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第196話、EndingNo.8、『照らしていく、長いこの道の途中、迷わないように』⑰




「ふははーっ! よくぞきいてくれました、なのだっ。ボクがしたいこと聞きたいことはひとつ! お父さんは今、幸せですかっ!!」

(おおっ)

「さすが姫さま。そのようなことを伺うだなんて、そこに痺れる憧れるぅ」



もしかしなくても。

はじめからハナには、聞かなくてもいいこと、知らなくてもいいことを詳らかにする気など毛頭なかったのかもしれない。

マーズとミィカが、感嘆の声をあげる一方で。

ハナの両親はふたり揃ってぽかんと、虚を突かれたような顔をしていて。



「……うん。それはもちろんだよ。ナナさんとハナちゃん。ハナちゃんのお友達。そして、こんな私を支えてくれる、頼もしく愛おしい家族がいるからね。幸せも幸せ、大幸せさ」

「そっかぁ。何だかとってもうれしいのだ」

「くぅっ、ウチの父娘が尊すぎてあたしゃぁ泣きそうだヨ」


父は娘と同じように、胸を張って堂々と笑顔を見せ合っていて。

母はさっきまでの剣幕などどこえやら、感極まって涙ぐんでいる。

心の臓型の杖、その内なる世界にいるマーズには、何故だかその様子がよくよく見えていて。



(って、ジワジワ近づいてない? ハナ、ハナちゃんどういう事なのっ!?)

「……大丈夫、なのだ。きっとボクにはわからないけれど、ここへ来るまでお父さんもたいへんなこと、たくさんあったはずなのだ。だけど、ほら! こんなにも『らぶらぶ』でしあわせいっぱいなのだぁ! だから、だから出てきて欲しいのだぁ! ボクが色んなたいへんなことから守るから! ミィカも手伝ってくれるからぁ!!」

「仕方がないですねぇ。実はわたしもマ……両親に聞かされてはいましたからね。【カムラル】のお人好しでお節介な魔法少女のことは」

(むぅっ!? ツッコミたいけどマジじゃねぇかぁっ! 出ろって言われても出してくれないのはハナの方じゃぁ……っ)



マーズはそこまでツッコまないと言いながらも結局ツッコんで。

不意に反芻され思い起こされるのは、【カムラル】の魔法使いの少女の話、あるいは物語。




得意というよりは求められてその度に疲労困憊になりつつも使っていた、瞬間移動の魔法、【リィリ・スローディン】。

あまり覚えてはいなかったけれど。

幼き頃には使えなかったその魔法を。

マーズは今、多くの過保護な親たち、師匠の教えによって使うことができていて。


本当に出たいと思うのならば、それを使えばいいのだ。

でもそれをしなかったと言うことは。


杖の内なる世界で。

届きそうで届かないツッコミをしていれば、不可抗力でラッキーなとらぶるが訪れるかもしれない、などといった、表向きのいいわけというか、マーズにとってみればそれしかなかったのだけど。


内なる世界でこうしているうちに、ムキムキの赤オニめいた男になれば(マーズ的には事実そうなのだけが)。

その重い宿命を背負わずに済むと、逃げ隠れていたような気さえしてきてしまって。




(っていうかそうなってきちゃうと師匠たちに『娘をお願いします』って言われたのってみんなのためっていうよりも、結局のところはオレのためだったんじゃね?)


それこそ、マーズにはあまり自覚はないが。

それぞれが背負っていた問題や悩み事はたいてい解決してしまっていたので。

みんなを気にかけるといったお願い事……任務はもう十分に全うしているとも言えて。


改めて託されたその言葉をよくよく考えてみると。

マーズ自身の宿命使命を。

カムラル】の魔法使い、ユーライジアの至宝としての自分を思い出すように仕向けられているようにも思えてしまう。



(大丈夫ってそりゃこっちのセリフだよ。ほんとに大丈夫なのか? 何だかんだでめちゃめちゃ空気の読めない登場とか、しちゃわない?)


そんな、しょうもなく益体もない不安ですら、宿命背負うことの恐怖からすり替わっているようにも思えてしまって。

なんとはなしに、こういう時はどうしていたのか。

どうしてもらっていたっけ……なんて考えて。



(「そうだ……うん。歌だよ。いろいろ誤魔化せそうな出囃子っていえば歌じゃないか。ってかどうして今まで思い出さなかったんだろう)



今の今までずっと避けるようにして母方の血、カムラル家のことばかり考えていたからだろうか。

父方の血、魂入れ替わりし一族と言われる【ヴァーレスト】のもう一つの側面。

『音系魔法』とも呼ばれる、本当は致命的に空気の読めない一族でありながらも、そんなところをしっかりフォローしてきた、歌に魔力を乗せて森羅万象を巻き起こすもの。



特に、マーズの父はそれを得意にしていたから。

憧れや尊敬の念はあるものの、畏怖や遠慮もあって避けるというか考えないようにしていたのかもしれない。



そんな、耳にしたらさすがのアイの怪人も涙ちょちょ切れそうなことを考えつつも。


普通にしゃべっても届かないのであれば。

泣かない赤オニなムキムキなマーズがお気に召さないのであれば。


世界と世界を遮るかのような境界すら超えうる。

今の今までの【カムラル】の魔法使いとは一味違う、その特別な魔法を披露することにして……。



    (第197話につづく)








次回は、12月24日更新予定です。

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