第4話、早々と、タイトルとあらすじの回収していく方向で
そうして始まる、朝の集会。
マーズの所属する『火』組では。
終始、今日から通うであろう転入生の話題で持ちきりであった。
それは去年、なんの得にもならない男の転入生がクラスに来てしまったせいもあったのだろう。
学校長であるヒスイ・フェアブリッズのありがたいお言葉もそこそこに。
教頭のアオイ・フェアブリッズ(校長と教頭は、なんと双子の美女なのだ)の司会のもと、話題の人物二人、ハナとミィカが壇上に登るのが見える。
(……ん?)
二人とも同学年には見えないが、見目麗しい……可愛いのは確かで。
女生徒達からかわいい、なんて声が上がるのはよく分かるのだが。
好み云々はあるにせよ、騒がないはずはない男衆の様子がおかしい気がして、マーズは首を傾げる。
ざわついているのは確かだが、何処か引いているような……恐れているような。
マーズにとってあまり気分の良くない雰囲気が漂っていたのだ。
事実、陰気……夜の属性魔力が、ハナ達を包み込むように広がっていたのだが。
マーズはそれを見い出す事ができなかった。
単純に、紹介の始まる前から受けが悪そうな事にイライラしてきていて。
「ほう。マー坊が一目見て気に入るわけだ、まさに幼女」
「うーン。肉が足りないねェ。肉が。マーズクンの好みにはバッチリハマっているみたいだケド」
そんな気分を吹き飛ばしたのは、両脇に陣取る二人の悪友達だった。
突っ込みがわりに咄嗟に伸びた両手のひらが、二人の悪友……その首筋に伸びたが。
有象無象に奴らとは違い、そのからかいの空気はマーズのみに向いていて。
びくりとなる二人に、いろんな意味で苦笑していると。
さりげなくミィカに押しやられ、代表して一歩前に出たハナが、拡声魔導器を両手で抱えつつ口を開く。
「ゆ、ユーライジア・スクールのみなさんこんにちわ! ボクはサントスールの姫、ハーティカナ・S・サントスールといいますっ。こっちがメイドのミィカですっ」
「……よろしくお願いいたします」
マイペースな侍女さんはともかくとして、お姫様の方は何だか随分と気合が入りつつも緊張している様子だった。
一年前の自分はどうだったっけかとマーズが懐愁に浸っていると。
「今日はこの場を借りて、ボクがここに来た目的について話そうと思いますっ!」
更に気勢を上げ、ハナは『体育館』に集められた生徒たちを見渡した。
その一言を聞き、そう言えばその辺りの事は詳しく聞いていなかった事を思い出す。
従来の入学式から一ヶ月ほどしか経っていないので、単純に入学が遅れたのかと思いきや、ちゃんと理由があるらしい。
「ボクは……父上のような英雄になりたい。よって、ボクの『はーれむ』の一員になってくれる女の子を募集する! 種族は問わない! 他薦自薦も自由自在! ツンもクーも巨乳も貧乳もバッチこい! 連絡はセントレア二年水組まで!」
かと思ったら、賑やかしで有名な氷の王も真っ青の、俺様主人公のごとき欲望? をぶち上げてきたではないか。
瞬間、マーズの脳内に数多のツッコミ所で使いたいワードが浮かんできたが。
ミィカが後ろから差し出していたカンペが目に入り、何とか口に出すのは自重する。
恐らく、ハナは全ての言葉をしっかり理解した上で口にしたわけではないのだろう。
ハナの父と言えば、伝説の従霊道士と謳われる人物で、万魔の軍を従え意のままに操ったと言われている。
幽玄の魔国、サントスールの姫を娶り、名実とともに魔の王となった彼の周りには。
種族様々、多種多様の美女、美少女が付き従っていた、との事。
まさに、男の夢を体現した最強の一角で。
『万魔のハレム王』なんて二つ名を持っているわけだが。
『本当のところ』を知っているマーズとしては、複雑な部分はなくもなかった。
根付いたイメージは早々消せるものではないだろう。
とは言え、娘が……ハナがいる事を知ったのはつい最近だった。
その事を考えれば実際のところは違うって分かりそうなものだが、周りはそうもいかないようで。
女子の反応は主に二つ。
内容に関係なくハナの見た目の微笑ましさに好意的なもの。
何を言っているんだと呆れつつも受け入れなくはない、そんな雰囲気。
それだけを取れば、姫としてそれなりにカリスマがあるのかも、なんて纏められるのだが。
「ほっほう。本気だとするなら、オレ様に対する挑戦状かな」
「酒池肉林……素敵な響きダネ」
自意識過剰な見た目だけ悪魔と、自身に酔ってポーズなんぞ決めている筋肉ダルマはともかくとして。
その他大勢の男子生徒達の反応は、マーズの予想していたものとは真逆と言ってもよかった。
その突飛な、言わされた発言はともかく、普通女子が転入してくれば嬉しいはずなのに。
まるで去年のように……ヤローかよつまんねーな、なんて雰囲気以上のものが辺りに広がっている。
不満、敵意、排他的なもの。
去年は、国の至宝レベルの美少女が現れるかと思いきや、名前負けも甚だしい厳つい大男が現れたとあって、それはもう非難轟々だったわけだが。
仮にその名前負け男がハナと同じ発言をしていたら、巻き起こりそうな雰囲気が漂っていた。
悪辣な野次、言葉のナイフがハナを襲う。
意識して耳にしていたら拳が出ていただろうもの。
泣くかもしれないな、なんて思いハナを見ると、しかし彼女はそうなる事が分かっていたかのようにきっと前を見据え、立ち向かう様相で無い胸を精一杯反らしていた。
ハナとしては、天上天下唯我独尊で偉そうにしているつもりなのだろう。
健気に、背伸びからの上体反らしをしているようにしか見えないマーズにとってみれば、感心して萌えるのみであったが。
そんな中、氷のようなリアータとは似て非なる、つくりものめいた無表情を貫くミィカが、次のカンペをハナに見せる。
それにハナは一つ頷くと、何とか不敵に見えなくもない笑みを浮かべて、さっきまでよりも大きな声で叫んだ。
「手始めに、ユーライジアの至宝にして『夜を駆けるもの』などと言われている怪盗系美少女、マーズ・カムラルっ!! わがはーれむ要因、栄えある一人目となってもらうからな、かくごしろっ!」
「……って、オレかよっ! ……いやいやいやっ、オレじゃねーよっ!!」
「ノリツッコミ、なのでしょうか……?」
言うに事欠いてあまりにあまりな、ハナの言葉。
数十年ほど前ならユーライジア四王家の一つに、カムラルの至宝と呼ばれる絶世の美姫がいて。
スクールにも通っていたとの事なのでハナの言い分? も理解できない事もないし、それこそ野郎でそんな発言をしたのなら国単位で袋叩きにあってもおかしくない発言だっただろう。
だが、現在カムラルの字で呼ばれるのは。
一年前もその名を名乗り無駄に期待され全校を落胆に陥れた赤黒メッシュの魔人族めいた大男、ただ一人なのである。
その張本人が見た目にそぐわないとひた隠しにしてるつもりだったツッコミスキルを発動させて。
今までだんまりを決め込んでいた自由人メイドの呟きにより、その場が最悪な方向に転がっていく事だけは避けられたわけだが。
「おー、マーズ。そんなとこにいたのか~。……って、マーズ? カムラルの姫様とおんなじ名前なんだな、きぐぅだなぁ」
どうやら、ハナは素で気づいていなかったらしい。
「お、おぅ」
そんなハナに、現実を突きつけるのも酷と言うものだろう。
「姫様っ。なんと純粋なのでしょう」
そう言って後ろで悶えているメイドには、後で覚えてろよ、なんて思っていたが。
結果、男衆も気がそれたのか、それ以上負の感情が広がる事もなく。
しかし一方で、ハーティカナ・サントスールが色々な意味で要注意人物であると名が広まったのも確かで。
「ふん。なんだか面白になってきたじゃねーか」
「上等、マーズの筋肉は我のモノ。誰にも渡さないヨー」
「オイ。何が、誰のものだって?」
条件反射で拳を握ると、ダッシュで逃げていく筋肉ダルマ。
終業式終了の鐘が鳴ったのは、まさにその瞬間で。
(なんだか、去年よりめんどくせえ事になりそうだぜ)
そんな予感は、まず外れないだろう。
面倒くさいとぼやきつつも。
マーズの口元には、しっかりと強面不敵な笑みが浮かんでいて……。
(第5話につづく)
第5話は本日中に投稿いたします。