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第58話、かしましく空気は緩いまま、実は住む世界の違うものの元へ




Girls SIDE



気づけば、すっかり理事長としての姿を取り戻した(しかし、その見た目はハナやミィカよりは年かさの、マニカと同じ年頃の少女にしか見えない)アオイは。

引率する先生さながらに、一同を引き連れスクールの地下に蔓延るダンジョンを進み行く。




「それにしても、理事長室にあのようなものがあったんですね」

「緊急脱出の滑り台のこと? ほんとなら魔精霊であるあたしたちなら移動は魔法でじゅうぶんなんだけど。いざという時、魔法を使えないょうな事態が起こるとも限らないからね、ま……じゃなかった。前理事長がどうせなら面白い方がいいってつくってもらったんだょ」

「面白いから、ですか。何だかちょっと分かります」



目的はもちろん、未だ帰ってきていないというもう一人の理事長にしてアオイの妹でもあるスイ・フェアブリッズの捜索である。

本来ならば、元来た道を帰るのが早いのだが、話題となっている緊急脱出のための滑り台はその性質上一方通行で。


それこそ、アオイが言うように【ヴァーレスト】の魔法などを使って飛んでいけばいいのかと思いきや、どうやら前理事長は楽しいことが大好きな凝り性らしく、そう言ったズルができないように、あるいは不届きものが脱出の道を利用することがないよう、いわゆる魔法的力の込められたかえしのようなものがついているらしい。




「……気を使ってもらってあれですが。うぅ、恥ずかしい」

「ん? なんなのだ、ミィカ。めずらしい。前理事長のこと、しってるのか?」

「ってやめてくださいよ姫様。今朝会ってきたばかりじゃないですか」

「あ、ああ! あのミィカに似てかわいいお母さん? そか、まおーでミィカのお母さんだけど、りじちょーさんでもあったんだな」

「ああもう、言わなきゃよかったです……」



マニカが気が合いそうな人だなぁと思った前理事長は、どうやらミィカの母でもあるらしい。

アオイが微笑ましげにそんなハナとミィカのやりとりを見守っているのを見るに、アオイ自身もハナたちと親しいのだろう。


世間は広そうで狭いわねぇ、なんて。

リアータがしみじみ思っていると、ダンジョンとしてはままあるであろうモンスターがやってくる気配がしてきて。




「……? 何かしら、随分と数が多いような」

「え? まさか、モンスターハウス? トレイン?」

「そんなそれこそ楽しげな顔されると、緊張感なくなっちゃうけど。でも、これは……」



どうも、普通じゃない感じがする。

こちらに気づいて群れてやってきていると言うよりも。

それは……。




「くるょっ! ……って、凄い数っ。って、あれ? 何だかこっちに見向きもしないかんじ?」

「やっぱり、この子たち何かに追われているみたいですね」


世界のわずかな振動とともに現れたのは。

スライム族……みずスライムにくさスライム、リカバースライムに毒スライム。

彼らに加えて、ケブルバッドやナクデスなどと呼ばれる、こうもりやねずみなど、ダンジョンを棲家にしている、それほど脅威にはならない、言うなれば弱いモンスターたちであった。

付け加えるのならば、ダンジョンにて穏やかに過ごし、契約者を見つけるか成長していくことによって、『獣型』の魔精霊になりえる、卵たちでもある。



「うおぉー、いっぱいいるっ。よりどりみどりすぎて、契約してるひまもないってやつかぁっ」

「姫様っ、契約にも枠があるんですから、有象無象にかまけている場合じゃないですよ」


その枠は、少なくとも『人型』以上の魔精霊のために空けておいてください。

そんな二人のやり取りを聞いていると、やはり万魔のハレム王に憧れているのは、ハナよりもミィカの方なのかもしれない。


ハナの父に、そのような気持ちは微塵もなかっただなんて。

ハレム王になりたくて従霊道士になったわけじゃないだなんて。

知っているのは、従い契約することとなった者たちや、当の本人くらいだろう。



世界にたったひとりは怖くて寂しいから。

その虚ろを埋めるために仲間を、友達を、家族を求めていた。


そう言った意味でも、純粋にいろいろな人たち、魔精霊、モンスターたちと友達になりたいと思っているハナであるからこそ、その道を目指せるのだと。

かつてハナの父と契約していた……一応その契約は未だ続いているアオイは、しみじみ納得していて。




「ぇりっ」

「あ、珍しい。妖精スライムじゃないの」

「さくら色のスライム? へぇ、私初めて見ました」



と、その時だった。

脇目も振らずハナたちに構うことなく、すり抜け逃げていってしまうモンスターたちの邪魔にならないように皆で壁際に避難していると。

そのうちの一匹、鮮やかでとても目立つ桜色したスライムが、こちらへ……アオイの元へまろび転がってきて。



「ちぇっ、ちぇっ、えり。ぇりっ!!」

「え? なんだって。スライム狩りのハンター? 嘘でしょ? だって、そんな依頼、冒険者ギルドじゃ扱ってないはずだょ?」

「ぇりりっ、えりーっ!!」

「異世界からのまょい人? スイちゃんが相手にしてるって? ピンチ? じゃぁ、急がないとっ」



当然のごとく、スイはスライムの言葉が分かるらしい。

一際大きな声を上げた桜色のスライムは、急いで急いで、とばかりにそのままくるんと顔を進行方向へ向けてぽむんぽむんと飛びつつ駆け出していくから。

どうやら、探していたその人がその先にいるようだったから。


一にも二にも、そこにいる皆が迷うことなく。

頷きあって、桜色のスライムの、瞳の裏が見えちゃってる背中を追いかけていくのだった……。



     (第59話につづく)








次回は、11月16日更新予定です。

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