表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

27/199

第27話、魔物も魔精霊も人間も、あるじの前では誰もが平等で



SIDE:unknown




―――スクール下町、地下ダンジョン。通称『ターミナル』。



果て無き過去において、ユーライジア・スクールとその姉妹校であるライルーダスクールまで、大海の遥か下を通って繋がっていたと言われるダンジョン。

現在は、大地の底を探査するガイアットの魔法などにより、大陸同士を繋ぐほどの地下道トンネルは存在していないことが分かっている。


だが、ユーライジアに伝わる古代語によれば、そのダンジョンが『大きな駅』と言う意味を表す名を持つ事もあり、

果て無き過去の生き字引き(本人の前では禁句中の禁句)によれば、細くて長い鉄の車……『列車』なるものが通っていたのは確からしい。


ユーライジア側の最深部にその名残りらしい線路などもあるが。

元々海の下ということで地盤が緩かったのか、崩落や流水などを繰り返し、正しく天然の……日毎変わる不思議なダンジョンと化しているので、未踏破の部分も多く、その真実の確認ができないのが実情であった。



そんなスクール地下ダンジョン、『ターミナル』は。

ユーライジア・スクール下町支部の、冒険者ギルドに所属するメンバーたちの探索が続く一方で。

比較的上階の、ダンジョン改変の止まっている地帯においては、スクールの生徒たちによる実践授業などが行われる場所でもあった。



現在、そんな上階……地下二階エリアに。

それなりに行き交うダンジョン踏破者、どこからともなく湧いて出てくる、魔精霊になれなかった意思ある力の塊……モンスターたちに混じって。

一匹の黒いカラスが……コウモリじゃあるまいし、などと少しばかり場違いであることを自覚しながら。

何かを探すかのように、あるいは特にあてもなくなく飛んで見て回っていた。



当然、ただのカラスではない。

現状、『スカー・クロウ』と呼ばれる闇属性の魔精霊……魔物である。


本来ならば、カラスであるからして洞窟やダンジョンではなく、比較的町に近い草原フィールドや、それこそ町中に居を構える、人間にとって脅威度は低くも、あまり歓迎はされないモンスターではあるのだが。

左羽根付け根にくくりつけられた、オレンジ色のミサンガ(スクール校章のタグつき)が自己主張をしており、少なくとも無闇矢鱈に冒険者たちに襲われることはないようであった。


何故ならそのミサンガは、スクール生徒の従属魔精霊……使いファミリアを示すものだからである。

新しきマスターに、『クロ』と名付けられた一匹のカラスは。

役目をねだることで来るべきスクールの生徒たちにおける実践授業の予習というか、危険なものがあったりしないか、どうか調べる役目を与えられていた。



とはいえそもそも、そのような事はスクールの教師がある程度行っているだろうし、元より人の多い場所である。

何か予期せぬことは起きれば、中止になるだけで、本来そこまで神経質になることはないのだが。

恐らくマスターが気を利かせたのだろう。



生まれし時から従属する【エクゼリオ】の魔精霊であったクロは。

生来のものとして何かを命令……与えられていなければ世界に溶け消えてしまう性質を持っている。

それならそれで、闇に消える精霊らしくて別によかったわけだが。

そのような事を口にしようものなら現主マスターがとても怖くなるので、結局しもべらしくクロは与えられた任に疑問を持つこともなく。

粛々と任を全うしているわけだが。



そんなマスター曰く。

何かが起こりそうな予感がするから、転ばぬ先の杖ならぬクロだな、とのことらしい。

果たしてそんな予感が当たるのかという気持ちもあったが、マスターのそんな予感が当たるということを身を以て体験しているクロにとってみれば。

それは予感というよりも、先読み、予知の類だと断じてもいいくらいであった。




生まれてすぐ、前のマスターに従属し、闇の魔精霊の特性の一つとも言える【呪い】そのものとなって。前主の命ずるままに罪のある人もない人もお構いなしに傷つける日々。


その時は、自分の仕打ちに対して思う心を正しく持ってはいなかったので、自らの行いに対し何か思う所はなかったが。

今のマスターにそれを止められ、滅せられ、再生……進化したことで、全てが180度変わってしまった。


過去の自分は一度死に、クロとなって甦って進化したことで。

意思を、心を持つようになり。

人を害するばかりであった自身を大いに後悔することとなる。



ある意味、そんな贖罪のために。

今こうしているわけだが。

そんな後悔すら、今となってはそれどころではないのは。

現マスターへの尽きない恐怖……いや、畏怖故だろう。



破壊と再生の力を持つらしい現マスター。

その神にも等しい力により、かつてのマスターとの従属契約は刹那にして塵芥となった。


ずっと悪事を行ってきた呪術師として、因果応報により滅せられたのならば、まだクロにも理解が及んだが。

現主は単純に旧主を滅する、殺すことはなかった。

いや、かつての悪の呪術師であった旧主は、完膚なきまでに破壊されて。

いないもの、別の存在へ取って変わったと言う意味では、あっているかもしれないが。



とにもかくにも言葉通り改心して生まれ変わってしまった元主は。

クロとの従属関係も忘れてしまって。

それでも自分の持つ呪術の才能を、記憶喪失ながらも活かし、占い師兼薬師として新たな人生を送っている。

元主人が、邪なるものの原因、根本ではないだろうから。

しばらくは見守っていく必要があるとは、現主マスターの言ではあるが。



それら全てを短い間に行ってしまえる現主マスターの存在が、主には申し訳なくも怖くて恐ろしくてたまらなかった。

もはや、善や悪などは超越した存在で。

高度な意思と思考を持つこととなった自分の存在が余計に強くそう思わせて。



だからこそ近くにいて、同じ家に暮らせば良いと言った厚意も、恐れ多くて受け取ることはできなかったから。

一応、飼い主である事を示す『ミサンガ』は付けたものの。

こうしてカラスらしくもなく、現在進行形で探索している、『ターミナル』と呼ばれるダンジョンを住処としていた。



……そう考えると、あの白いメス猫はすごいな。

などと、顔を合わせるたびに反発しあっているけれど、実は密かに感心している始末。


同時に、夜毎許可も得ず勝手に忍び込んでは、こちらが魂消る程の鳴き声を上げるあたり、

懲りない、学習能力のないやつだとも思ってはいるが……。



    (第28話につづく)








次回は、7月15日更新予定です。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ