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第193話、EndingNo.8、『照らしていく、長いこの道の途中、迷わないように』⑭




「あ、お母さーん! ただいまなのだーっ!」

「ご無沙汰しております」

「ハナちゃん、ミィカちゃんも。おかえり! 今日ふたりが帰ってくるってお父さん知ってたみたいで、朝からはりきって準備してるヨ」

(……うん。普通だな、ナナさん。流石に誰から構わず『ばとる』しようぜ!とはならないか)



ハナが召喚魔法にて、好みの可愛い子たちと契約……『げっと』したいと思っているのは万魔の王、ハナパパの影響であるのは間違いないが。

その際に、もしかしなくとも本当な必要ないかもしれない、『ばとる』をしたがっていたのは。

間違いなくハナの母、サントスールの幽霊姫、ナナの真似をしていたからであろう。



文字通りの、触れることすらかなわないような。

一見するとその身体が透けて大きなスリットの入った独特の夜着を通り越してその向こうが透けて見えそうな、幻めいた女性。

しかし、その実見た目とのギャップが激しいというか、ハナの物怖じしない明るさ朗らかさは、彼女を見て育ったということがよくわかって。


そんなナナ王妃は、かつて姫であった時から、この護られしお城を抜け出しては冒険を繰り返していたらしい。

それこそ、『ボクより強い子に会いにいく』といったフレーズがお決まりになるくらいには。


後々に聞くことによると。

腕試しをしたかったのは確かだけれど。

厄呪ダークサイド』と生まれつきの『幽体質』(そういう種族を祖に持っているらしい)を負ってまでスクールにも通うほどであったのは。

いつの日か出会った運命の人……その魂を持つ人を探し出し見つけ出したかったから、とのことで。


過去形であるからして、やはりその運命の相手は万魔の王……ハナパパであるのだろうと思いきや。

もう別に無理して探し求めることもないカラと、意味深長な言葉を残されたのが印象的で。




「準備なのだ? 今日来るって話してなかったのに」

「ええ。おやつの準備よ。ここ最近お菓子作りにはまっちゃったみたいでネ。ハナちゃんが結局来なくっても、毎日作ってるのヨ。だから私はもっぱら食べる係だけれど」

「む。それはメイドとして黙っていられませんね。早速お手伝いに参加させていただけなければ」

(そうかぁ。ハナパパはミィカのお師匠でもあるんだな。申し訳ないけどミィカんちは料理教えられる先輩いなさそうだしな)


そうは言いつつもハナパパの事であるから用意も準備も万端で。

出来上がったものを美味しくいただくことしか学び教わることはなさそうではあるが。

そう言って先行しようとするミィカとしては、やはりいよいよもってハナが秘密にしていた? 企みごとが気になるのだろう。

そのまましばらく立ち話になりそうであったのを、連れ立って競うように万魔の王の待つ玉座ではなく、屋根のない茶室……王の契約者のひとりが手づから作り上げたらしい中庭へと向かうこととなって。




「いらっしゃい、ミィカさん。ハナちゃんはおかえりなさい。お母さんお茶を淹れてもらってもいいかな」

「はーい。お任せヨ。ちょうどガイゼルの良い茶葉が入ったのヨ~」

「うっ、出遅れました。お客様として扱われてしまうとはっ」

「まぁまぁミィカ。お父さんのお菓子とお母さんのお茶、いただくだけでもメイドさんとしてレベルアップしちゃうのだ」

(うーん。いつ見ても違和感ないよなぁ。召喚魔法を置いておくとしても、徒手空拳扱わせたら世界一だろうに)



それこそ、まともに触れ合うことができるのはつれあいなナナ王妃くらいじゃぁなかろうか。

召喚術師、従霊道士本人が契約者なしに戦えないなどとは言わないが。

それこそ、契約者たちと一度戦って、その力を示したことで皆従っているのだと言われても違和感がないのは確かであった。


違和感というか、この世界からも浮いているようにも見えなくもないくらいちぐはぐなのは。やはりその見た目、佇まいであろう。

万魔のハレム王にしてハナの父は、濃紺を基調とした、ミィカの師匠と言われても信じざるを得ないエプロンドレスを着ていた。

お菓子作りを終えたばかりであるからなのか、いつもな流しているウェーヴのかかった純黒の長い髪は後ろ手にまとめられていて。

その濡れた大きな瞳は、黒曜石の輝きを放っている。


どうやらハナは、その髪質(色はナナ)と瞳を色濃く受け継いでいるらしい。

しかし、格闘術の師匠として幼き頃師事していたマーズから見ても、やっぱりハナはお父さん似なんだなぁとは言えなかった。

いや、確かに似ていると言えば似ているのだが、お察しの通り万魔の王が父であるとは中々に思えないからだ。



昔、それこそ世界の英雄『ステューデンツ』として活躍していた頃は。

見た目ほとんど変わらないとはいえ男らしさを確かに感じていたはずなのに。


その見た目のせいなのか。

あるいは、魂だけで内なる世界へと隔離されたことで、マーズにもその魂の在り方が。

万魔の王を親友だと言って憚らなかったガイアット王のように少しでも感じられるようになったからなのかもしれなくて。




「さて、と。早速だけれどハナちゃんとミィカちゃんがやってきた理由、聞いてもいいかな。

僕としては、そのハートの形の宝珠……その内なる世界にいる娘についてなのかなって思ってたんだけど」

「あ、やっぱり? またハナちゃんってばどこの誰を捕まえてきちゃったのカナって思てたんだよネ」

「肌身離さず持っていましたから怪しいとは思っていましたが。姫さまってばわたしを差し置いてどこのかわい娘ちゃん『げっと』されたのですか」

(ちょっとちょっとぉ! みんなして気づいてたのにスルーされてたのにも驚きだけど、何だかすっごいご機嫌で不穏ナカンチガイされてない!? ねぇっ!??)



森の匂いのする屋根のないサロン。

用意されたのは、果物たっぷりのパンケーキと、赤い宝石めいた色合いのお茶。

ミィカが味を覚える腹積もりであるのかゆっくりと。

大好物であるのか両手で食らう(と言いつつもしっかりナイフとフォークは使っている)勢いのハナを。

ハナの両親が温かく見守る図。


そんな中、変わらぬ笑顔のまま降ってくる言葉とやりとり。

聞いているとじわじわ不安がつのってくるのは。

よくよく考えてみたら、そううたってはいないものの、サントスール城内が男子禁制であったのような気がしたのもあったからで。



「……っ、ふははぁ。ばれちゃあしょうがあるめぇっ。そうなのだっ。お父さんが言ってた、こまったときに助けてくれる火の魔法使いの女の子を、『げっと』したのだぁっ……!」

(な、ぬあんだってぇぇっ!!?)



とりあえずのところそんな素直なリアクションはしたけれど。

なんとはなしに、そんな勘違い? がまかり通ってしまっているのを、ひしひしと感じ取っていて……。



   (第194話につづく)









次回は、12月2日更新予定です。

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