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第55話、悲劇のヒロインフラグは、一足先にへし折っていくスタイル




SIDE:マーズ




母方の血族、カムラル。

この世とあの世の狭間、肉体あれば留まれぬ場所に身を置く使命があったからなのか。

魔力そのものとも言える魂を剥離させ、この世界で言うところの魔精霊と化す事のできる能力を持ち合わせていたが。


マーズとしては、会えばきっと間違いなくウザ絡みしてくる父親のこともあり、今の今までその場へ向かう必要性を感じなかったこともあって。

此度が所謂『精霊化』の初体験である。


エクゼリオ】の根源たる根源ですらそんな御姿は取らないであろうおどろおどろしい様相にも気づくことなく。

マーズはゆらりゆうりと中空を浮かびながら、一路目的地であるユーライジア裏山の中腹にある、【ヴァーレスト】の廃教会に向かっていった。



(とはいえ、向かうはいいけど二人ともいない可能性は高いんだよなぁ)


神出鬼没な怪し人と謳われた父親と、哀れにもそんな裏ボス的存在に捕まってしまった世界の至宝などと呼ばれていた母親。

幼馴染みを経てくっついたと言われる稀有な二人は。

息子が辟易して逃げ出したくなるくらいにラブラブで。


このユーライジアと呼ばれる世界どころか、数多の異世界を掬い上げ護る任についているわけだが。

何だかんだで共に行動している事が多かった。



現在のユーライジアは、そんな両親を含めた黄金世代による八面六臂の活躍により平和な時代が続いていたから。

自分たちはいなくてもいいだろうと。

永きに渡る異世界ハネムーン兼異世界を救って周るお仕事を続けていて。




(その割になぁ、あんのオヤジ。的確に不安を煽ってきやがる)



―――ユーライジアには、お前がいるから大丈夫だろ。



なんて手始めに持ち上げておきながら。



―――だが同時に、お前が在ることで、眠っていたものも飛び起きるだろうな。



めでたしめでたしで停滞していた物語は、間違いなく動き出すだろう、とでも言うような。

心底楽しげでいい感じでいらっとくる曖昧にもほどがある父親のセリフ。


わざわざ言われなくとも生まれ故郷なのだし、何が目覚めようとも護りぬくつもりではいるが。

マーズがここにいることが起爆剤となって何かが起きるのだと断言されてしまえば、気分がよろしくないのは確かである。



だが幸いにも、マーズには所謂虫の知らせのごとき、何事かが起きる前に察知する力が備わっていたから。

こうして今日も今日とて転ばぬ先の杖、石橋を叩く前に鋼鉄に変えるくらいの勢いで、何かが起きそうな場所へと馬車馬のごとく向かっているわけである。



(ついでにっていうか、正にちょうどいい。マニカを俺から出してやる手段、母さんなら何か知ってるかもしれないしな)


ぶつぶつと内心で呟いているのが呪詛めいて怖い。

マーズは当然それにも気づかぬまま、廃教会とは名ばかりの年季の入った観音扉をすり抜けて。

奇麗に掃除されている身廊を抜け、大仰なパイプオルガンを横目に。

其の死角となっていた壁に問答無用でぶつかる……ことなくあっさりすり抜け、その先に続く螺旋階段をぬらりてらりと下っていく。



その先……無限ループのごときなずっとずっと際限ないくらい下っていった先には。

あの世とこの世を結びつつも基本は塞いでいる永久凍土のごとき氷山がある。

その場の門番、礎とも言うべき任を負っているのが、マーズの母親であるのだが。

厳密に言えば、そこにいるのは彼女であって彼女ではない。



(いや、逆だっけか。本人はそこにいて、分身の母さんがオヤジと異世界回ってるんだっけ)


分身……『おぷしょん』などと呼ばれる存在。

マーズにとってのマニカとは似て非なる存在で、それもカムラルの一族を始めとする、世界の礎となることを運命づけられた者達のための救済措置だとも言われている。


本人……肉体は、そこにあるがその魂、精神は抜け出て(多少というかかなり小さくなるが)自由に動き回れる、とのことで。


もしこの先にいてくれたのなら、何かしら話しが聞けるかもしれない。

いなくても、久方ぶりに母の姿を見舞うついでに、朝起きて感じ取った何かが起こりそうなポイントがちょうどこの辺りの地下なので問題なし。



そんなわけで意気揚々と死出の道へ誘いそうな真黒な炎をメラメラさせつつ。

資格のあるものしか突破できない無限ループをあっさり抜けて、ついにマーズはその場所へと辿り着いた。





(おおぉ、何気に初めてきたけどすんげぇ場所だな。マジでラスボス出てきそう)


螺旋階段を抜けたかと思ったら視界は大きく開けて。

人一人が歩ける位の細い道が正面にあって。

それ以外は断崖……【虹泉トラベルゲート】に迷い込んだかのような七色……十二色の霞のようなものが揺蕩っていて。

一度滑落でもしたのならば、更にどこまでも落ちていってどことも知れぬ異世界へ飛ばされることだろう。


そんなロケーションであるからして、ひょっこりラスボス……オヤジが姿を現しても違和感はなかったが。

どうやら不在であるようだ。



(しかし。なんも知らんかったら……結構クルものがあるな、これは)



マーズは当初の目的すらも忘れて。

一本道の先、氷山としか言い表しようもないこの世とあの世を塞ぐ物の中心に浮かぶようにして眠っている。

マニカと瓜二つな、人柱と化している少女から目を離せず、立ち尽くすことしかできなくて……。



     (第56話につづく)








次回は、11月1日更新予定です。

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