第45話、はばかることなきお姫様三人、新たなお話の始まりへ
GirlsSIDE
「ハナ、きょうだいいないからよくわからんけど、お兄ちゃんってもっと気安いものじゃないのだ?」
「そうですね、ハナさんの言う通りです。私も分かってはいるのですが、恐れ多いと言いますか、尊敬が先に立ってしまいまして」
「……尊敬、ね。立場が変わったって言うことは、正確には兄妹というよりレスト族などにみられる別人格同士なのでしょう? それはあくまでも同等であって、どっちが偉いとかどっちが上とか、ないと思うのだけど」
「あぁ、そっかあ。ミィカとマニカって、実はおんなじような種族じゃんか」
「なんと、そうだったのですか?」
「同じ……なのでしょうか。自身で制御できないモンスターを飼っている、と言う意味では同じかもしれませんが」
「違います、と否定できないのは確かですね……」
ミィカは、一度『代わって』しまえば理性も意思も飛んでしまうと言う意味で。
マニカは、兄の存在感的な意味でそう言っていて。
お互い苦労するわね、とばかりに笑い合う。
ミィカは、『エクゼリオ』と呼ばれる闇の魔精霊の頂点……根源と同名の一族である。
レスト族の血筋であるマニカとは別の意味合いで、その身の内に『もうひとりの自分』を秘めている。
ミィカの母は、その身の内に黄金に煌く竜を飼っていたというが。
ミィカの場合はもっと曖昧なもので、ある意味魔精霊、魔力そのものと言ってもよくて。
制御の効かない、下手すれば周りにも迷惑をかけてしまう、厄介なものだけれど。
今はそれも、ハナのおかげでどうにかこうにか何とかなっている。
故にこそ、ずっと一緒にいることを許されている。
その事に感謝はしているし、それ以上にハナのことが大好きで、離れたくないのは確かなのだが。
恐らくきっと、マーズに対して似たような感情を抱いているマニカのように。
その想いをけっして外に出すことはなくて。
「しかし、そっかぁ。リアータも言ってたけど、マーズとマニカってやっぱりいっしょだったんだな。だから契約人数、増えなかったのかぁ」
「すみません。正確にはごく最近まで兄様は私の存在に気づかれてはいなかったようなのです」
「あんなに派手に夜、活動してたのに?」
「兄様は一度眠りについてしまうと、よっぽどのことがなければ起きませんから。だからこそ、その間だけは好き勝手やらせてもらえたわけですけど」
美少女ばかりと契約して、父のようなは~れむパーティを形成するのが目標であるハナではあるが。
そんな父にもカムラルの者、マーズを頼るようにと言われていたこともあって。
マーズとも契約するつもり……していたつもりだったのだが。
どうやらマーズとマニカ、二人でセット扱いになっていたらしい。
だからこそ、ナイト……マニカと契約しても契約人数が増えなかったのだと改めて納得するハナ。
(最も、その事実に気づいたのも実は最近であったが)
「確かに彼奴……マニカのお兄さまって鈍感そうではありますね。でもまぁ、良かったじゃないですか。そんな彼に気づいてもらえて」
「ええ、そうですね。それもこれも二人のおかげです」
あんな変態と一心同体だなんて大変ねぇ、なんて。
からかうつもりだったのに、ミィカの口から出たのはそんな言葉で。
当然のごとく返ってきたのはミィカの方が恥ずかしくなるくらいの真っ直ぐなもので。
ミィカは、結局やっぱり視線を逸らし、誤魔化すように咳払いなんぞしつつ話題を変えることにする。
「そ、それで……ええと。お兄さまのかわりにかわってここへ来たと言うことは、とりあえず今日一日はスクールで過ごすわけですか?」
「あ、はい。初めは制服を着させてもらって、ハナさんやミィカさんたちと登校できればいいかなって思っていたのですけど。体験学習ができるようにと、兄様に取り計らっていただいているようで。これから理事長様のところへ向かう予定なのです」
「理事長? あぁ、ボクたちも転校初日に会ったよ。たしかそうだ、ミィカのお母さんのお友達なんだよね」
「友……といいますか、片腕といいますか。まぁ、母ならきっとそう答えるでしょうが」
「うんうん、よっし! せっかくだからボクたちもついてゆくよ」
「あ、はい。よろしくお願いしますね」
たおやかに頷いて嬉しそうに微笑むマニカ。
『夜を駆けるもの』の時は性別不詳と言うより、芝居がかった男性めいた仕草、喋り方をしていたが。
今の、陽のもとのマニカは、実に少女らしかった。
生粋の箱入りであるハナや、実は王家の出のミィカとも勝るとも劣らないくらいにお姫様しているから。
ボクよりミィカよりよっぽどお姫様だなぁと。
思わずハナが呟くと。
マニカは少し照れたように、いっそう綺麗な笑みを深めていて……。
(第46話につづく)
次回は、9月14日更新予定です。