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第194話、EndingNo.8、『照らしていく、長いこの道の途中、迷わないように』⑮




それは。

少し前の存在していなかったかもしれない記録、あるいは記憶。

 


複数の魂抱きし種族同士が奇跡的に結ばれることとなって。

さらなる奇跡が重なり合った結果。

ひとりの子どもが生まれた。


両親の名前、その一部を引き継ぐ形で名付けられた子どもは。

正しくも両親の特性、特徴を持ち合わせていて。


性別、性格、愛されし属性。

全てがそこにあるようでなく。

ひどく曖昧な存在であった。

 


様々な世界を股にかけ救い上げ、あるいはこのユーライジアの礎となって護ることに忙しい両親とともにいられたのは。

そんな子どもが物心つくくらいまでで。

異世界によっては子どもにとってみれば劣悪な環境のところもあり。


その影響もあってか、不安定で曖昧な存在のままそう変化ないことを憂い心配した両親が。

信頼できる仲間、友人に託し預けたからだ。



友たちのもとで生きる術を。

進むべき道を見い出すきっかけになればと考えていたのは確かで。

結果、世界有数の師匠を複数持つことになった子どもは。

曖昧どころかありとあらゆるものを学び吸収してユーライジアでは収まらないような、色々な意味で大物になってしまうわけだが。




それはともかくとして。

そんな子どもが初めにやってきたのは、万魔の王が治める幽玄の国サントスールで。

師事したのは、万魔の王と王妃、王の契約者たちであった。



なるべく多くの人と触れ合うことにより、自分というものを形成しやすくなるだろうといった考えもあったが。

その一方で、母方が代々引き継いできたサントスールの姫君との契約……約束事があって。

それを叶え果たしてもらいたい、といった想いもあったようで。







「お、【カムラル】のお嬢さん。おかえりなさい~。今日も走りに行ってきたのかな~」

「……」


万魔の王とナナ王妃、王の契約者たちに。

お世話になりますと挨拶を交わしてから。


サントスール城……結界内の片隅で暮らし始めた子ども。

マーズ・カムラルと呼ばれる子どもは、サントスールでの暮らしの中でも、それを父から言いつけられた修行の一環だと思っていたのか。

やはり感情が定まらずぶれていたからなのか、周りとのコミュニケーションも取らず、一人でいることが多かった。

今も、門番……結界番のデロンが声をかけてもそちらに僅かばかり視線を向けるばかりで返事はなく。




「それにしても可愛い、綺麗よね~。やっぱりお母さんに似たのかしら。国どころか世界すら傾けてしまいそうね」


もしかしたら。

その声が、理解できる言葉として耳に入っていなかったのかもしれない。

マーズは、それでも音としては伝わっていたのか、無表情ながらも警戒する小動物のような動きで、

ほぐしていた身体を止め、辺りを見回している。


デロンが、聞いて……聞こえていないのにも関わらず、思わずもらしたように。

子ども……マーズは幼いながらにとにかく美しかった。

膝裏ほどまで届きそうな髪は、燃えるような真紅に純黒の裏地。

そのこぼれそうなほどに大きな瞳も、紅髄玉と黒曜石が交じり合っていて。

いっそ見事なほどに両親の血を受け継いでいた。



「ふむ? こりゃぁワタシのままじゃ届かないみたいね」


しかし、その表情は氷のように固く、ほとんど動きを見せない。

感情どころか、五感すら曖昧であるらしいことに気づいたデロンは、一計を案じることにする。


『伏魔殿の住人』としての力。

その人の、心の割合を占めている大切な人物に化ける力。



「アー、あー、あっ。よし! マーズ! マーズちゃん! 聞こえてますか!」

「……っ!」


それは母の声。

小さな救済おぷしょんではなく。

数えるほどしか聞いたことのない母の声。



「お? 今度はちゃんと聞こえたようだね」

「……だれ?」

「ワタシ? ワタシはデロン。しがない門番さんだよ~」

「もんばんさん」

「そう、門番さん。マーズちゃんが走って帰ってきて、ここに戻ってくる時、扉を開けているのがワタシなのよ」

「とうめいなかべ。あけてくれてた? ありがとう」

「あら、気づいていたのね。お礼が言えて偉いわ」

「おれい、する。かむらる、よるをかけるもの」

「あらあら。そう言えばカムラルさんちの子だものね。……だったら、そうね。ナナちゃんたちにもう言われているかもしれないけれど、うちのお姫様、ハナちゃんに会ってあげて。まだお外に出られなくて、お城の高いところに閉じ込められちゃっているから」

「……うん。わかった」


それは、カムラル家とサントスール家の絆。

厄呪ダークサイド』に苦しんで、お城から出られない姫の退屈を紛らわせ、いつの日か外に出るための手伝いをする、【カムラル】の魔法使いのお話。


いずれ世界ユーライジアの至宝と呼ばれる彼女は、姫の声を聴いて。

結界を、お城の壁を。

得意の瞬間移動の魔法で飛び越えやってきたと言う。


頷くマーズは、やはり未だ表情が動くまでには至らなかったけれど。

どこか、決意に満ちた表情を浮かべているように、デロンには見えていて……。




                   ・

                   ・

                   ・



(うう、イイハナシダナー。……じゃぁねぇってばよおおおおオオォォっ!! ツッコミどころが多すぎるけど全部ツッコんでやるよぉ! まずはデロンさん! ハナパパの語りだけ聞いてると気の優しいお姉さんに見えるけど、オレの記憶じゃぁ扉の取っ手についてるおっかないお顔だったからそう言えば! そりゃぁスクール上がる前の幼児なら男も女もないでしょうに! 髪を伸ばしてたのだってママンが髪は魔力のもとだからって切っちゃダメっていうからさぁ! そもそもが表情筋が動かなかっただけで、内なる世界ではこの時から大騒ぎだったっての! っていうかオレこんな小さい時にハナに会ってったっての!? ぜんぜん記憶にないけど! そこんところどうなのハナパパさんよぉ!!)



そのような、マーズの魂の叫びも届いているようで届かない。

故に結局、そんなツッコミからの訴えが勘違いであるのかか真実なのかは。

それこそ、神のみぞ知る、といったところで……。



    (第195話につづく)









次回は、12月9日更新予定です。

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