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第37話、ポケットに入るモンスターなら軒並みゲットしたいと血が騒ぐ



興味のあるものには何でも食いつく好奇心の塊のようなハナは。

全くの無警戒……しかも止める暇もないほどの軽妙さで、スカークロウに近づいてゆく。



「かぁっ? か、かぁっ」

「きみ、思ったよりもふもじゃないかぁ。ちょっと吸わせてみ? ……お、なんだ。きみ、知ってる匂いがするぞ。イリィア? ……いや、マーズ? マーズの匂いがするっ!」



上げかけた手を、高めて解放しかけた魔力が不発に終わって。

大きな倦怠感がミィカを襲うくらいには、脱力せざるを得ない、二人のやりとり。



顔が大きいから、目もよく見えるし耳もよく聞こえるし、鼻もいい。

従霊道士の鏡のような、正に獣の嗅覚を持つハナの『カラス吸い』に。


成す術もなくそれを受け入れたスカークロウは、内包する魔力を抑えつつもおとなしく抵抗しなかった。

正しくそれは、護るべきものを分かっているようで、勘違いをしていたのは自分の方であると、ミィカが気づかされた時。



「……はっ。師匠! 師匠たちが近くにいるんだっ。アクマらしきものを倒したってこと、伝えないとっ」

「ん? ぴんちだったのはいいんちょだけじゃなかたのか。かわいい女の子はいるのか? せっかくだからいいんちょ、紹介してよ」

「あ、うん。試験前の会場の見回り依頼を、冒険者ギルドから受けたんだけど、みんな男の人だよ。先生もいるし、師匠はおじいちゃんだし」

「なぁーんだ。そっかぁ。それじゃあ仕方ない。まっくろユニコーンみたいなのがほかにもいるみたいだから、代わりにその子たちをげっとしよう」



律儀にハナに付き合っているムロガを見て、委員長らしく真面目に過ぎますね、なんて感想も出ようものだが。

あの中々に厄介そうだったアクマが一体でないと。

ハナが口にしたことでミィカもムロガもはっとなる。




「そう言えば、あの黒いユニコーン、魔法陣みたいな所から出てきたんだ。確かにそれって、ひとつじゃなかった。あれがすべて、アクマを封印しているものだとしたら……大変だっ」



ハナとクロの力もって、黒きユニコーンを撃退、捕獲したのはいいが。

ムロガが思い出す限り、それらが生まれているように見えた魔法陣は、十以上あって。

黒いユニコーンは何故か、執拗にムロガばかりを狙っていたが。

アクマがその一体ではないのならば、ムロガの魔法……冒険者の師匠であるドリン老や、たまたま同じ依頼をこなすこととなった先生たちや、冒険者たちにどんな危険が及んでいるのかも分からない。

ムロガは、初めてそのアクマを目の当たりにした時の恐れも忘れて師匠たちのいた方、魔法陣のあった場所へと駆け出していく。




「かぁっ」

「わわ、まって。ボクもボクもっ」

「なるほど。機動力、という意味では中々ではないですか、いいんちょも」


それに、当たり前だとでも言わんばかりにクロが。

かわいいのをつかまえるのはボクだとでも言わんばかりにハナが。

まったく、せわしないですね、なんてぼやきつつミィカが後に続いていって……。





                    ※




「師匠っ! ドリン師匠! 無事ですかっ」

「ムロガよ、何故戻って……! いや、しかし。お主も無事であったか」


はたして、ムロガの言う師匠のお爺さんは、すぐに見つかった。

相対したその瞬間は、叱責しかけたように見えたが、五体満足で戻ってきたということは、どうにかしてあの黒いユニコーンから逃れることに成功したのだと理解したのだろう。

そこにはただただかわいい孫を心配し、安堵するかのような感情が残るのみで。



そんなドリン老は、へたり込むかのように座り込んでいた。

賢者のごときドリン老の、あまりお目にかかったことのない姿に、ムロガが慌てて抱き起こさんと近づいていくと。

奥まって影になっていた、魔法陣のひとつがあった部屋に、未だ魔力の残滓が、禍々しい邪な靄を沸き立たせるナニカがあったのが分かる。



「これは……アクマの血? それに、鱗でしょうか。これを成したのはご老公で?」

「いや。それは、正しく悪鬼の化身のごとき体格をもった魔人族の男がやったのじゃ。わしに敵意はなかったし、一昔前と違い人に仇なすことはなくなったと聞くが……相対し身の縮む思いじゃったわい」

「魔人族、ですか」



悪鬼のよう、と聞いて。

見た目だけならマーズが思い浮かんで(大正解)。

まさかと思いつつも、人を超えた種族である魔人族であるならば、アクマを打ち倒すことも不可能じゃないだろうと納得するムロガ。

それに、何だかとても不満そうにかぁ、と鳴くクロがいたが。



「むうぅぅっ! しどいぃっ! たぶんこれ、かわいいやつだよっ。ドラゴンだったのに! ゲットできたかもしれないのにっ」


最早、大気に溶けんとしている鱗のひとつを拾い上げたハナの、拗ねたような怒ったような声でそれもかき消される。

そのまま、目に付いた美味しいものを何でも食べるかのごとき様子で、鱗の匂いを嗅ぎ始めたハナは、

眉間に皺を寄せつつ吟味するみたいな仕草を見せ、再びはっとなって顔を上げた。



「このニオイは、やっぱりマーズだなっ! マーズのやつめぇ。なんてひどいことをっ」

「なるほど。血も涙もない悪鬼、ですか。見た目だけなら言い得て妙ですね」

「うそ、ほんとにマーズなの? ……まぁ、マーズならアクマくらい余裕だろうけど」

「むぅ。その魔人族の男と、知り合いかの?」

「魔人族かどうかははっきりはしないんですけど、ハナさんがマーズだって言うのならきっとそうなんじゃないですかね。隣のクラスの友達です」

「そう、か。あれでスクールの生徒だと言うのか。いやはや、末恐ろしいものよの」



ドリン老は慄いてはいたが、どこか感心してもいて。

友達だと言う弟子……ムロガの言葉にどこかホッとしている節もあって。


それにムロガが首を傾げていると、今度はクロがかぁっと一声鳴いて、ばっさばっさと飛び上がり、そのままどこかへ飛んでいこうとして。

しばらくふよふよたゆたっていったところで唐突に振り返る。



「ん? マーズのいるところ、分かるのか? それじゃあ案内をたのもうか」


どうやらクロの言葉が分かるらしいハナは。

そう呟いたかと思うと、小さな身体をひいこらしながら駆け出しその後を追いかけていく。



「ふむ。やはり近くにいたようですねあの男は。しもべとして召喚する手間も省けたといったところですか」

「あ、待って二人とも! 師匠はここで休んでいてください。ちょっと行ってきます!」

「うむ。任せたぞい。……いやはや、しかし。年かのう。何をするにも億劫で仕方ないわい」



もちろん、ハナのメイドであるミィカもそれに続くから。

ムロガもドリン老に一声かけて。

彼女たちを追いかけていくこととなって……。



    (第38話に続く)









次回は、8月13日更新予定です。

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