第44話、陽のもとに顕わになった彼女が、こんなにも眩しいだなんて
GirlsSIDE
まるで、十分によく躾けられた長年の付き合いのある愛玩動物であるかのように。
今も大人しく、ハナが手づからつくったご飯を、喧嘩することもなく仲良く食べている二匹であったが。
ミィカ曰く、よっぽど何か怖いことがあったらしく。
『姫様に付き従うこととなった現状が、極楽に見えるだけなのですから、あまり調子にのって大きな顔をしてはいけませんよ。……あっ、これは元からでしたね。すみません』
だなんて、姫に付き従い仕える者としての態度がまったくなっていないミィカが。
スクールへ登校する準備をしているはずのミィカが。
何だかちょっと慌てた様子でハナの元へと舞い戻ってきたのは。
二匹がたくさんご飯を食べてくれて落ち着いたらいっしょに散歩……と言う名の登校時間に差し掛かろうといった時分であった。
「大変です、姫様っ。早くも姫様のメインヒロインの座を奪わんとする超絶美少女が攻めてきましたっ」
「……ちょっと、なにいってるのかわかんないから、落ち着いて。ミィカ、美少女がなんだって? ボクの新しいは~れむメンバーに加わっても大丈夫な感じなんだろーね」
「いえ、残念ながら既に契約済みです。ただ、あまりにイメージが違うと言いますかなんと言えばいいのですかね。……とにかくもう登校の時間ですし、詳しいことは道中話します。少し早いですが出発いたしましょう」
契約してくれた美少女たちうちの誰かがわざわざハナたちに宛てがわれし部屋まで訪ねてきてくれたのだろうか。
ハナは鷹揚なふりをしてひとつ頷き、予定が変わったのでまた後で散歩するのだ、とばかりにバイとルーミをひと撫でして送還すると。
引っ張る勢いで急かしてくるミィカの後に続いて部屋を出る。
登校、と言ってもスクールの敷地内にある寮棟の一室からなので時間がかかるわけでもないのだが。
ミィカがそうやって急かすからには寮生、スクールの敷地内で暮らす美少女ではないのかもしれない。
契約した中で、そんな娘いたっけかなとハナが首をひねっていると。
部屋を出てすぐの渡り廊下のところに、ミィカが焦るのもわかる、完全無欠のどうしようもないくらいの美少女が、少しばかり所在なさげに立っているのが分かって。
「おぉっ!? 誰かと思ったらナイト、だよね? 仮面をつけていないからか、明るい時分からなのかな。なんだか全然違って見えるな」
「おはよう。いい朝だね、ハナさん。ミィカさんも。……うん、そうだね。今私は『夜を駆けるもの』として活動しているわけじゃないから、改めまして自己紹介を。私は、マニカ。マニカ・カムラル。陽の元にいる時はそう呼んでもらえると嬉しいな」
それでも、ナイトであると気がついたハナが言うように。
マニカと名乗った美少女は、ナイトの時とはほとんど別人と言ってもいい溌剌とした空気を纏っていた。
ミィカが眩しすぎて思わず動揺するわけである。
『夜を駆けるもの』の時には後ろ手に纏めていた不思議な三色(赤、金、茶)の髪も自然か感じで編みこまれ流していて。
印象を大きく変えているその瞳は変わらず溢れそうなほどに大きい、紅髄玉の輝きを放っていたが。
『夜を駆けるもの』であった時のような、見つめられるとどことなく不安になってくるような感覚もすっぱりさっぱり無くなっていて。
人好きすると言うか、実は人見知りの気のあるミィカが混乱してしまうのも仕方のないことだと言えて。
そんな彼女……マニカは、ユーライジアスクール指定の制服を身に纏っていた。
暗色の強いスカートとセーラー、新緑のマントがよくよく似合っている。
「……てっきり、あなたは夜にしか現れないものとばかり思っていましたが、もしかしなくてもあなたもスクールの生徒なのですか?」
「そーなのか? その割にはがっこで一度も会ったことも見たこともなかったけれども」
「いえ、この制服は兄様が用意してくれたものなのです。こうして朝、学校へ向かう権利とともに」
だからこうして登校するのも今日が初めてなのだと。
本当に嬉しそうに笑うものだから、やっぱりミィカが眩しいものを見るように瞳をすぼめて顔を逸らす。
陰日向に生きる私には、しんどいものがありますね、なんてこぼしてミィカは二人を先導するみたいに歩くことにして。
「にーさま? ない……じゃなかった、マニカってお兄ちゃんいたのか?」
「はい。マーズ・カムラルその人こそが私の兄様になります。兄様は私に名を与えてくれたばかりか、夜にしか在れない私に気を使っていただいて、立場を一時なれど変わってくださったのです」
故にマーズはスクールを休まないといけない旨を伝えることと。
こんな自分でも代わりに学んでもいいのかどうか。
加えてハナとミィカに用事があったからこうして今ここにいる、とのことで……。
(第45話につづく)
次回は、9月10日更新予定です。