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第29話、闇より生まれし翼あるもの、主の好みし存在をロックオン



GirlsSIDE



クロ自身が思っていたほどには、時間がかかることもなく。

どんどんと下っていく道はしばらくすると終わりをむかえ、明らかに自然によって作られたものではない、天井が円形にくり抜かれた広い場所へとたどり着いた。




「おい、見ろ! この文様! 初めて見るぞっ。これは大発見かもしれねぇ!」


一番槍と言う言葉を示すがごとく、先行していた盗賊……レンジャー風の男を追い越して。

興奮した様子で叫んだのは、槍を持った国の兵士のような男であった。



「待て! 不用意に近づいて踏んだり触れたりするなよっ! 何が罠のスイッチになるか分かったもんじゃないんだからな!」


功を取られそうになって焦っているわけではないのだろうが。

円く広い場所の中央、方陣を作り上げるかのように描かれた動物……馬、よくよく見れば角があるからユニコーンであろうか……を。

今にも足蹴にしそうになっている槍の男を窘めるように、腰の曲がった盗賊(もちろん職業柄で、罠外しなどを得意とする)の男が叫ぶ。



「ユニコーン……あるいは、バイコーンですか? 随分古いもので色がわかりにくいですけど、これって何を意味するんでしょうか」

「まさか、ボス部屋か? ここから馬系のモンスターが召喚されるとか」

「……ふむ。その通りであるならば、授業や試験にも使えそうじゃの。確認できれば確認した後、スクールにもその旨伝えなければの」



興奮しつつも、盗賊風男の諌める言葉を聞き入れて大人しく引くあたり、槍男も冒険者としての基本はしっかりしているようだ。

すぐさまメガネの神経質そうなヒーラーの少年、大剣を携えたリーダーらしき男、好々爺然とした魔法使いの三人が、思ったよりもすぐに発見できたこの場をどうするのかと、話し合いを始める。



それにより、ポーターの仕事は今のところなさそうだと判断したのか。

外套を深くかぶり、一歩下がって他の5人とはいまいち馴染めていないようにも見えなくもない、肩や頭上を借りているその主は。

そのままクロを肩口に乗っけたまま、手持ち無沙汰と見せかけて、クロから見れば魔力も何も感じないただの絵、レリーフから視線を外し、辺りを物色、調べ始めたではないか。

 

 

それは、クロもここに来た時から気になっていた、かなり角度のきつい……一同がここに来るまで使っていた階段である。

薄黄土色のそれは、石のようなものでできているからして、【ガイアット】の魔力が含まれているのは分かるのだが。

鉱物でも混じっているのか、【ヴルック】属性の魔力を感じるのだ。

違和感があるというか、気になるのはその割合が多すぎることだろう。 



「……何か変なんだよなぁ。天然のダンジョンじゃないからかな」


クロにしか聞こえないくらいのその呟きは。

少なくとも、その階段が気になっているのは確かなようで。


実際に階段を使うつもりはなく、なんとなく近づいて。

一段目辺りの所へ踏み込んだ時であった。




―――『午の試練、開始します。試練の結果が出るまで、参加者が外に出る時はできません』。




「……っ!」

「な、なんだっ!?」

「ムー坊っ! 危険じゃ、下がれぃっ!」



その階段だけでなく、部屋全体が【ヴルック】の鈍色に染まっていく。

それは、どこからともなく発せられた【ヴルック】の魔精霊のような声のせいだろうか。



魔法使いの老人がポーターの人族に焦ったように呼びかけると、その瞬間。

低い重低音と軋みを立てて、階段が天井に収納されるかのようになくなっていくではないか。

魔法使いの誰何により、ポーターは間一髪下がることに成功し、巻き込まれ天井に挟まれることはなかったが。

当然、ほかのメンバーの注目を集めてしまって。



「おい、荷物持ちっ! 何しでかしやがった!」

「出口がなくなったぞ! おい、どうすんだよっ」

「あっ。……その、ごめんなさいっ。僕にも何が何だかっ。試練が始まるとは言ってましたけど」



ヴルック】の魔精霊らしき声が聞こえたのは、この場に何人いたことだろう。

ポーターの人族には聞こえていたようだが、盗賊風の男や、先走りぎみの槍使いに声を上げられ萎縮し自信がなくなったのか、後半の言葉は彼らに届くことはなく。



「いや、待てっ! 馬の描かれた陣が光ってるぞ!」

「これは……召喚の魔法陣、やはり何かがっ」



そんなポーターの人族に非が向けられるよりも早く。

セザール】……ではなく、やはり【ヴルック】の魔力を伴って、ついさっきまでただのレリーフであったはずの丸い円の中の馬の絵が、煌々と光り始める。



「……ふむ、12の根源と12の動物。関連付けたギミックといったところかの。果して蛇が出るか、龍が出るか」


恐らく、魔法使いの老人には【ヴルック】の魔精霊の声が聞こえていたのだろう。

剣士のリーダーが叫び、僧侶のメガネの青年が警戒するように杖を構え直した時。


クロは、【ガイアット】や【アーヴァイン】の見えざる魔力により引っ張られ沈み込むのを感じていた。

いや、それは階段から離れ、壁によりかかるような形となったポーターの人族が、その壁の支えを急に失って、そのまま壁の向こうへ倒れ込んだものによる結果であったのだろう。



「うわぁっ!?」

「ムー坊! ぬぅっ、なんじゃっ。道が急にいくつも開けよったぞ!」


甲高い悲鳴を上げる荷物持ちに対して。

クロは咄嗟に飛び上がり、背中を押すようにして倒れこむのを防いでいた。



「……っ、あっ。キミが助けてくれたの? ありがとう」


咄嗟ののことで、別に助けたくて助けたわけじゃないんだからねっ。

……などといった、主の好きそうな態度のつもりで、羽をばたつかせていたが。


転びかけたことで、フードが外れてしまったらしく。

思っていたより性別の分かりづらい、中性的な相貌が顕わになる。


恐らくは、スクールの生徒だろうが。

何とはなしにクロは、主が好みそうな。

護るべき対象のひとりであろうと、感じ取っていて……。



  (第30話につづく)








次回は、7月20日更新予定です。

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