表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

51/199

第51話、終の棲み家へ留まり収まること、きらいな子だっている




Girls SIDE




「のわあああぉぉぉぉぉぉっ! ちょびっとさわっただけなのにぃぃぃっ!!」



ごろごろごろ、下へ下へと転がって、そんな悲鳴すら置き去りにして突き進むハナ。

お顔が大きくて、ふわもこのボリュームありすぎる髪が、うまいことクッションになって絡みあって。

一個の生命体……まんまると化したハナを止められるものなど誰もいないようにも思われたが。

意外にもあっさり終着点を示すのかもしれない明かりのようなものが見えてきて。




「うぇっ!? わわぁっ」


転がり落ちるその先を塞ぐようにして立っていた誰か。

マーズもハナも大好きなきっと間違いなく美少女の声。

まさかこのどうにも止まれなくなった勢いを身体を張って止めようとでも言うのか。

無茶な、と内心で思いつつも既にハナにはどうしようもなくて。

せめてその衝撃に少しでも耐えこらえようと、いっそう身を縮ませた瞬間。



ぶにょんと、無慈悲で容赦のない正面衝突の感触。

間違いなく持っていかれるであろう意識をかき集めるようにしつつも。

ハナはどうしてこんなことになってしまったのか、縁起でもなく走馬灯のごとくで思い返す。





始めは、どこからともなく感じた風。

どこかに風の通り道でもあるのだろうかと、匂いを辿るようにして大きに過ぎる背もたれ付きの椅子の後ろへ向かえば。

そこには、天井近くまで並び積み上げられた本と本棚があって。


ミィカが侍女メイドさんとしてやってくるようになるまでは、サントスール城の敷地内から出ることもできない引きこもりだったハナのとってみれば。

退屈を凌ぐ一番のものがその本たちで。

何か面白そうなものがあれば読ませてもらおう、というよりも。

ちょうど手の届くところに一冊だけ飛び出て落ちそうになっていた翠蒼色の綺麗な色合いの本があったから。

まずは戻そうと思い立ったらこの有様である。



出っ張っていた本が、他の本とぴったり並び立った瞬間。

足元の感覚がなくなったので、それは王城などにありがちな高貴なものが扱う、秘密の抜け道を開くためのスイッチであったのだろう。


そこから先が真っ逆さまもかくやな、角度のきつい滑り台のようになっていたのは。

きっといざという時にそのスイッチを使用するものの趣味に違いない。


そういうのはちゃんと予め言っていてもらわないと心の準備が間に合わないと。

面白いから嫌いじゃないけどびっくりするのだと。

十中八九待ち構えていた相手がその趣味のよろしい御仁であろうと、思わず訴えようとしたところで。

これから襲ってくるはずの衝撃がそれほどでもなかったことに気づかされる。



事実、ちゃんと意識もあって。

思い起こせばその瞬間、ひどく柔らかいものに包まれたかのような感触があったのも確かで。

一体どうなっているのだと、辺りを改めて見回せば、手のひらに伝わって来る水気の多いぐんにょりした感触。

恐る恐る自分の手を見やれば、そこにはどろりとした……。




「ぎょわぁぁぁっ!? ち、ちっ!? ……って青色? 青い血? いやっ、これは……」

「あおっ」

「ひぐぅっ!? ……って、スライムさん? あれ、いつの間に? っていうかあたま欠けてるけどだいじょうぶなのか?」

「あお」


つぶらな瞳と、単純明快な鼻と口、その半ばが無残にもえぐられていた。

そのスプラッタな様相にハナは再度悲鳴を上げるも、そのスライムは短いカタコトな言葉を発しつつハナににじり寄ってくる。


どうやら、手に持っている彼女のものらしきからだの一部を返してくれ、とのことらしい。

何とはなしに意思疎通できることがわかったハナは、恐る恐るゼリー状のものをお返しすると。

よく見たらほんの僅かばかり海色がかっているスライムはすぐにそれにとっついて。

にゅるんと融合し、みるみるうちに元の姿……の四分の三ほどのサイズになってしまったが。

気づけばつぶらな瞳が可愛らしい、どこからどう見ても由緒正しき【ウルガヴ】の尖兵、スライムの姿を取り戻していて。



「あお」

「えっ? なになに……ぼくはわるいすらいむじゃないよ? あー、うん。そんなこと見ればわかるけど」

「あお……」

「ええと、仲間? ボクの従属魔精霊になってくれるの?」



じぃーっと仲間になりたそうに見つめられたから。

ついにはボクにも父さまみたいに(ハナの父が最初に契約、仲間にしたのは二匹のスライムだったらしい)、偉大なる万魔のハレム王のはじめの一歩が踏み出せるのかと。

うきうきで魔精球(魔物や魔精霊と契約する時に、何故か投げつけて使うマジックアイテムで、従属魔精霊の終の棲家にもなる)を取り出すと。



「あお」

「あ、ちょっと待つのだぁっ」


スライムは、やっぱりちょっと普通と違う気がしなくもないそんな一言を残して。

ぬるりと背中を向けて、ぴょいんと跳ねると。

実は先へ先へと続いていたらしい洞窟めいた奥へとハナを誘うように飛んでいく……。



     (第52話につづく)








次回は、10月12日更新予定です。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ