第46話、内なる世界に引っ込むどころか離脱していても戻ってきちゃう
Girls SIDE
「正真正銘本物のお姫様にそう言ってもらえて嬉しいです。『夜を駆けるもの』の時は、代々の……母様を真似るようにして、男性のように振舞っていましたが、今は兄様の妹としてここにいますからね」
そんな兄に劣らない、恥ずかしくない自分でありたい。
マニカが言いたいのは、つまりはそう言うことなのだろう。
ハナやミィカも、きょうだいがいないので、その感覚がイマイチ分からない部分もあったが。
言葉通りマニカは、マーズに相当入れ込んでいるというか、大好きな感じがひしひしと伝わってくる。
ミィカとしては、あのげぼ……変態が、そんなすごいものなのかと思わずにはいられなかった。
むしろマニカと並び立てば、美女と魔獣どころか、世にも恐ろしい魔王が世界でも至高の美姫を拐いに来ているようにしか見えないなどとは。
やっぱりミィカの心の内だけにしまっておくことにして、三人はそのままそれぞれに宛てがわれし教室には向かわず、ハナたちが転校初日にも足を運んだ、『理事長室』へと連れ立って向かうことにする。
「こんなにも可愛いんだもの、ある程度は予測してたけど、やっぱりいつもとみんなの雰囲気違うなぁ」
「ふむ。マニカさんのあまりにあまりな美しさは、嫌われ姫様オーラすら打ち消す効果があるのでしょうか。マニカさんだけでなく、姫様もいつもより注目されています」
「もちろん、ミィカさんもね。でも、そうですか。これっていつもの様子とは違うんですね」
マニカ日がある時分……昼間にここへ来たのは初めてであるし、授業が始まる前の登校風景がいつもと様相が異なっていると気がつかなくても仕方がないことではあるのだが。
警戒する猫のようなハナと、マニカが言うように何故だかミィカにまで必要以上に視線が集まっている気がして。
実は引っ込み思案で慣れないミィカは、全身が痒くなって逃げ出したい感覚に襲われたが。
当のマニカは初めてのことであるはずなのに、随分と落ち着いていた。
ほぼほぼ引きこもりであったハナや、人の多いところで目立つのが嫌で、ボリューミーな髪とかが隠れ蓑になってくれそうなハナのもとで侍女をやっている部分もあるミィカと違って。
衆目……視線を浴びることに慣れていると言うか、マニカはあまり気にはしていないらしい。
やはりもしかしなくても、三人の中で一番お姫様っぽいのはマニカなのかもしれない。
ただ、スクールは建前上でなくても身分の差など無いものとして扱われる場所でもあって。
英雄、勇者某になりたいといった、ある意味我の強い者が多く集まってくる場所で。
普段から、直接的なものはないものの、ハナをからかってくる男子生徒数人が。
また新しい転入生かと。
最近多いな、と。
それにしても信じられないくらい美少女じゃね、だなんて。
口々にのたまいつつこちらへと近づいて来るのが分かって。
「……?」
とは言え結局のところ何だかんだで自身の規格外さに気づいていない様子のマニカは。
来るもの拒まずのスタンスで、何か御用なのでしょうかと首をかしげている。
その一方で、今度は何を言われるのかと。
ただでさえ細っこくて短い首を縮めるようにして身構えているハナを見て、ミィカは慌てて二人の前に立つ。
ミィカだって何度も言うが人見知りで、こういう事は本来向いていないのは自身でよくよく分かっているのだが。
不覚にも主を守る騎士みたいに、身体が勝手に動いてしまった、と言うのが正しいのだろう。
「……あれ? 兄様?」
しかし、マニカが不思議そうにそう呟いたタイミングで。
ミィカの密かな覚悟などお構いなしに、すぐそこまで来ていた男子生徒たちが、同じく何かに気づき雲の子を散らすがごとく三人から逃げるように離れていくのが分かる。
「ん? なんだ、どうしたのだ? ほんとにいつもよりもみんな、はなれてっちゃった」
「……え? 悪い虫? 追い払う? もう、兄様ってば大げさなんですから」
「ヘン……いえ、お兄さんがどこかにいるんですか?」
「あ、ごめんなさい。兄様が急に覚醒されたもので。どうやら私だけでなく、ミィカさんやハナさんも護るっておっしゃってます」
どうやらマニカは、会話するどころかその存在が内にいることすら気づいていなかったマーズと違って、
内なる世界にいて、覚醒していれば言葉交わさずとも、面と向かわずとも意思を伝えられる、やりとりができるらしい。
言われてみればほんの一瞬だけマニカの背後から。
魔人族もかくやといった【闇】の魔力が立ち上っているのがわかって……。
(第47話につづく)
次回は、9月19日更新予定です。