表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

68/199

第68話、この世界はもしかして世代のズレはないのだと、空目してしまうくらいに




SIDE:マーズ




「くーちゃーん、たーすけーてー」



「あっちから聞こえるぞ。場所的にあのトラップは落とし穴だな」

「あんな、誰も通らなさそうなところの落とし穴に引っかかる御仁が、姫様以外にいるとは」

「……っ、あぁ。もうっ。全く、あの人はっ」

「みゃふん」


見えない場所から聞こえてくる、ガイゼル家御用達な侵入者用トラップにかかってしまっている割にはのんびりと間伸びした声。

その声は、マーズにとって聞き覚えのあるものだった。

ガイゼル家の一人娘であるクルーシュトのことを、

親しい友人(マーズが口にするとめっちゃ激しいツッコミが返ってくるので心の中だけで呼ぶことにしている)が呼ぶのと同じ呼び方で『クー』と呼ぶ彼女は。

確かにハナやミィカときっと仲良くなれそうな気がしなくもなかった。


見た目はハナと同じくらいで、ミィカと同じくメイド服を普段着……ガイゼル家のメイドさんを、クルーシュトやマーズが物心つく頃からこなしている彼女の名前はタクト。

見た目は幼子のようだが、ガイゼル家当主の信頼もあつく、ガイゼル家の家事諸々を取りまとめるメイド長の役職についている、らしい。


らしい、なのは周りの侍従さんたちはみんな彼女よりもベテランっぽくて。

今回のようにドジっ娘属性を発生させると、どこからともなくそんな侍従さんたちがやってきてフォローにやってくるからなのだが。


今回ばかりは、近くにクルーシュトがいるのがわかっていたらしく、そんなできる侍従さんたちはやってこない。

クルーシュトは天を見上げる仕草をし、何故だかマーズの方を気にした様子を見せつつも結局はそんなタクトさんが大好きだから。

勢い込んで駆け出し、惚れ惚れするくらいヒーローさながらな立ち振る舞いで、颯爽とタクトさんを抱え上げ助け出してしまう。



「あ、ありがとー。くーちゃん」

「どういたしまして……って言いますか、父上がご不在の時は仕事はしなくていいって言われてませんでしたか?」

「えー。でも、くーちゃんがいるでしょう。いつものようにかれ、マーズさんが来るのだからおもてなししないと。うぃーちゃんのごはんもね」

「みゃみゃん」


やはり彼女は、ガイゼル家にとって上の立場らしく、言われてみればガイゼル家の敷地外でその姿を見たことがなかったのをマーズは思い出す。


だが、クルーシュトに脇下を持たれて引っ張り上げられるのと同時に。

気安く親しいものにしか近づかないはずのウィーカが彼女の肩口にでろんと伸びているのを見ていると、上と言うよりも家族に等しい間柄であるのがよくわかって。



「それでどうして、こんなところの罠に嵌っているんですか。まったく」

「うーん。お茶を用意しようと思ったんだけど。……あ、マーズさん。おはようございます。あら、もしかしてくーちゃんのお友達? 初めましてー。タクトです」


まるで、妹か娘でも相手にしているみたいに甲斐甲斐しく文句を言いつつもメイド服についたほこりやスライムらしき欠片をクルーシュトが払っていると。

マーズたちに気づいたらしく、ぱっと花開いたかのように笑顔を見せて実に丁寧なお辞儀をする。



「おはようございます。タクトさん。今日もちょっとばかし道場の方使わせてもらいますね」

「初めまして。ハナ姫様のたった一人のメイドをしております、ミィカです。よろしくお願いしますね。先輩」


クルーシュトと、あるいは彼女の父と鍛錬、手合わせしていると。

必ずといってもいいくらい顔を出して。

毎度お世話をしてくれる(時々失敗するのもご愛嬌というか、運んできたお茶でまったくもって手合わせで勝てた試しのないガイゼル家当主にダイレクトアタックをかましてくれるので、これこそが文字通り溜飲が下がるってやつかとやんやの喝采で受け入れていた)から、すっかり顔なじみになっていたわけだが。


どうやらミィカたちは初対面らしい。

ミィカの方は、同業であることに思うことがあるのか、ちょっとズレたマウントをとりつつもこう見えて熟達したドジっ娘メイドであることに気づいたようで。

敬う気持ちも忘れることなく、真似するように頭を下げていて。


一方のハナは。

大きに過ぎるその瞳を、カット見開いてそんなガイゼル家のメイドさんを注視していた。

それは、どこかで見た気がしなくもない、準備行動。

スクールでの朝会にて、初めで全校生徒の前に立った時か。

あるいは、可愛い女の子に出会った時のマーズ……じゃなくてハナの反応か。



「お姉さん! もしかしなくても【ヴルック】属性の人型以上の魔精霊さんでしょう! すっごいレアじゃんねっ。ボクのハーレムメンバーに(従属魔精霊契約)加わってはくれまいかぁっ」



案の定その瞬間ハナから発せられたのは。

何だか久しぶりに聞くような気がしなくもない。


だけど色々ツッコミどころが多すぎる。

そんな殺し……いや、言うなれば生き文句で……。



     (第69話につづく)









次回は、1月2日更新予定です。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ