第28話、エピソードその1、『ニッチなユニコーン』
そんなわけで、マッチポンプなおざなりで請け負った自身のテリトリーの徘徊……散歩であるが。
正しくもマスターの予想が当たっていたのか、今日の地下ダンジョンは、そこを徘徊する人やモンスターも含めて、何やら様相が異なっていた。
クロがねぐらにしている浅い階には、普段ならば浅ければ浅いほど多くの人がいるのだが。
ダンジョン改変により未踏破のルートがあぶり出されたらしく。
どうやらその場に人々は集まっているようで。
しかし同時に浅い階の天井に当たり前に存在するケブルバットや、塩水の染みた地面を練り歩くスライムたちの姿は見えなかった。
人のように危険を冒してまで危険のある場所へと近づいていくことはありえないだろうから。
恐らくはここから更に下の階層の、発見された未踏破の部分に何か危険があって、勘のいいモンスターたちは、地上へと逃げ出してしまったと見るべきなのだろう。
結局、自らも普通ではないクロは。
主の予言にも等しい言葉に倣い、徒党を組んで進みゆく人間たち……探索者、冒険者と呼ばれる者達の後をついて行く事にする。
何かの偶然、きっかけで突如出現したギルドにもスクールにも記録されていないというダンジョンにおける未踏破な横道。
そこに侵入したのは、六人ほどの冒険者であった。
年齢も職業も種族もまちまちで統一性はなく。
前の主のようにフードを被った魔法使い風の者がいれば、剣や槍などを手にした戦士風の男、
クロの苦手な【光】の魔力を、ほんの僅かばかり発している僧侶など。
クロからしてみれば、単一の魔力の色を持つものは一人もおらず、相変わらず人間族は区別の付きにくい斑色をしているなぁ、などと思っていた。
それは、魔力の質、色をもって個々の識別をする魔精霊、あるいは魔物の、人とは違う見方によるものであるが。
クロから見て区別がつかないのは、隠しているからなのか、特に何かが突出しているわけではない有象無象に見えるから、というのもある。
例えば、クロにとっては先輩であろう、怖いもの知らずにも主にくっついている事の多い白猫は。
分かりやすく【月】の紫色と、【光】の白が抜きん出ている。
その名の通り【闇】の黒一色に等しいクロにとってみれば、覿面に弱点をついてくる相手だと言えよう。
まぁ、それはお互いが言えることなのだろうが。
一応先輩であるし、マスターが使い魔たちのいざこざ、喧嘩をひどく嫌うので、そんな主の顔を立てる意味合いもあり、今の所は相反する属性を持つもの同士だが、何とかうまくやれているといった所だろうか。
ちなみに、畏怖と尊敬をもって従うべきと決めたマスターは、基本何も見えない……と言う意味で一線を画していた。
たまに怒ったり、魔法などを発動すると、一瞬だけ極彩色……あるいは何でもありな玉虫色が垣間見えることがあるのだが。
全属性の12色どころではないそれに、やはりマスターは人間の姿をとってはいるが、何もかも違うナニカであるとクロは判断していて。
12の神型の魔精霊をまとめる王(そんな存在がいるとは聞いた事がないが)であると正体を明かされても、驚かないであろう自身がクロにはあって……。
そんな事を考えつつ、思い出し身震いをしつつも。
人間ばかりのパーティの一団が、盗賊風の男を中心に、慎重に進み行き下っていくのに合わせて。
クロは羽を使う事もなく、足だけでついていっていた。
「……?」
最後尾にいた大きすぎる外套を纏ったポーター(荷物持ち)らしき、一団の中では一番小さい……年下であろう人間が。
そんなクロ(特に隠れているわけでもないので)を気にするようにその度に振り返ってくるが、当のクロはお構いなしである。
それは多分に、その羽の根元に巻いてある従属魔精霊を示すミサンガが効いているのだが。
その辺りの機微はある意味生まれたばかりにも等しいクロには分かりようもなく。
この先にきっと間違いなくあるであろう主の懸念材料を確認するために邁進するのみである。
とはいえ、いちいち振り返って気にされるのもだんだん面倒くさくはなってきたので。
これならばいちいち気にしなくてもいいだろうと言わんばかりに。
クロは文句がなかった事をいいことに。
ポーターの少年? のリュックの上にと、いつの間にやらちゃっかり居座っていて……。
(第29話につづく)
次回は、7月17日更新予定です。