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第38話、見た目じゃなく行動で、赤オニの尋常ならざる妹だって解ってしまう




クロがエスコートするその道中。

いくつかのアクマらしき成れの果てとともに、地下ダンジョンの下見といった、今回の依頼をムロガと共に受けていた冒険者や先生たちを無事に発見することができて。


その際、出会う誰もが(特にリーダー的ポジションの、盗賊シーフの技能を持つ先生がまだ先生でなかった頃トラウマを刺激されたらしく、たいそう怯えていた)、筋骨隆々のげに恐ろしき相貌の、悪鬼羅刹のごとき存在のことを口にしていた。


それを一つ一つ耳にするたびに、やっぱりマーズで間違いなさそうだと確信する一方で。

大の大人が一様に震える様に、こっちの方が何だかいたたまれなくて恥ずかしくなってくるムロガであったが。





「……っ!」


数えて六つ目。

なんとはなしに半分きたか、なんて思っていたその瞬間である。

声にならない……と言うより表現しようのない、しかし甲高い小動物のそれと分かる鳴き声が木霊した。



「かぁっ」

「あぁっ! これ、ぜったいかわいいのだっ。マーズ、早まるなっ、早まるんじゃないぃぃっ」

「なんてこと。庭の鳥を絞めるがごとき仕打ちっ」



クロは何だか呆れたような鳴き声を上げていて。

マーズと出会ったばかりでよく知らない所もあるだろう二人は、それでもらしさ全開で何だか焦っているようだったが。


それなりに付き合いのあるムロガとしては。

マーズの悪鬼羅刹のごとき見た目が、ある一面においては見掛け倒しであることをちゃんと分かっていて。

よろしくなさそうな結果にはなろうはずがないと、内心で踏んでいたわけだが。





「……あっ」


ようやく折り返しであろう魔法陣のあった場所まで辿り着いて。

そこに広がる予想外にすぎる光景に、ムロガは思わず呆けたような声を上げてしまった。


クロもミィカも、ぴしりと固まっていて。

ハナなどは、熱にでもうかされたかのように「きれー」などと呟いている。



そこには、悪鬼によって打ち倒されたアクマの残骸どころか、魔人族というレッテル(実際間違ってはいないわけだが)を貼られてしまっていたマーズ自身の姿もなかった。

変わりにそこにいたのは、髪色が炎のごとき赤と黒と金、紅髄玉カーネリアンの瞳だけがマーズと同じと言えば同じの、全くもって似つかない、ある意味正反対な逆位置に存在しているとも言える……

思っていた以上に小さく儚い、息をのみ硬直するほどの、それこそ怖いくらいの美しさをもつ少女がいた。



一度会ったことのある、ハナやミィカですら呆然自失しているのは。

初めて会った時には、その心臓が止まるほどの美しさを隠すためだったのかと思える真白の仮面にてその相貌を隠していたからに他ならない。


一方でクロが、まるで人間みたいにぴしりと固まっているのは、主がそこにいると思ったら中身……内包する魔力は同じなのに、ガワがまったく違う様子であることに戸惑っていたのもあっただろうが。



同じく硬直して動けないでいたムロガは。

それでも彼女がすぐにマーズ自身が存在を否定していた、あるいは知らないでいたレスト族特有の、もう一つの魂……『もう一人の自分』である事に気づかされる。



初めて相対したのに、マーズの妹的存在であると理解できたのは。

その燃えるような赤と、漆黒の闇と見まごう黒と、太陽の花のごとき金……三色が絶妙に交じり合った、マーズと同じ特徴的にすぎる髪色故だろう。


この組み合わせは、マーズに近しい人物以外にはありえないだろう。

加えて、みんなが口々に語っていたように、ぱっと見マーズは悪鬼羅刹の如き佇まいではあるが。

その顔立ちは母親似であるらしく、よくよく見れば整っていることも理解していて。


マーズの母親と、小さい頃に会ったことがあるムロガにしてみれば、『慣れ』と言える程のものでもないが。

その場にいる誰よりも早く、素晴らしいものを目の当たりにした時の感動めいたものからくる硬直から脱することができて。




「あの、その。ええと、大丈夫?」

「……あぁ。すまないね。どうもありがとう。私としてもこちらからは手を出せなくてね。ほとほと参っていた所なんだ」

 

ただ。

その場に居合わせたみんなが思わず固まってしまったのは。

そう嘯く彼女の、音に響くがごとき美貌によるものだけではなかった。

 


そんな、知らず知らずのうちに震えが来るような美しさを持った美少女が。

あろうことか仰向けに寝っ転がっていて。

その暁の水平線のごとき胸元に、菫色にその身を染めた……ハナの言う可愛らしいうさぎ、『アルミラージ』の一種であろうモンスターを遊ばせていたからだ。


更によくよく見ると、そのうさぎは見た目にそぐわず凶暴なようで。

一向に艶を失うことのない彼女の髪を、がじがじ食んでいるのが見て取れる。

それでもあまり表情を動かさずされるがままになっているのは、特にダメージもないから好きにさせていると言うよりも。

やはり兄(恐らくきっと間違いないであろう)マーズと同じように可愛らしいものにとにかく弱いと言うか、目がないからなのだろう。


咄嗟にムロガが近づいて、首後ろとお尻の下を抱えるようにして少女からうさぎを離してやると。

ほとんど動かない表情のまま、しかし思っていた以上に饒舌なアルトの声でお礼が返ってくる。



「いや、別にいいですって。むしろこっちが助けられたみたいだしね。ええと、きみはマーズの妹さんでいいんだよね。はじめまして、僕はムロガ・フレンツ。お兄さんにお世話になってます」

「あぁ。君は、そうか。兄様の親友のムロガさんじゃないか。私のことを知っていてくれていたとはね。こちらこそはじめまして。現状では、『ナイト』と呼んでもらえると助かるね」



何かしら、自身の運命を悟ったからなのか。

あるいは、ムロガの小動物の扱い方がうまかったからなのか、ぴすぴすと早い呼吸を繰り返す……だけど随分と大人しくなってしまった『アルミラージ』。

おかげで自由になったらしい少女、ナイトは、相変わらずの芝居がかった口調のまま。

実にスマートに、真っ赤なマントつきのタキシードめいた男物の服にたくさんついてしまった抜け毛を払って。


何事もなかったかのように。

ナイトはすっと立ち上がって見せて……。



   (第39話につづく)








次回は、8月17日更新予定です。

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