第26話、純なる子どもたちはきっと騙せないから、いっそのこと開き直って
「いいんちょっ! いいんちょもハナと契約してくれるのか? 4番めくらいのめんばーだけど、だいじょぶ?」
「え? えと。ぼくも契約していいの?」
異性に少なからず忌避されている。
ハナ自身、それをわかっていて、むしろハナの方から避けている節があったのに。
お互いのパスを繋げることでプライベートにも干渉しかねない、召喚契約。
まさか自分にはないだろうと思っていたこともあって、ムロガだけでなくミィカまで何だか驚いたような顔をしていた。
「姫様、よろしいのですか? 委員長はこのようなお顔ですが、男だと言い張っているようですけれど」
「いやいや、面と向かってひどいなぁ。こんな顔っでどんな顔さ」
どうせ女顔だって言いたいのだろう。
思わずムロガがマーズ仕込みの突っ込みを返していると、何故だかハナはきょとん、として。
「え? いいんちょ、男の人だったのか? だってボク、いいんちょにくっついてもこわくないし、いやじゃないよ?」
そのまま伸びをして手を伸ばし、ムロガを確認するみたいにぺたぺた触り始めるハナ。
「うひゃっ。やっこい、くすぐったいってっ」
「あら、悲鳴まで女の子じゃないですか。声も高いし」
「……声変わり未だしてなくて、すみませんね」
ムロガは無意識に顎を引き、憮然としつつ声色を低める。
「っていうか、ハナさんマーズだって平気だったんでしょ? だったら実はあんまり関係ないんじゃないの?」
「いいんちょ、マーズのこと知ってるのか?」
「まぁね。結構有名人だし」
本当は、マーズが去年スクールに転入してくる前からの顔なじみの友人ではあるのだが。
そこまで言う必要があるかどうか。
などと思いつつも返す刀で答えると。
何故かハナは自分の頬を、その小さな手で抑えつつ、どことなく赤くなって照れたような顔をしてみせる。
「マーズはすごいぞ。ボクのまいなすおーらがきかなかったのだ。おとう……父上にこまったらカムラルのひとに助けてもらいなさいっていわれてたけど、その通りだったのだ」
マーズがいれば、会ったばかりでろくに触れ合ってもいないのにすごいもなにもあるかとツッコムところだが。
それについて言及できるものはこの場にはいなかったし、きっとハナもマーズの前ではそんなこと言わないのだろう。
実際問題マーズとしては、すごいと思われるようなことをした記憶はさっぱりであろう。
だからこそ、余計に、ハナはそう思っているのかもしれないが……。
「ふぅむ。真偽のほどはともかくとして、やはりあのへんた……しもべと委員長が同じ類のものだとは思えませんね。あれは平静なふりをして、いやらしい気配を隠そうともしませんでしたし」
「う~ん。そうかなぁ」
確かに硬派で巌のような見た目からすれば、オープンな方ではあるだろうが。
どちらかと言うと受身で紳士的なところがあるのは間違いない。
悪戯っ子というか、かまいたくなる雰囲気がミィカにはあるので、マーズばかりが悪いわけじゃないんじゃなかろうかとムロガは思ったが。思うだけで特に口には出さなかった。
「と、とにかくっ、いいんちょもけいやくしてくれるのか?」
「そうだねぇ。召喚って呼ばれる時、どんな感じなの? いつでもどこでもってのは、流石に大変なんじゃない?」
「おお、そうだったのだ。リアもルーもいリィも言わなかったから忘れてたけど、契約する時はきちんと説明しなさいって父上いってたのだ」
ミィカとハナは、背が小さいこともあって、一番前の席で。
教壇にいるムロガとこうして話していられたが、もうすぐ授業が始まることもあって、クルーシュトやイリィアなどは既に自分の席についていた。
そんな二人は、既にハナと契約を終えてしまったらしい。
契約について説明すら聞かずに安請け合いするなんて。
ぴんと姿勢を正しつつ予習しているクルーシュトと、視線が合って何故か偉そうにふんぞり返ってドヤ顔しているイリィアに。
お人好しというかやさしいというかちょろいというか、いろんなフレーズを胸にしまい込みつつも。
改めてもう授業が始まるし、先生もやってくるから。
お昼休みに細かいところを詰めようと告げるムロガとしては。
ハナとの召喚契約についてああだこうだ言いながらも、ちゃっかり受けるつもり満々でいた。
ただ、プライベート……トイレやお風呂の時のパスはどうなっているのか、知りたかっただけなのだから。
故に、その時はまだ、ムロガは知る由もなかったのだった。
なんとはなしに行ったその契約が。
ムロガの行く先を大きく変えてしまう、なんて事を……。
(第27話につづく)
次回は、7月12日更新予定です。




