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第3話、割愛の意味合いを間違ったままにしているのは仕様です



―――放課後にまた会って、学校案内をするのです。



しもべになるという名誉を受けないのであるのなら。

そんな約束をして、理事長室前で二人と別れたマーズは。

後を隣のクラスの担任に任せ、自分の教室へと向かっていた。




(二人とも後でって事は、別のクラスだって知ってたのか……)



まぁ、マーズのクラスである二年火カムラル組は、一年前に転入生がやってきたばかりなのである程度予想していた事ではあるのだが。

一年前の転入生は、名前負けしていた事もあって大層がっかり感が溢れていたらしい。

今回は二人とも前評判通りの美少女なので、少なくとも去年よりは盛り上がるのだろう。

 

 


「おつとめごくろ~、まーずっ!」


なんて自嘲めいた事を考えていると。

語尾ににゃ~が付きそうなくらい舌っ足らずな女の子の声が聞こえてきた。

しかもそれは、マーズのちょうど後頭部辺りに近づいてきているのが分かって。



「みゃふっ」


頭上に感じるはもふもふぬくぬくな毛玉の感触。

でろんと四肢を伸ばし、額に肉球が、うなじに尻尾が触れる。


まさに頭上のマスコットに相応しい風体の彼女の名はウィーカ・オカリー。

猫にして『魔精霊』と呼ばれる種の彼女らは、その身の色合いとともに属性は様々だが。

セザール】と【エクゼリオ】……本来相容れぬはずの白黒二色の毛色は、かなり珍しいらしい。


そのせいで攫われた、なんて事もあって。

たまたま助けたら本来の主人そっちのけでこの懐きようである。



「うにゃ~。すんすん。しらにゃいおにゃのこのニオイがふえてるぅ」

「おいこら。人聞きの悪い事を言うな。ひっぺがすぞ」


元々いて更に増えた、みたいな羨ましい言い方はやめてくれ、とばかりに頭上の彼女を捕まえる。


「んもぅ。どこさわってるの、へんたいーっ」

「どこって脇の下……」


更に外聞が悪いことに、『変態』は彼女がマーズを呼ぶ常套句だったりする。

口を塞ごうとすればじっと見つめられる、猫の彼女の猫目石。

口調の割に、あまりにも澄んでいて長時間持ってると確かに内蔵を痛めそうなくらい細いなと気づき(言い訳)、ぱっと手を離す。



そこまでの一連の流れは、まさに予定調和。

着地と同時にすぐさまマーズの元へ駆け寄ってきて、彼女からしてみれば山のような身体をよじ登り、

今度は左肩に陣取りでろーんと伸びをする。



「んで? てんにゅーせいの二人、どうだった?」

「あー。お姫様の方は見た目も性格もお姫様っぽかったな。お付きのメイドさんは自由って言うかなんて言うか……」

「そ〜いうことを聞いてるんじゃにゃいよ。かわいい、とか、そそる~、とか、イケル! とかだよ。ききたいのはー」



マーズ、そしてウィーカが在籍するクラス、二年火カムラル組。

クラスメイトに挨拶しつつ小声でそんなやり取りをする。

その度にうなじ周りを尻尾で叩いてきて、きゅっとしたい衝動に駆られるマーズだったが。

一年前は強面大柄のせいもあって挨拶すらままならなかった事を考えると、彼女が上手く間を取り持ってくれていると考えられるので無碍にもできない。



「この後朝集会で見るんだから自分で判断すればいいだろ」


正直に言えばへそ曲げるだろうがよ!

当然そんな本音も口にできず、そのままウィーカの席まで移動する。



「もう、つれにゃいにゃあー。……って、リア、おはよ~」

「おはよう、リアータ。今日もお守り頼むわ」



ウィーカに宛てがわれた席の隣には、背筋の良い冴えた気配を振りまく一人の少女がいた。

名を、リアータ・セザール。


長い、腰まで届くであろう空色の髪に、海の色の碧眼。

しなやかで細身だが背は高く、珍しいアーヴァインの魔精霊の血を引いており、ユーライジア・スクールより大分厳しいと言われるラルシータ・スクールの長……その娘であり、クラスの委員長もしているのだが。

高貴な家柄と氷のように動かない表情のせいか、マーズとは別の意味で畏怖され、敬遠されていた。


特に異性にはきつく、学校の男どもにとっては高嶺の花だと言えよう。

告白も多かったらしいが、容赦ない毒を吐いて再起不能にする事で有名らしい。



最も、一年前に来たばかりのマーズはまだその場面を目の当たりにした事がないので、とっつきにくいイメージはあまりなかった。

むしろ、月の魔精霊の血を引くものとしての特性や、ウィーカを溺愛している所ばかり目に付くので、正直気になる女の子の一人でもある。



「任されたわ」

「うにゃあ、ちょ、ちょっとー」


表情変わらずも、しっかりウィーカを懐に確保してご満悦(そのくらいは分かるようになった)なリアータによろしくと頼むと、マーズは自分の席……数少ない男友達の元へ向かい、挨拶を交わす。



飾りの魔神羽、ミエルフ・ローズ。

肉弾紳士、オクレイ・クマラ。


魔神の隠れ子、などと呼ばれているマーズにとって。

切っては切れない絆があったりなかったりする大切な友人達であるからして。

ここは彼らの事を泣く泣く割愛させてもらうことにしよう。


きっと彼らとの馴れ初めも、そのうち語られる事となるだろう……多分。



    (第4話につづく)









第4話は明日、更新予定です。

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