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第198話、EndingNo.8、『照らしていく、長いこの道の途中、迷わないように』⑲





万魔の王、娘、ハナ。

いずれはこの世界に溢れる謎を解き明かさんと。

ありとあらゆる『好みのタイプ』な仲間たちと契約し、頼もしくも美しいレギオンを率いんとする少女。


対するは、そんな『従霊道士』を極める(マスターする)ために避けては通れない、このユーライジアの世界に12柱しかいないと言われる……

いや、もしかしたらその中でも頂点に立つ、この世界を創り出した神にも等しい(あくまでもハナの推理です)であろう、【ヴァーレスト】の根源魔精霊を嘯く存在。



実際問題、風化極まる襤褸を纏いし、正しくも最強の一角との召喚契約……テイムしようと思うのならば。

未来は無限に広がるとはいえまだ幼く小さきハナやミィカだけでは到底叶わぬ相手であることは自明の理で(契約するためにある程度ダメージを与えるくらいなら何とかなりそうどころかな強者が見守っていることはとりあえず置いておく)。



サントスールに伝わる、『厄呪ダークサイド』なるもの背負い姫たちが、何かしら危機に陥った時に。

その名を呼ぶことでどこからともなくやってきて、色々助けたりお話したり魔法を使ってみせたりするのに、十分なシチュエーションであることは確かで。



今の今まで心の臓型の杖からとんと出られること、なかったのに。

名を呼ぶ声と、呼んで欲しいと願う歌が重なって。


気づいていないわけでもなかったが。

気づけばマーズは、そんな【ヴァーレスト】の根源魔精霊という名のラスボス? とハナ(すぐ後ろにミィカはいるが)が相対する、ちょうど間に挟まる形で、何だかものすごく久方ぶりに現世へと顕現したわけだが……。





「わわ……むむ……かか……」

「……っ」

「おぉー! ついに来たのだ、ま~ず! うん、確かにらすぼすさんの言う通りかわいいのだ。黒い髪なのは意外だったけども、らすぼすさんと親子だったんだねぇ。よぉく似てるのだ」

「ふむ。一瞬だけ嫌な予感はしていましたが気のせいでよかったです。確かに姫さまに並ぶほどのプリティさですね」



マーズが今の今までの鬱憤を晴らすがごとくツッコミの嵐をお見舞いするよりも早く。

初めにそんなマーズに声をかけてきたのは。

オブラート的表現に包まれて一見すると分からない風に見えたが。

まさかこんなところにまで顔を出してくるだなんて思ってもみなかった【ヴァーレスト】の根源魔精霊かどうかは定かではないが、アイの怪人などとも呼ばれていたごくごく近しい身内であった。


そんな身内……ぶっちゃけるも何もマーズの父は。

言うに事欠いて臆面もなく親バカに過ぎる恥ずかしいセリフをぶつけてくる。

それも、内々ですめば良かったのに。

すべての種族生き物といずれは心通じ合い、コミュニケーションが取れるようになるかもしれないハナには意味をなしていなくて。


詳らかにしなくてもいい余計なことをハナが口にするものだから。

何故か安堵しているミィカは置いておいても。

初めからそれらを分かっていたかのように、遠目で見守っているハナの両親やデロンのことにも気づいてしまって。




「おおっ……むむ……わわ……みみ……っ!?」


何より問題であったのは。

今の今まで泣かない赤オニやマニカに隠れて出てこられなかった(という体)さいごのマーズが。

ハナやミィカにもてはやされからかわれる容姿をしているらしいこと以上に。

かつての父の言葉を忘れず、父のためにさいごの自分自身を守り続けて。

今こうしてここにいることをよりにもよって当の本人に気づかれてしまって。

未だ何やら胡乱な役を止めないままにひどく動揺してぐるぐると回りだすところなんか、もう見ていられなくって。



「おらぁ! 呼び出しに応じてこの、オレさまがやってきてやったぜぇぇ!! おうおうおう! 何だかめっちゃ強そーなのがいんじゃねぇかよォ! 激ってきたぜぇぇあこらぁ! プリティにすぎる召喚主マスターさんよぉ! 早速命令たのまぁ! このオレさまに、魂消るほどの戦いを味あわせてくれよなぁーっ!!」


これはもう、いろいろ置いて勢いだけでこのいたたまれなくて小っ恥ずかしい状況を乗り切ろうとするしかなかったのである。

これ以上襤褸を……アイの怪人がボロを出す前に一緒になってこの場から逃げ出してしまおうと。

召喚されたばかりにあるまじき考えでいたからなのだろうか。

呼び出したハナはもちろん、ハナの背中に隠れていたミィカでさえもが、そんなマーズに近づいてくるではないか。



「む。希少なオレっ娘な部分にアレの残滓を感じますが。そんなことなどどうでもよくなるくらいに可愛いじゃないですか。親子で似ていると言われて、恥ずかしいのを誤魔化しているところなんてとっても面白……良いですね」

「んー? ま~ずってばらすぼすパパとばとるしたいのだ?」

「むむ……はは……?」

「うるせぇぇっ! なんかこう、むしゃくしゃするからぶっ潰すんだよぉ!」

「えぇ。そんな、すっごいお揃いさんで仲良さそうなのに?」

「親娘でペアルックですか。……確かに少々身につまされますね。そんな風に荒れてしまう気持ち、ちょっとわかります」



このユーライジアにおいて、一般的に【ヴァーレスト】の色と言えばその先を見通せる程に澄んだ空色であろう。

だが、【ヴァーレスト】に連なる一族の中でも、歌……『音系魔法』を得とする彼彼女らは、ユーライジアでは希少な黒色を持っていた。


ハナ自身それこそ父くらいにか見たことがなかった黒髪は、きっちり後ろ手にまとめられていて。

その瞳はうっすらと、だけど確かにその存在を主張する朱を含んだ黒色で。

その色に対するように、纏いしものは聖女もかくやといった真白の法衣。

その美貌は言わずもがな。

母方の血に埋もれないようにと注力してみても、10人とすれ違えば12人が振り向き二度見するであろう凄絶なる見目の良さは健在で。


あえてやっているわけではないのだが、マーズがそんな風に今までより増し増しに荒い口調をとっているのも、ミィカが言うように恥ずかしくて反抗する気持ちが出てきてしまっているから、なんて思われるのも仕方のないことなのだろう。



「……ってか、そんならどうして呼び出したのさぁ! 何か助けて欲しいことがあったんじゃないのかね!? 目の前のラスボスを退治して欲しいとか! このオレさまと契約したからには何かして欲しいこと、あったんだろう!?」


そして、思われるもなにもそれは純然たる事実であるのは確かであったから。

必死に見ない、聞かない考えないふりをしてハナにそう問いかけると。



「え? して欲しいこと、なのだ? ええと、うんと。なんだったっけ。……うん。ボクはどうにかして隠れちゃって出てきてくれなかったま~ずに出てきて欲しかっただけだから、もう目的は達成しているのだ」



長年の謎もおかげさまで解決したし。

どうもありがとうなのだ、と。

満面の笑みを浮かべつつ胸を反らし、頭の重さで後ろに倒れそうになっているハナ。

それも、すかさずミィカが支えたので、本当にマーズには特段やることはないらしく。




「……ああぁー、もおおっ! もう無理ぃ!」


そんなハナにすっかりきっかりやられ参ってしまって。

そんな情動に任せてミィカとハナをサンドイッチ……

何もかもどうでもよくなって、思い切り抱きしめてしまう。


「わぶぶっ。いきなりどうしたのだぁ」

「わかりますよ、ま~ずさん。実はわたしもハナ姫さまの面白可愛い笑顔にやられてしまったのです」

「あらら、みんな仲良しでいいネ~」

「はっ、きゃつがいつの間にかいませんよ! ほんとに風のように消えましたッ!」

「良かったね。マーズさん」

「……っ」



わぁぁぁ、もふもふぎゅっとしてやるおぁぁと。

叫びそうになって。

降ってくる言葉にはっとなって、顔を上げるマーズ。


すると確かに、今までそこにいたはずの風化しきった襤褸をまとった怪人の姿はそこにはなく。

マーズのように、いたたまれなくなって逃げ出した……

もうこの場にいなくても大丈夫だと。

他の世界を救いに帰っていったのだろう。



「大丈夫、なのだ。ボクってばきっとそのためにお顔も髪もでっかいからね」

「どうしました姫さま、そんな急に。姫様のフォルムが面白……デカ盛りおむすびなのは周知の事実ですが」

「ううぅ! ミィカってばひどいのだぁ~っ!」

「……っ!」


頭の上から聴こえてくる。

そんないつものどこかズレた二人のやりとり。


マーズはそんな二人に言葉にならずも感謝しつつ。

何故だか分かっているけれど、分かっていないふりをして。


ハナのもふもふふかふかの胸の中。

ミィカのむくむくの両手のひらに包まれ抱かれて。



泣かないはずの涙を、そぅっと零すのであった……。



  (第199話につづく)








次話で完結となります。

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