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第71話、人のように降り積もる記憶の中に、確かにそのアイを見て



Girls Side




「……でたにゃぁっ! にゃまいきなこーはいめぇぇっ!」

「っ!?」

「うわぉ、しゃべったぁ!」

「え? 姫様今更でございますか? ウィーカさんて確か隣のクラスの生徒じゃぁ」

「あら、今度はウィーちゃんのお友達ですか? 今日は千客万来ですね」



ここ最近、タクトの傍を離れることのなかった夫と、隠しているように見えてそわそわ落ち着かない様子であった娘。

そして、それなりの頻度でやらかすことの多いタクト自身をフォローするために付いていたメイドたち。


それだけの材料が揃っていれば、さすがに何かあると気付かないはずもなくて。

ハナやミィカがやってきたタイミングで何かが起こるのかと、少しばかり不安な部分もあったわけだが。

 



そんな中、満を辞して現れたのは。

タクトからしてみれば、それこそ家族と同等に過ごしていた人と変わらぬ存在感……魔力、ひいては魂を持っている、一匹のスカークロウ……カラスであった。


そうであるのならば当然とばかりに、今の今まで恥ずかしがって口を利くことのなかったウィーカが。

物語が始まりそうな不意の闖入者にしては恐る恐る、飛び方すらもままならないといった様子で、一応しっかと閉まっていた窓をすり抜けてやってきた彼女へと飛びかかる。



「……こ、後輩っ?」

「にゃんだぁおめぇ、ねこ……じゃなかったカラスかぶってにゃがったかぁ! 魔精霊なりたてなふりしてまーずに近づいたんにゃぁっ」

「いやや、近づくと言いますかわたしはに、ご主人様に生み出された……」

「うそーだにゃぁーっ、なりたてだったらそんな喋られないにゃぁっ」

「うぅっ。そ、そう言われれば。そうかもしれませんね」



そのままゴロゴロにゃんかぁ、ばっさばっさと転がり回りながらそんな仲睦まじい? やりとり。

しゃべりだすと、イメージと相違ないカラス……ではなく今はマーズにつき従いし【エクゼリオ】の魔精霊であるクロはともかくとして。

ウィーカの方は随分と想像と違うというかはっちゃけていますね、これはこれで面白いですが、なんてミィカが思っていると。


そのままじゃれ続け、にゃぁかぁ二人でこしょこしょやっていたふたりは、何やら折り合いがついたらしく。

やっぱりなんだかんだで仲がいいのか、ウィーカの背中にクロが乗っかる形でハナたちの元へと舞い戻ってくる。



「おぉ、ウィーカちゃんも獣型の魔精霊じゃなかったんだな。将来ゆーぼーじゃないか。二人は付き合い長いのか? あいぼーってやつか? ボクとミィカみたいにはびゅっ」

「あら、姫様ってばそんな風に思われていたのですか、それなりに嬉しいです。くんずほぐれつしますか」



そのタイミングで目をきらっきらさせながらハナがそう言うものだから。

冷静なフリをしていても全然できていないミィカが、ハナ抱きしめ持ち上げてぐるぐるさせたから。

結果的に続くハナの言葉は封ぜられ、随分とミィカの言うところの面白な声を上げていて。



「ふふ。ウィーちゃんってば。ぜんぜん喋らないからねこさんごっこいつまで続くのかなって思ってたけどもう終わりなの?」

「にゃ。ごっこじゃないにゃ。あたしとしてはこっちの方が自然体にゃのにゃ。いきなり現れてついのすみゃ家をかっさらおうとするこーはいにちょっと取り乱しただけにゃ」

「いや、そんなつもりはなかったといいますか。……もともと私のばしょですし」

「んー? 何かいったかにゃ?」

「……いえ、なんでもないです。先輩ですからね、従います」



ずっとずっと昔から、勇者や魔王……あるいは救世主などと呼ばれる愛すべきものの従者、ハナの言うところのあいぼーとして癒やし支え続けていたウィーカの一族、オカリー。


タクトの記憶で真っ先の思い浮かぶのは、相反する【エクゼリオ】と【セザール】の勇者同士にして生涯の相棒であった二人である。


見たところ、クロと呼ばれる彼女とウィーカも同じ相反属性。

だけど同じ好きなものを得るために競い合う様は、ずっと憧れていた羨ましい関係の二人そのもので。


その、光の勇者の娘でもあるウィーカを娘同然に思っているタクトとしてみれば、クルーシュトの友達であるハナやミィカに負けないくらいに、

もはや長年の戦友のごとき空気を醸し出している、マーズによく似た魂を持ったクロのことも気になっていて。



「そんなことよりなんなんにゃ。まーずはうちのくーとよろしくやってるからここにはいないにゃ」

「……ぐっ。それはそれで非常に気にはなるので今すぐ向かいたいところですが、機会は今しかないですから。先輩のお母様にちょっと聞きたいことがあったのです」

「え? わたし? うぃーちゃんの初めてのお友達だもんね。わたしができることならなんでも聞いてくださいな」

「今なんでもっていいました? それならばおもしろかびゅふっ」

「ぎゅっぎゅのお返しだぞ~、ミィカめぇっ」


今起こっているかもしれないと、タクトが感じていた迫り来る危機も。

このタイミングしかないと涙をのんで鬼の居ぬ間にとやってきていたクロの思惑などもお構いなしに。

ある意味いつもと変わらぬ様子で、じゃれ合うハナとミィカ。


そんな様子を目の当たりにできなかったまーずご愁傷様などと独りごちつつも。

ウィーカは確かに始まっている戦いのニオイを感じ取り、こっそりヒゲをひくひくさせていて……。


SIDEOUT



    (第72話につづく)









次回は、1月16日更新予定です。

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