第35話、仲間にするならかわいい娘だって言ったのに、なんだか珍しそうだから
GirlsSIDE
ハナは、初めての事とはいえ、当たり前のように使っていたが。
自分だけでなく、ハナに触れているものとともに、指定された場所に転移する、そのマジックアイテム……魔精球は。
おいそれと扱えるものではなく、彼女の血筋、その賜物であることに間違いはないが。
その効力は、マーズ……稀代の大魔法使いであるカムラルの一族の十八番である【リィリ・スローディン】にも劣らないどころか。
使役者、本人以外転移できないその魔法と比べても、かなり優秀で有用であると言えよう。
(だけれども、自覚がまったくないんですよねぇ。……まぁ、そこが姫様らしくて良いのですけど)
問題、とまではいかないが、ミィカがやきもきするのは。
それをあっさりやってのけるハナが、その凄さを理解していないところにあった。
ある意味大物、天性のものであるのは間違いなくて。
そんな姫様が、やっぱり目を離せなくて楽しい。
口にも表情にも出さぬまま、ミィカはそんなことを思いつつも、ハナのやっぱり小さくてむくむくの手を強く握り返すと。
何色ともつかない、恐らくは七色の光に包まれ、それがハナたちを中心に撒いて散りゆく頃。
今までいた場所と、明らかに違うと分かったのは。
地下の洞窟らしきひんやりとした空気と、土の匂いによってだった。
ぱっと見渡した限り、ユーライジアの地に来たばかりのハナたちにとって、知っている場所と言うのも少なかったが。
洞窟めいた、地下ダンジョンめいた場所がユーライジアのどのあたりであるのか、すぐには判断がつかなかった。
「おぉ~う。でっかいお馬さん。角が生えてる。ユニコーンかな? レアモンスターじゃないかっ」
故に、召喚契約の相手を求め視線を彷徨わせたが。
ハナが今すぐ『げっと』だぜ、とばかりにテンションが上がっていくので分かるように。
二人の目前には、いかにもな黒い魔力をたてがみから迸らせている、一角獣めいた魔物いるのが分かる。
ハナとしては、召喚契約をする相手は、強い人間……願わくばハナのことを邪険にしない可愛い女の子が第一ではあるのだが。
万魔の王とも称される父を持つ彼女の契約魔法は、魔物や魔精霊(実は厳密には違うのだが、同一視されることが多い)と契約をかわし、魔力などの代価をもって力を貸してもらうもので。
今でも襲いかかってきそうな……だけどミィカですら見た事のない希少な魔物をテイムすることの方が本来の契約魔法のあり方であるのだが。
ハナは生まれてから人型、神型の魔物、魔精霊たちをみんなまとめて仲良くしている父の姿をずっと見てきており、憧れていたので勘違いしている節があったのだ。
その勘違いにより、人族とも契約ができたのだから。
まったく姫様の規格外っぷりには呆れます、などと思いつつもミィカは、
気づけばもふもふしに飛び出していってしまいかねないハナを抑えるようにして、さりげなく前に立った。
「ヒヒヒヒヒィンッ!!(うっひょぉぉ! おいしそうなかわい子ちゃんが増えたぞぉぉっ! もう辛抱たまらーんっ!!)」
「うわわ、え? なに? おいしそう? たしかにおむすびみたいな顔ね、なんて言われたことあるけど……って、ちょっとひどくないっ!?」
ちんまい身体と相反して顔が大きいと揶揄されたことを思い出したのか、ウマ語? を理解していることにも気づかずに。
自分で言って自分で地団駄を踏むハナ。
一方で、その言動はアレだけど、簡単にはいかない、邪なるオーラをまとった黒きユニコーンの強さを感じ取ったミィカは。
はてさてどうするべきかと内心で悩み込んでいた。
封印されし力を解放するのはいいが、一見した限りでは相性が悪すぎる。
ここは、使えそうな下僕……じゃなかった、マーズ辺りを呼び出した方がいいのではないかとミィカが考えをまとめた頃。
ようやく突然の闖入者に対して反応した、契約相手……同じクラスのムロガ・フレンツが声を上げた。
(第36話につづく)
次回は、8月6日更新予定です。