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第72話、みんなわざわざ出払っているタイミングで、実家の母との顔合わせだっていうから




SIDE:マーズ




「しっかし、見事なくらい誰もいないなぁ」


ユーライジアの街並みにある一般的な建物と違って高さがないぶんとにかく横に広いガイゼル邸。

ハナやミィカたちは、ここを訪れるのが初めてであったからなのか普段と様相が異なる事にも気づいていなさそうだったが。


いくらなんでも今日の今日は人がいなさすぎた。

普段ならば、ガイゼル当主の趣味で侍従……執事やメイドの服を着た門下生たちが多くいるのだが。

恐らくその大半は今は席を外している当主につき従い、残りのものは何処かへ避難しているのだろう。



(そうなってくると、奥さんと娘さんを置いて……あるいは囮にしてる最低最悪な当主サマになっちまうけど)


朝稽古の時や、ここへ遊びに来たときは大抵当主の近くにいるメイドさんで。

幼いながらも当主の覚えの良い、それこそ家族当然な間柄なんだろうとは思っていたが。

まさか本当に家族、クルーシュトのお母さんであったとは、思いもよらないマーズである。



(いや、少なくとも師匠の娘に発してる好き好きオーラと同じものは出てたか)


マーズはてっきり、不肖の弟子がみだりに手を出さないように気を張っているのかと思っていたが。

大事な奥さんと娘さんなんだからそりゃぁ警戒もするだろう。

しかも、奇跡の存在とも謳われる魂持ちし魔導人形な彼女だ。

今の今までその正体を明かさずにいたのも、仕方のないことだと思える。



「……って! 自分で言うのもなんだが人聞きが悪いなっ! オレってば師匠にそんな風に思われてたのっ!?」



家族に次ぐくらい長い付き合いだったはずなのに、不倶戴天な赤オニのような見た目だからって秘密にされていたのは地味にショックではある。

だが逆に、当のタクトは此度のガイゼル家当主の目論見に気づいてはいないようだった。

面倒事で彼女を不安させないようにしている師匠の、伝わりづらいどころか勘違いされかねない愛情は。

しかしそんな人たらしな赤オニが、そんなタクトを狙って何かが起こるかもしれないこの場に居座っていることへの信頼の裏返しでもあって。


 

(これがこたびの修行ってね。ミッションとしてはタクトさんに気づかれぬように外敵、侵入者を排除ってところかな)


あの場に残るのが恥ずかしいから逃げ出した部分がまったくもってないってことはないだろうが。

クルーシュトが抜け出したのは、マーズがそのことで直ぐに気づいたように。

もはやお馴染み(それもそれでイヤだが)の、何かが起こる虫の知らせがビンビンに反応していたからなのだろう。

最近わかったこだとだが、本来在ってはならない異世界からの存在がユーライジアへ入り込んだ時にその嫌な予感がするようで。


ある意味同じ穴の狢だから、そのニオイを嗅ぎ取れるのかと。

そんな自虐的な台詞ツッコミは。

念のため最後の砦としてタクトたちの近くにいるウィーカに怒られるのも嫌なので口にはせず、先行しているクルーシュトの元へと向かおうとして。





「……っ、マーズっ! ちょうど良かったっ。『パーク』から帰ってきた皆の様子がおかしいんだっ」

「っておい。クーも師匠からのミッション知らされてない口かよっ」

「? 父上がどうかしたのか?」

「いや、なんでもねぇ。おかしいってどんな感じだ? 案内してくれ」

「あぁ、こっちだ。今は正門の前にいる。なんて言えばいいのか、幽鬼なる存在に取り憑かれたようなんだ」



どうやら、普段このガイゼル邸で過ごしている家令兼門下生たちは。

当主の危機管理により『ライジアパーク』に一時避難しているらしい。


しかしそれより何より、今回のミッションはクルーシュトとともに背中合わせで共に戦い達成を目指すのかと思いきやよりにもよって彼女にも伝えられてはいなかったようで。

そうなってくると、不穏な気配を感じ取って照れ隠しに離脱したと見せかけていたわけではないことになってしまって。


タクトとの邂逅時にマーズのことを気にしてちらちら見てきたのは何だったのか、勘違いしちゃうだろうが、なんてことと。

男勝りな見た目の割に、そんなところも可愛いのだときっと当の父上にも思われているからこそなのだろうとは寸前まで出かかったが口にはせず。

マーズたちがやってきた裏道とは違う、閉められた正門の前で正門を開けもせず屯しているという『皆』がいるという場所へと向かう。




「ん、どうしたマーズ。何故物見台へ向かう?」

「……いやいや、いい加減気づけって。家のみんなが帰ってきただけなら、普通に門開けて入ってくるだろ」

「え? ……あ、そうか。じゃぁ彼らは一体?」

「それを確認するために行くんだよ。まぁ少なくともまともなお客さんじゃぁなさそうだがな」


いつもならば、もう少ししっかりしているというか、こんなポンコツじゃないはずなのに。

何か気にかかることでもあったんだろう、そっちも今回の件が片付いたら聞かなければと判断し流して。

連れ立って正門裏に建つ物見台へと駆け上がっていくと。





「……すまない。どうかしていた。あのようなものと家族を見誤ろうとは」

「どう見てもゾンビじゃねぇかっ! いや、メイド服とか着てるけどよぉっ」


みんな泣くぞこらかわいいクーちゃんにそんな勘違いされたら。

なんてツッコミを入れつつ、改めて上から見やれば。


どこの管理されてない墓場から這い出してきたしまったのか。

男女年齢様々の門下生の服を擬態したゾンビたちの群れが蠢いていて……。




        (第73話につづく)








次回は、1月20日更新予定です。

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