第7話、鬼(誇張表現でなく)の居ぬ間に『夜を駆けるもの』のごとく抜け出して
GirlsSide
ユーライジアスクールの広大な敷地……校舎裏手に宛てがわれし居住区。
その中でも比較的に校舎から離れ、密かにスクールを支えるとも言われる裏山のふもとにほど近い賓客の過ごす区画……その一室。
リアータ・セザールにしてみれば広すぎる気がしなくもない質の高い調度品の揃った部屋に、ノックして訪れる者があった。
陽が沈み始めた夕食時。
夕食を摂る時間くらいはあるかと思ったが、ノックの相手は中々にせっかちらしい。
ひょっとしなくても、リアータ自身共々マーズに送ってもらって、その足ですぐに駆けつけたのだろう。
よくマーズと鉢合わせしなかったものだと、表情変わらずもリアータは苦笑しつつ、返事をして扉を開ける。
「夜分にすみませんね、リア」
「さっきぶりー」
そこにいたのは、成り行きでマーズについていった先で出会った転入生の少女、ハナとミィカがいた。
リアータの第一印象は、幼さの残る世間知らずのお姫様と、侍女のお仕着せが浮いてしまうくらい豪放磊落な少女、といったものであったが。
しばらく一緒に過ごし振り返ってみてもその印象は変わらなかった。
ミィカが愛称で呼ぶようになったのは、『同じ目的』を持つもの故の親しみだと言えるが。
「それじゃあ、早速向かいましょうか」
「楽しみだなぁ。会えるかな~」
本当なら、新しくできた友人として、折角部屋に来てもらったのだからおもてなしの一つもする所だが、『夜を駆けるもの』に会いに行くと言う二人を呼び止め、自室を集合場所としたのはリアータの我が儘であったため、内心残念に思いながらも表情は変えぬまま、外出用の『バッグ』を一つ持って、二人とともに部屋を出る。
「正規ではないルートでの脱出、との事ですが」
長く薄暗い廊下に出て、夜のお出かけに興奮しているのかリアータの周りを駆け回らんとする勢いのハナを脇目に、すっと隣を歩くミィカがそんな事を聞いてくる。
「普通にしていたら私達には外出許可なんて降りないわ。だから裏技を使うの」
「それを私達に教えてくれる、と?」
「……何があっても自己責任だけど、ね」
マーズがいた時とはうって変わって、心なしか楽しそうに嬉しそうにリアータの顔を覗き込むミィカ。
出会いの衝撃は中々なものだったが、普段から親しくしてくれる存在がマーズやウィーカ、彼女の主であるクルーシュトくらいしかいないリアータにとって、普通に接してくれている彼女達は新鮮だった。
『月水の魔女』などと呼ばれる彼女だって、仲の良い友人を作りたいのは正直な所なのだ。
しかし、それを正直に口にできる性格でもなく、そんな突っ慳貪な言葉を返してしまう。
「ですが、それはリアも同じでしょう?」
「私には専属の護衛がいるから」
「なるほど、従属魔精霊ですか」
「……」
それらしい姿が見えない事で、リアータの言葉の意味を察したらしい。
外に出るのは自己責任だと口にしたが、リアータの判断する限り、ミィカはハナの護衛役として十分だろう。
自身の勘で、もし敵対するような事があれば、結果はやってみないと分からないと出ている。
彼女なら、姫が外に出たいと言えばリアータの力などなくても外に連れ出し、姫を満足させていたに違いない。
ひとまずぶつかり合うような関係になりそうもないのは一安心。
それもきっと、間にマーズが入ってくれたおかげだろうと、お互い曖昧な笑みで牽制しあっていると。
気になる言葉があったらしく、飛びつく勢いでハナが駆け寄ってくる。
「リア、魔精霊のは~れむめんばーがいるのか? 紹介してくれ!」
「え、えっと……呼び出すのに魔力がいるの。また、そのうちね」
マーズのフォローによると、ハナの言う『はーれむめんばー』とは、呼びたい時に呼んで、遠い所からでも駆けつけてくれる友達の事らしい。
リアータに従属する魔精霊が彼女の魔力から生まれ、『もの』に憑いて動き出すのとは違い、一種の召喚魔法であるとのこと。
元々、ハナの故郷であるサントスールには、そういった類の術に長けた一族の事で、納得はできる。
しかし、ハナのそれは人間だろうと魔精霊だろうとお構いなしに契約できるようだ。
その割には、契約登録者がリアータ(買い物の帰り際に迫られたので契約した)くらいしかいないのは不思議だったが。
きっとハナの中に契約するしないの好みというか、一線があるのだろう。
彼女のお眼鏡に叶った事は嬉しいが、そう言えばマーズには契約しろって言ってなかったな、なんて事を思い出す。
確かに見た目は山のように大きくてごつくて顔も怖そうだけど、言えば契約なんてすぐにしてくれるだろうに。
「そうかー。楽しみにしてるぞ。呼び出したらボクにも紹介してくれな」
「ええ。もちろん」
あっさり引いて本当に楽しそうな笑みを浮かべるハナ。
ハーレムだなんだと発言はアレ(どうもミィカに誘導されてる節があるが)だが。
ある意味花よ蝶よと育てられたお姫様にしては、聞き分けが良くて素直で気の使える良い子である。
自分は小さい頃もっとわがままだっただろうな、なんて考えて。
そう言えば同い年だったっけと、内心で反省。
同年代でもかなり長身の方であるリアータにとって、小柄で可愛らしい二人が羨ましかった。
傍から見ていたマーズとのやり取りも、ただただ微笑ましくて、やっぱりちょっと羨ましくて……。
(第8話につづく)
第8話は明日更新いたします。