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第60話、きっとそれは、何者にも負けない勇ある炎のような理想形



Girls Side




そうして。

気が付けばそこには、漆黒の魔力を沸き立たせた、世にも珍しい黒髪の少女だけが残される。

大立ち回りにはお誂え向きの天井の広いワンフロアには。

結果的に棒立ちな解説役? どころか、野次馬すらろくにできなかったハナたち以外に姿はない。

普段この場を棲み家していただろうモンスターたちどころか、異界の狩人たちとの戦いの残滓すら残されてはおらず。





「ふむ。中々にしっくりくるじゃぁないの。しかしこれは……長年の疑問が解けたということなのか?」


しかし、そう呟き何やら考え込む様は。

その見た目、仕草からしてアオイにとって自慢でしかない妹としてはありえない。

その拳(細さに過ぎる足も使っていたけど)だけで悪党族を撃退したとは到底思えない小さなそれを、閉じたり開いたりしている様は。

その溢れた台詞と、おどろおどろしい闇の靄を相変わらず沸き立たせているのも含めて、まず間違いなく何者かに乗っ取られているのだと理解できて。


二の足を踏みつつも、アオイがこの場の年長者として接触を試みんとしたが。

そんな一瞬の隙を突いたわけではないだろうが。

アオイよりも先に飛び出し、考え込んでしまって未だこちらに気づいた様子のないスイらしき人物に駆け寄っていったのは。

あまりイメージのない組み合わせ……マニカとハナであった。




「なぁな、マーズってばなんでそんなとこにいるんだ?」

「そうですよ、兄様っ。そんな、人様の内なる世界へ入り込むだなんて! そういうのは私だけにしてくださいっ」

「……っ! って、君たちいつの間にっ。俺さまとしたことがここまで近づかれたのにも関わらず気づかんとは」

「またまたぁ、そんなこと言ってマーズぜったいハナたちのこと気づいてたでしょ」

「そうですね。みなさんに凄惨な現場を見せないよう、色々と弄し、手加減をしておいででした」



ハナさんってば、兄様のことよく見てるじゃないですか、やりますね。

マニカこそ、ほんとにやっぱりきょうだいなんだな。

……だなんて、二人して顔を見合わせるのを見てしまったら。

スイ……の内にいるマーズとしては、すぐさまお手上げです、ごめんなさいをするしかなくて。



「そこに、しもべが……いえ、スイ姉さまを囚え意のままに操っているですって? くっ、いつかはそういうことをしでかすと思っていましたがっ」

「え? そうなの、お兄さん? だったらスイちゃんじゃなくてあたしにしとけばいいのに」

「アオイ姉さんっ!? 何言っちゃってるんですかもう! ってか兄って何ですか兄って! そう言う残念なのはマニカさんだけにしといてくださいっ」

「え? 私、残念なのです……?」

「お兄ちゃん、かぁ。そう言えば周りにいなかったなぁ」

「もうっ! 姫様までぇっ!? こっ、こうなったらスイ姉さんもろとも亡き者にぃぃぃっ」



スイと同じくしてアオイにはマーズ自身、地獄の修行時代に大変お世話になっていたから。

少なからずマーズの人となりを知っているはずで。

その割に魂状態の時には、スイに気づいてはもらえなかったけれど。

アオイとしては、そこに、マーズがスイとともに在る時点で一件落着の空気を感じ取っていたというか、安心感をもっていて。


そんな、本気か冗談かも分かりづらいミィカのツッコミ……台詞にも楽しいことが好きな彼女らしく乗っかっているだけなのだろう。

よりにもよってそれにハナやマニカまで追随するから、表情の動かないはずのミィカのお顔はそれはもう真っ赤っかのすごいことになっていて。




「……って言うか、本当にマーズってばそこにいるの? あなた、そんな禍々しいっぽい魔力構成だったかしら」

「え? マジ? 禍々しいって。分からんかったわ。道理で道中魔物もハンターも逃げ回るわ、スイさんに勘違いされるわ、だったのかぁ」



それこそ、闇の竜でも出てきそうなミィカのおかんむりっぷりに。

いち早く逃げ出し、いつの間にやらリアータところに避難してきていた桜色のスライムとともに、彼女の背中に隠れんとしていると。

そんな、少し呆れたようなリアータの疑問がふってくる。

おかげで、今現在スイの中にいる状態の原因も掴めてきて。



「それなら氷でつくった鏡で……って、今はスイ理事長さんなんだし意味ないか。

こうして話していると確かにマーズのようだけど、それじゃあスイさんは?」

「あぁ、うん。どうやら俺の内なる世界で寝ちゃってるみたいだな。わたしはどうなってもいいとかなんとか言ってたから、一度こうして融合したのなら戻れないとか思ってたのかも」

「その言い分だと、ちゃんと戻れるのね?」

「そりゃぁそうさ。実際問題、マニカが外に出てそこにいるだろ」

「え? でも、それって……」



まるで、今スイの中にいるという経験が初めてではないかのような。

元々が、そう言う魔力……魂だけの存在で、そもそもがマニカの身体を借りているのが普段のあの赤鬼のごときマーズであると言いたげな台詞。



「そか。マニカん時みたいに、内なる世界に入って呼んでくればいいのか。ちょっと待っててくれな」

「あ、ちょっ」


故にびっくりして改めて事実関係を確認しようとしたのに。

マーズはそれをはぐらかすみたいに、その言葉の後にはうんともすんとも言わなくなってしまって……。




       (第61話につづく)








次回は、11月25日更新予定です。

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