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第195話、EndingNo.8、『照らしていく、長いこの道の途中、迷わないように』⑯





「……と、まぁ。私の知る限りではそんなところかな」

「かわいかったねェ。マーズちゃん」

「くっ、そんな幼少のみぎりの出会いだったなんて。幼馴染みの心友だなんてっ。ま、負けたっ……」

「ええっ? でもボクマーズちゃんに会った記憶ないよ?」

「ああ、うん。その時はまだ瞬間移動の魔法、【リィリ・スローディン】を覚えていなかったんじゃないかな」

「ハナちゃん、ちっちゃな頃はからだ弱かったからネ。『厄呪ダークサイド』もあって、すぐに風邪ひいちゃうから、お外にも出られなかったんだヨ」

(ちょいちょいちょーい!『ちゃん』に違和感! おぼえてぇぇ! 人違いの勘違いだって思いたいのに、何だか自信がなくなってきたよォ! リアクションがないのもういい加減しんどい! もうゴールしても……じゃなかった。出てっちゃってもいいよね?)

 


散々ばらツッコミ倒したまではよかったものの。

言われてみれば小さい頃にサントスール城へとやってきたのは覚えているけれど。

ハナに会う機会はなかったし、サントスール地方の太ももあたりまで深いスリットの入った民族衣装を、

チラ見と言う名のガン見をしていたら、気づかれて怒られる……かと思いきや、何やら勘違いしてくれたのをいいことに、そのまま堪能させてもらった記憶はあるが。

そんな、大人のお姉さんと約束事をした記憶なんて……。



(いや、まてよ。そもそもスクールにハナたちが転入してくるからって、気にかけてやって欲しいって言われたんじゃんよ。でもその割にはデロンさんのこと、ナナさんのお友達くらいにしか覚えてないんだよなぁ)


もしかして本当に、かつてのマーズは、父親の血なんぞどこかへいってしまって母親の血をダイレクトに継いでいて。

ユーライジアの至宝となるべく育てられていたのかもしれない。

そして、カムラルの一族、その乙女にありがちな世界への楔、礎、あるいは贄となる運命に拒否反応を示し、自分を巌のような体躯持ちし赤オニあるとご認識、あるいは妹のマニカにすべてを押し付け、知らないふりをしてきたのでは、なんて思うようになっていて……。




「それで、ハナちゃんはミィカちゃんを連れて彼女との契約を伝えにきたのかい?」

「ううん。ちがうのだ。だって契約なら会った時にもうしてるし」

(あれっ? それって誰よ? オレか? 泣かない赤オニなオレかい? うーんと、ハナたちが転入してきて会ってすぐにお願いされたんだっけか?)

「ふぅん。それなら今日は一体何か用事があったのかな?」

「うん。今日はお父さんがくれた謎の答え合わせにきたのだ!」



自信満々、まんまるおむすびドヤ顔のまま胸を反らしすハナを目の当たりにして。

ハナの父はその大きな黒の瞳をぱちりと瞬かせて。

ミィカは「え? 姫さまいつの間にそんな面白そうなことをお父様と?」などと驚いていて。

ナナは穏やかにそんな親子のやりとりを見守っていて。


何かハナちゃんに謎かけをしたんだっけ? とハナの両親が顔を見合わせ確認しつつその先を娘に促すと。

ハナは逸らしていた身体を戻しつつ勢い余って前のめりになりながらも口を開いた。




「ボクの推理によると! お父さんはは~れむ王にふさわしくあるよう、王さまらしくしているのだっ。だけど本当は、そうじゃないのだぁっ!」

「その呼び名呼ばれ方は……いや、うん。それはともかく友に家族になったみんなにふさわしくあろうとは思っていたね」

「そう! 【カムラル】の魔法使いの少女がその身に背負うたいへんなことを回避するかわりに、魔法でムキムキのよろいを身にまとって赤オニになったように、今のお父さんは仮の姿なんでしょう? 真の姿がべつにあるとボクは見たのだっ!」

「おぉ。それが真ならば何やらラスボスさんっぽい雰囲気ですね」

(……ってかハナ、やっぱりオレのツッコミ聞こえてね? オレがもしかしてって呟いたことまんま口にしてるように聞こえるんだけども)



今更なところはあったが。

ハナが不思議や謎を解明線とすることが好きなのを詳らかにしてこなかったのは。

一人で考えるのが好きというより、スクールへ転入してきた時には既にそんな万魔の王からの謎と向き合っていたからなのだろう。


ハナ自身、マーズがそうであったように。

万魔の王の違和感めいたものを感じ取っていて。

マーズと言う同じ穴の狢めいた証拠をもって、その謎を解き明かしに来たのかもしれなくて。



「さぁ、どうなのだお父さん! 【カムラル】の魔法使いさんとおんなじなのだ? ほんとうのすがたがあったりするのだ?」


いよいよ解答編だとばかりに更に勢い込むハナは。

正しくねずみに噛まれかねない猫のようで。


ミィカとマーズがほとんど同時にまずいのではなかろうかと。

みだりに知るべきじゃないのではないかと思った時。



ハナの父は、何かを覚悟したように。

やさしく頷いてみせたけれど。




「ハナちゃん。ハナちゃんはそのことを知ってどうしたいの?」


それよりも少しだけ先に。

今まで変わらぬ笑顔で見守っていたナナが、やはり変わらぬ笑顔のまま、だけどカタカナ語尾がなくなった状態でそう問いかける。



特段、威圧もなにもなく。

穏やかな口調であったのに。

ミィカもマーズも竦み上がっていたけれど。



それでもハナは。

相変わらずのまんまるおむすびドヤ顔で。

特に悩んだ様子もなく、間髪を置かずその問い掛けに答えるのであった……。



  (第196話につづく)








次回は、12月17日更新予定です。

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