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第2話、自由すぎるメイドは面白半分、残りは意味深長




「マジかぁぁっ!」



無意識からの条件反射のごとき、マーズ自身惚れ惚れするほどの駆け出し、滑り込み。

 

 

「むぎゅむっ」

「ぐおぉぉっ!?」


コースは頭から鳩尾。

見た目以上に軽くて焦ったが、それよりマーズを悶絶させたのは、脆さすら感じる彼女の小さすぎる肢体。

その柔らかさと、女の子の香りだった。

運がいいのか悪いのか、座って抱き合うような形になって。

彼女の長い髪が鼻先を掠めたせいもあったのだろうが、マーズ的には何だかお腹の空いてきそうな素敵な香りである。

 


そこまで考えて、これ以上は危険だと判断し、離れようとするもうまくいかない。

このどうしようもない正直者め!

マーズは内心で治らない癖の一種……一人ツッコミをかましていると、そこまで来てようやく自身の身に何が起こったのか理解したのだろう。

 


「みゅわわっ! だ、だいじょうぶか!」

 

これ以上密着してると大丈夫じゃなくなりそうです!

そんな内心のツッコミはともかくとして。

何より相手を気遣うその言葉にマーズは好感を持った。

 


「全く問題ないぞ。そっちこそ……ってええと」

「ハーティカナ・S・サントスールだっ。『ハナ』 と呼んでくれい」

「ああ、分かった。ハナの方こそ大丈夫だったか?」


例えマーズが間に合う事が分かっていたとしても、仕える者が主に……いや、主じゃなくてもダメだろう。

ハナを起こしてやり、そもそものきっかけとなった張本人を見咎めようとして、その姿が無い事に気づかされる。

 

 


「……おいぃぃっ!?」


抗議のツッコミとともにマーズが転がるように身体を投げ出したその瞬間だった。

今の今までマーズのいた所に、屋上のタイルが陥没するほどの踵落としが炸裂したのは。

 


「外しましたか。中々の動きです」

「みぃか? な、なにして……ふやぁっ」


ミィカと呼ばれたメイド少女は、全く持って悪びれずにぼそりと呟いた後。

文字通りマーズから大事な姫を奪い返すかのごとく再度ハナを抱え上げる。



「おいおいおいおいっ。自分でやっておいてその仕打ちはねーでしょうよ!」


あまりの理不尽さに自重していたツッコミ節も冴えてくる。

 

 

「……厭らしい気配がしました。姫様、あまり近寄ってはいけませんよ」

「え? で、でもっ」


しかし返ってきたのは、ぐうの音も出ないそんな一言で。

マーズとミィカを交互に見やり、赤くなって俯くハナにますますいたたまれない気持ちになった。

実の所踵落としの瞬間、青少年の性で見てしまった『水色』がさっきまであった理不尽への怒りを亡き者に変えてゆく……。


 

「あー。何て言うかスミマセンでしたっ」

「姫様の……いえ、私の忠実なるしもべとなるなら許しましょう」

「おぅ。そりゃあありがてぇ……てなるかぁぁ!」



ついには決別し捨てたはずのノリツッコミまで引き出される始末で。

すっかりペースを持って行かれてしまったマーズは気づかない。

 

一見自由すぎるメイド少女……ミィカ・エクゼリオの行動に深い意図があったという事を。


 


「何故です? 私のしもべになれるのですよ?」

 

これほど嬉しい事はないとばかりの強気にすましたミィカの態度。

その起伏のない小さな見た目とジト目は確かにマーズ的にはご褒美であった。

下僕となるのもそれほど悪い選択肢ではないかもしれない。

……なんてやっぱり内心で思っていたが。



「ご生憎、そんな趣味はねぇよ。それより理事長室だ。案内するからついてきてくれ。授業が始まっちまう」

「そうですか。残念です」


心なしか本気でがっかりしているような気がするのは、多分気のせいなんだろう。

無駄にかっこつけてしまった自分に問答しながら、かったるいふりして二人を促す。



「う、うむっ。じゃ、じゃあえすこーとたのむぞ」


意を決して恐る恐るびくびくと。

その時のハナを表す、いくつかの言葉。

差し出されたのは、赤ん坊のようなむくむくとした手のひらで。

確かに力加減を間違えれば大変な事になりそうな手だった。

 


(……うーん。まだ怖がられてるな。オレも修行が足りん)



そう言った力加減手加減は得意なんだけどなぁと思いつつも。

マーズはプルプルしてるハナの手を、内心通り手馴れた手つきで自然と取って見せて。

 

 

「それでは姫。案内いたしましょう」

「あ、ありがとう」

「……」

 

言われたマーズがびっくりするくらい心のこもった感謝の言葉。

同時に、どことなく嬉しそうなミィカの笑みが、何だか印象に残っていて……。



    (第3話につづく)









今日中にもう一話、更新いたします。

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