかできませんので。自分だけの身体がないものかと探していたのです。そんな中、魔導人形さんの話を耳にしまして。その第一人者であるタクト・ガイゼルさまにお話を聞きたいとこうして参った次第です」
「おいこーはいっ、にゃんだかついさっき聞いたっばかりなはらたつせりふが聞こえてきた……っ」
「うふふ。ガイゼル、かぁ。そうなんですよねぇ。わたしガイゼルさんなんですよねぇ。ただの魔導人形さんだったわたしが……何だか不思議です」
お茶会の場も盛り上がってきたところで。
ようやっと本題とばかりに、タクトの方からそう切り出すと。
ウィーカよりもマーズが聞いたらそれは俺のセリフだ妹よ! と怒涛なツッコミが挟まれそうなマニカの言葉に。
やっぱり兄妹、似た者同士なのかついさっき耳にした泣きそうになるほど卑屈なセリフにウィーカは文字通り噛み付きかけたが。
本当の両親が長くこの世界を離れていて、ウィーカにとってみれば最早母親同然でもあるタクトの話の腰を折ってはいけないと。
その変わりに、自己肯定感の薄いマニカに抗議する意味で飛びかかり飛び乗って『たしたし』していると。
妻となり母となってもう随分と経つのに、かつての自分を思い出すとやっぱり夢のようで信じられぬとばかりにタクトはしみじみしていて。
「魔導人形とは何か、まずはそこからですかね。今はスクールに通っている子は……ラルシータのほうにはいるみたいですけど。わかりますか?」
「はいはーい! 【金】の魔精霊さんたちの別名? じゃなかったのだ?」
「ええと確か、人族によって創り出された文字通り魔法で動く人形ですね。そのボディや性能は様々、英雄が跋扈していた時代ではユーライジアにも相当数いたと耳にしております」
「人形? やっぱりさまよーヨロイなのか? でもでもタクトさんもクーさんも金属っぽい感じ全然しないけど」
「魔導人形は金属によって作られたものと限りません。ゴーレムのような岩や木、果てには生体……いえ、これはちょっと姫様には刺激が強すぎますか」
自分が授業まがいのことをするなんて、なんて苦笑しつつ。
折角の機会だからと根本的なところから話始めたところで、会話に混ざりたかったハナが手を上げ、ミィカがしたり顔で活発に返事をくれる。
「うん。わたしは正確に言えば元魔導人形だからね。クーちゃんも普通の女の子だよ。でも、二人の意見は両方間違ってはないかな」
「くーがふつーのわくにおさまってたらびっくりにゃけど」
「ううー、重いですーっ」
「にゃにぉう、しつれーなこーはいにゃねっ」
実はそう思っているのはタクトばかりで。
クルーシュト自身嫌ではないものの自分の生まれに悩んでいるところがあるなどとは内緒であるからしてウィーカは口にはせず。
その変わりに、マニカにもふもふアタックを継続していると。
タクトはウィーちゃんがごめんなさいねとばかりにウィーカからクロ(inマニカ)を解放し、自らの胸元へと落ち着かせて。
「かつては魔導人形といえばゴーレムさんや、普通のお人形さんに魔法をかけたりして、人様のお役に立つように生み出されたものだったんですけど。わたしの父さまが魂を、魔精霊の魂を想いを込めて入れ込んだことで変わったんです。ほら、魔精霊さんって初めは自分の肉体を持たずに生まれてくるでしょう? この世界にあるいろいろなものについて初めてこの世界に出てこられる。動物につけば、獣型の魔精霊に、武器防具アイテムにつけば、精霊武具に。当時の父さまは人と変わらない魔導人形をつくるように言われていて、悩み考え込んだ上での結論だったのだと思います」
実際のところは、人の世に降臨せねばならぬ最上位の魔精霊による秘密裏な願いによるものだが。
おかげで魔導人形はこのユーライジアの新たな種として今は定着しているのだから、タクトの言う父さまがどれだけ偉大かがよく分かるだろう。
「もしかして私、もう魔導人形さんに会っているのですかね。気付かなかっただけで」
「あれ? でもそうすると、マニカさんも魔導人形っていうか、魔精霊さんだったりするのか?」
「いえ、まぁ。確かに言われてみれば自分が何者かだなんて気にしてなかったですが」
「魂の入れ替わりし種族、レストですか。もしかしたら、遠い親戚だったのかもしれませんね」
「えぇっ? だとするとわたくしも親戚になってしまうのでは」
「そんなこといいだしたら、この世界のいきものはみんな魔精霊が起源にゃないの」
脱線しかけた話題を、結局元に戻したのは。
何か見えないものが見える正しく猫のごとく外を気にしているウィーカであった。
どうやら彼女も、一向に帰ってくる気配のないクルーシュトとマーズ……今この場に起こっていることをある程度把握しているようで。
今すぐ駆けつけたいけど、手を煩わせまいとしている子供たちの意を汲んであげたいところもあって。
「ユーライジアの生けとし生けるものの根源、魔精霊。ウィーちゃんの言う通り、魔導人形もその一部なんだよ。マニカちゃんは、魔導人形というかたちをもって、世界でマニカちゃんだけの自分が欲しいんでしょう? かつてのわたしが、そう願ったみたいに」
「……っ、はい。私はそのすべを知りたいのです。たとえ、その先にどんな苦難があったとしても」
「うん。その意気やよし、だよ。早速だけどそのために魔導人形のからだとは別に、必要なものがあるんです」
果たしてその方法、必要なものとは何なのか。
微かに聞こえる喧騒をおいて、その場にいる皆が、続くタクトの言葉に注目していて……。
(第76話につづく)
次回は、2月3日更新予定です。