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第67話、夏でも涼しい縁側などで、のんびり惰眠を貪りたい




SIDE:マーズ




「わぶぶっ、ボクは食べてもおいしくないのだぁっ」


黒い炎のようなたてがみを持つバイと、可愛い見た目にそぐわぬ大きな角を持つルーミ。

よくよく見ればそこにいつの間にやらついてきてしまった、あるいは契約していたのか、妖精スライムのチェリもいて。


故郷のサントスールでは魔物の種類も偏っていた(スライムで言うのならばお化けスライムばかりらしい)せいなのか、スクールの野郎どものように随分と嫌われ避けられていたらしい。

マーズに、ハナに対してそのような悪感情が沸いてこないのは、ハナがマーズにとってドストライクな可愛い子なのもあるだろうが。

今となっては、やはり主人格であるマニカの影響が大きいのだと気づいていて。



三匹が代わる代わる主を主と思わぬような気やすさで擦り寄り舐め回されているのを見ていると。

やはり今までは単純に相性が良くなかっただけだったのがよく分かる。

確かに顔のフォルムがおいしそうですからね姫様は、などとリアクションに困るミィカの言葉にはいともいいえとも言えないでいると。

ちょうどそのタイミングで、フィールドの向こうからひょっこりとクルーシュトとその肩の上でだらんとしているウィーカの姿が見えてくる。



「みゃうーん」

「待たせた、今日もすまないなマーズ……って、そうか。ハナさんとミィカさんたちも一緒か。いらっしゃい。我が家へ案内しよう」

「うむ、お願いするよ」

「? 何ですか、何かお約束でも?」

「あぁ、スクールが休日の時に手合わせをね。元々は父さまからの願いで朝稽古を始めたのだが、今はむしろ私の方が教えてもらってるようなものなんだ」



そこでハナは一旦契約した魔物たちを送還し、ある意味マーズそっちのけでフィールドめいた野原を抜けると。

すぐにクルーシュトとその家族が住む、ガイゼル様式……そこだけ別世界かのごとき大豪邸が見えてくる。




「おぉ! これはまたうちともがっことも全然違う感じだな。クーさんみたいに背の高い建物がないんだ」

「正しく、闇エクゼリオの勇者……サムライの住まうお屋敷ですね。うちの馬鹿みたいにおどろおどろしい城と違って気品すら感じます」

「ミィカさんの家の居城も私は嫌いじゃないですけれど。やはり平屋が落ち着くのですよ」

「にゃう」

「あぁ、確かにお昼寝場所には困らなそうだな。たまにはベッドじゃなしにタタミでごろ寝したいもんだ、あっつい日はな」



ユーライジアと、ラルシータの大陸に挟まれた、航路の途中にあるといわれる島国イーゼル。

ウィーカの父方の一族、光の勇者オカリーと対になるガイゼルの、剣に生き剣に死ぬとまで言われたもののふたちの住まう地獄にして楽園。

彼らが好んで住み暮らしていたガイゼル様式のお屋敷には、いつ戦が始まってもいいように様々な仕掛けが施されている。


我が家同然に棲家としているウィーカならばそれこそ、どこにどんな仕掛けがあるのかよく分かっていて。

マーズの家にいない時には、大抵この横に広すぎるお屋敷のそこかしこで惰眠を貪っているわけだが。

勝手の知らないハナなどは、つい先日少しばかりミィカと離れただけで地下ダンジョンのトラップというトラップにかかりまくったように。

むしろトラップの方へと向かっていく勢いで、目的の地へ辿りつくこともままならなかっただろう。

よって、ウィーカに今日はお客さんがいると先触れに行ってもらったわけだが。




「いや、流石に畳の上での寝るのはな。ウィーカじゃあるまいし。布団ならいくらでも余っているから、来たい時に来ればいい……みんなでね」


修行合宿という名のお泊まり会なんてどうだろう。

なんてぶつぶつ言いつつも、そんなクルーシュトの真後ろについていく形で目指すは、武道館などとよばれているいつもの修練場。


確かに、暑くなる季節になったら緑に囲まれているこのお屋敷に涼みにくるのはありかもしれない。

一応、当主にしてマーズにとっての剣の師匠でもあるクルーシュトの父にも気兼ねせず遊びに来いとは言われているので、たまには顔を出すべきかなんて思っていると。

いつもならば、ガイアット国へお邪魔した時の親バカ王様と同じように呼ばれなくても顔を出してくる師匠の姿が見えないことに気づかされる。



「あぁ、そうだった。父さまなんだが、何やら異界の方で懸念事項があるらしくて今日はいないんだ」

「異界、ねぇ。ふむ、気になるっちゃぁ気になるけど。今日はあいにく師匠の特段用事はなくてな。むしろ、クーのお母さんに聞きたいことがあるんだが」


自分で言って今更ながら気づかされたのは。

このお屋敷にもよく来ていて、師匠やクルーシュトといる時はよく顔を合わせていたのに。

師匠が隠しているのではないかと邪推してしまうくらいには。

クルーシュトの母親と、単独で会ったことなかったな、なんてことで。



「あぁ、母さまか。もちろんそんな父さまについていった……って、言いたいところなのだが」


クルーシュトにしては珍しく言葉を濁し、言うか言うまいか悩んでいる様子。

ほとんどどころか人族そのものであるという魔導人形な彼女であるからして。

それだけ大事にする、秘匿するべきものでもあるのだろうか。


師匠のノロケ話ならば気づけば聞かされていたから。

それほど知らない、会ったことのない人物という感覚もないわけだけど。

ならばせめて、魔導人形のあれこれだけでも聞いておいてもらえないかなぁ、なんて思っていると。




「だっ、だれかーっ。助けてくーだーさーいっ」


そう遠くない所から。

マーズにとってみれば、確かに聞いたことのあるそんな声が聞こえてきて……。



    (第68話につづく)








次回は、12月28日更新予定です。

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