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第30話、黒の使い魔は存外余裕で、言葉を介し人となる事を考える



荷物持ちの子供は。

何故か、羽をばたばたさせていたクロを宥めあやすかのようにひっしと抱きしめる。



(いや、これは……)


それにより改めてクロ自身が、ここに来てその子供に吸い寄せられるようにして、近くにいた訳に気づかされた。



(主の気配、匂いがする。成る程。この人間も主が護るべき(マーキングしている)ひとり、か)


そもそもクロがここに来たのも。

この地下ダンジョンを下見し、見回りし、安全を確保せよ、と言うものであった。


それは、クロが半ば強引に取り付けた此度の命令であるからこそ、クロ自身のプライドをもってこなさなくてはならないもので。

荷物持ちの子供を危険から遠ざけることも、そんな主からの命令の範疇にしっかり入っているだろうことは間違いなくて。




「わわ、どうしたの?」


であるからこそ、早くこの場から離れねばと。

クロは飛び上がり大きめのフードを引っ張り上げ、安全な場所へと誘導しようとする。

こんな時こそ人間語を話せればと思うのは、後の祭りであろう。

先輩使い魔の白猫ならば言葉を介するどころか、人型にもなれるのに。


主とのコミュニケーションに支障がないからと後回しにしていたツケがここで出てしまった、と言う事なのだろう。

人型になれば先輩白猫のように主のベッドに潜り込んでも、その体格差により潰されなくて済むのだし。



しっかりと学び、成長せねばと。

クロが今の状況とはあまり関係のない事を考えていると。

それでも、クロが本能的に危険であると感じた広場の方から、確かに馬のいななきめいた遠吠えと。

それに動揺し、混乱し、あるいは何とか対処せんとする人間たちの騒ぎの声が聞こえてきた。

どうにも早速、戦いが始まってしまったらしい。




「待って! 僕だけ逃げるわけにはいかないよっ! 下見に来てるんだから、せめて脅威となるものの確認くらいは自分でしないとっ」


放出されている魔力を感じる限り、クロとは相性が悪く、それ以前に未だ成長途中のクロには到底敵わないであろうことは、すぐに気づけたわけだが。

荷物持ちの子供は、そんな実力差すら分からないのか、分かっていて尚のことなのか、

クロの羽の根本を掴んでその小さに過ぎる腕により抱え込んだかと思うと、あろうことか引き返そうとする始末。




危険があると分かっていて、敢えてそこに飛び込んで行ってしまう。

クロの少ないカラス生のみならず【エクゼリオ】の魔精霊であった時から一向に理解できない人間族の性質のようなものが、ポーターの子どもにも現れてしまったらしい。

うまいこと、飛んで逃げられないような所を掴まれ、羽をばたつかせて暴れるクロがそこにいたが。



成り行きとはいえ、クロと同じことを考えていた者が他にもいたらしい。

荷物持ちの子どもが間違って危険があるだろうこちらへ来ないように。

あるいはその向こうに現れた強者の狙いが少なくともこの場においてはポーターの子どもであると理解していたのか。

子どもが広場へ飛び出そうか、と言うタイミングで正しくもそれを阻止するかのように。

明らかに魔法によって創られた氷の壁(恐らく、【ルフローズ・ウォール】であろう)がせり上がり、天井まで塞いでいくのが分かる。



「じっ……師匠、どうしてっ!?」

「おらぁ、荷物持ちのガキがぁっ、てめぇはてめぇの仕事を考えろ! 戦闘が始まったらポーターは直にその場から退避が常識だろうがぁっ!」



恐らく、その魔法を使ったのは年経た魔法使いであったのだろう。

敵性へ対応していて余裕がないのか、その魔法使いからの返答はなかったが。

口が悪いようで律儀にも後々の指示をくれたのは、盗賊風の男で。



「……っ。す、すぐに人を呼んできますっ!」

「はっ。もたもたしてたらおれっちたちが倒しちまうからなっ」



傷の一つもない綺麗な顔を焦りで歪ませてながらも、そう言って今度こそクロの行きたかった方向へ駆け出していくポーターの子ども。

無意識か、無詠唱なのか、行動力のアップする魔法かスキルを使っていたようで。

クロが飛ぶより早いくらいの速度で駆け出していった……までは良かったのだが。





「……くぅっ。こんなにも広いなんてっ。どこまで続いてるんだっ」

「……っ」


言われて思い出すのは、どこからともなく聞こえてきた【ヴルック】属性の無機質な声。

『一度試練が始まったら、出ることは叶わない』、と言うもの。



(これは……もしや、ループしている?)


故にクロが、そう思い立った時。

今度こそはっきりと分かる、思っていた以上に野太い不快な馬のいななき。


今まで進んできた道の向こうに、微かに見える白いシルエット。

だんだんと、じわじわと、それがそれが近づいてきているのが分かって。



「まさか! もう来たってのかっ!? みんなはどうなったんだろう……」


はたして、為す術もなくやられてしまったのか。

それともあるいは、それら全てを振り切ってまで、ポーターのこどもを追ってきたのか。

無限ループつきの、隔離された場所へ誘い込まれてしまったのか。


クロに感じられるのは、ポーターのこどもと。

恐らく【セザール】と【ヴルック】の魔に長けた、馬型の魔獣の気配だけで……。



   (第31話につづく)








次回は、7月22日更新予定です。

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