第34話、もののけたちを繰り出すのではなく、自ら呼ばれて飛び込んでいくスタイル
マーズは、硬派な見た目とは裏腹にいつもな妄想をしつつ。
片手間に上級合成魔法を発動。
【風】と【時】の魔力を掛け合わせたそれは。
母方の一族が十八番にしていた、とっておきの魔法である。
しかし、普段からそれを目にしていて。
それが凄いものである感覚のあまりないマーズは、その大きに過ぎる肉体を、一瞬で魔素に変えてみせ、分厚く深く積り重なった土壁を、あっさりと超えてみせた。
それは、そもそも人など来られるはずもない地底深くの、アクマたちの棲み家に突然現れた時点で推して知るべし、なわけだが。
とにもかくにもランダムに指定した移動場所は、残ったアクマの気配の中でもとりわけ大きなもの……
サントスール地方に棲息すると言われる、体躯の長い龍と呼ぶべきドラゴンが。
好々爺が服を着て歩いている、賢者のお爺さんを今まさに取り込もうとしているその瞬間で。
「だらっしゃあぁっ!!」
「ひぇっ。ま、まま魔人族じゃとぉ!?」
例のごとく、ハイライトな一撃滅殺。
分かりやすすぎる弱点、逆鱗とその首を拳一つで粉砕したマーズの様は。
膨大な魔力を纏い、魔法陣の下からいきなり現れたことで、当たり前のように盛大に勘違いされてしまったらしい。
『護らねば』ならない対象ではなかったこともあり、そんなお爺さんに対してのマーズの反応はそっけなくも冷たかった。
と言うより、魔人族であるのは事実で勘違いでもなんでもないのである。
いいわけをするのも色々と面倒であるからして、逆にそれらしくコホォと人ならざる呼気を吐き出しただけで。
一瞥もなくその場を去っていってしまう。
「……ま、待つのじゃっ」
そう言われて待つやつなんぞきょうび存在しない、なんてツッコミつつも。
声をかけられたその相手が、例えばハナのような娘であったのならば、瞬殺で前言撤回するのだろうが。
それはともかく、時間がないから許してくれ、とばかりにマーズは【リィリ・スローディン】という名の最上級魔法を安売りして。
次々と単純作業を繰り返していったわけだが……。
やはり、強そうな順番で回っていったのがまずかったらしい。
面倒くさくなって数えなくなったが、恐らくは10体目。
マーズが魔法陣の上に降り立った時には既に手遅れであったのか、アクマたちの肉体となるニエらしきものの姿はなく。
淡い薄桃色した体毛の、つぶらすぎる瞳がマーズにとってみれば凶器以外の何者でもない、
いわゆるウサギ型のモンスター……『アルミラージ』の姿がそこにあって。
「ぴすぴすっ(ひゃっはぁ、さっそくさいしょのえものだぜぇ)」
「……ぐはぁっ!?」
モンスター語だろうがアクマ語だろうが、両親の教育の賜物である教養のおかげでばっちり理解できてしまうマーズは。
その、これでもかと言うくらいのギャップに、大層苦しめられることとなる。
SIDEOUT
※ ※ ※
Girls SIDE
それは、高貴なるものらしく。
自堕落にすぎる……休日とはいえお昼にも迫るかという時分の目覚めから、すぐのこと。
今日も今日とてミィカを引き連れどこへ遊びに行こうかと、ハナが悩んでいたそのタイミングである。
やはりリアータを呼んで、出会ったばかりのカムラルの姫……ナイトに会いに行こうか。
リアータは何故だかナイトとマーズをが同一人物(自身もそう思っていたのを棚に上げて)だと思い込んでいるようだし、マーズを誘っても面白いかもしれない。
なんて思っていると、いきなりのタイミングで。
ボリュームのありすぎるハナの亜麻色の髪を纏めていた髪留めが、赤く点滅をし始めたではないか。
「……あら。よかったですね、姫様。契約して初めてのお呼び出しのようですよ」
「なにっ、ほんとか!? やったぁ! 誰だろう?」
「せっかくなのですから、呼び出しに従ってみればいいんじゃないですか?」
「おぉ、うむ。それもそうだな。よし、ミィカよ! 支度をたのむぞっ」
「こんなこともあろうかと、準備は万端です」
「さすがミィカ。それじゃあさっそく向かおう!」
ちょっとした冒険セットを掲げてみせるミィカを、手放しで褒めたたえたハナは。
それじゃぁとばかりにそんなミィカの手を掴む。
そして、逆の手で髪留めを取り外すと、その真ん中に設えてある白いまん丸なボタンをぽちっと押し込んでみせた。
それは、黄金世代の……ハナの父親が愛用していた、『魔精球』と呼ばれるマジックアイテムを、アクセサリー化したものである。
本来は、ゲットした仲間たちの待機場所。
あるいは召喚するための媒体であったのだが、すっかり魔改造されて契約を交わした相手の方へ、逆に向かうこともできるスグレモノなのである。
ちなみに、常に一緒にいるミィカには契約の必要は無く、故郷のサントスールでは契約できた試しがなかったので、実はこれが初めての使用機会、でもあって。
マーズやリアータの他に、ここに来てクラスメイトの女子たちの何人かとも契約できたので、それが誰かはわからなかったが。
何せ正に一番目、最初の呼び出しである。
ハナは喜々として、ミィカのほっそりとした小さな手を掴むと。
その瞬間眩い七色の光に包まれて。
二人は忽然と、その場から姿を消していて……。
(第35話につづく)
次回は、8月3日更新予定です。